貴方の温もりとラベンダー
「…同じ?」
少年はまるで、夢の中にいるのか戸惑っている表情をして私を見つめている。
それもそうか。あんな境遇が2つ以上もあるだなんて、誰だって信じられないだろう。
かくいう私も最初は嘘だと思っていた。
浴びるのは罵詈雑言と、それと時々雨だけ。
ふるわれるのは暴力だけ。
体だけにしか傷を負っていない訳がなくて、正直なところ心もズタズタだった。
人々は良いところだけを切り取るが、切り取られた残りはどうなるのだろうか?
それは勿論、ボロボロで醜い汚い部分だけが不器用に残り続けるだけ。
私はその"切り取れる良いところ"がなく、ただただ腐りきった醜い部分を切って貼って繋げただけの存在だった。
でも。
拒絶しないで、ちゃんと私を見てくれる人…そう、運命の人と[漢字]邂逅[/漢字][ふりがな]かいこう[/ふりがな]してしまったのだ。
出会いはある年の5月。
確か…私が中学3年生の時、だったかな。
私は、学校に行く時間よりも家庭を優先したせいで中1の最後辺りからまともに学校に行けなくなった。
けれど中学校生活はある程度高校にも影響してくる。勿論出席日数も。
それを見兼ねた当時の担任が、私を精神病棟に入院させるという案を出した。
それに親は猛反対したが、それとは裏腹に私は一度親から離れる確実な理由が欲しいと考えていた。
その理由というのは正直少々強引でも何でも良くて、その時チャンスが巡ってきたのだ。
そこから私はというと、何かしら精神への害をきたしている人の真似事を続けた。
今まで通りの生活をしながら。
次第に親は、まるで軽蔑しているかのような目を向けてくるようになった。
「こんなの自分の子供じゃない」と信じたかったのだろう。
でも、ある日。痺れを切らしたのか、数年ぶりに親が付き添いつつ病院へ向かうことになった。
やっとか、と思っていたが、親曰く何度も行くのか聞いたのに大丈夫だと言った_らしい。
そんなの毒親あるあるの一種の記憶改ざんでしょ。
よく覚えていないけれど検査をし、下された私の病状は「解離性同一性障害」。
トラウマから自身を守るために別人格が交代して現れる、"精神障害の一種"。
そこからは覚えていない。
気付けば病院のベッドの上だった。
私はそこでやっと運命の出会いをしたのだ。
精神病棟のスペシャリスト、その名も[漢字]薫[/漢字][ふりがな]かおる[/ふりがな]さん。
私が入院した時にもう既に35か36歳だったことは覚えている。
薫さんからはいつもラベンダーの香りが仄かにしていて、どぎつい香水の匂いに慣れた私にとっては良い癒やしだった。
理由は「ラベンダーのいい匂いで傷ついた人たちを少しでも癒やしたいから」だそう。…つまりどういうことかというと、見事に策略にハマっていたということである。
でもそんなことを言っておきながら薫さんとの会話は1つしか覚えていない。
「霞ちゃん、調子はどう?」
「あ、先生!いい感じですよ」
「そっかそっか」
いつもならお薬を飲む前に聞いてくる言葉が出てきたことに対して、少しびっくりした。
「いま、お薬の時間じゃないですよね?どうしたんですか」
「ちょっと霞ちゃんにおまじないをかけようと思ってね。おまじない。」
…おまじない?と私は困惑した。
「…もう子供じゃないんですけど?確かにあと半年以上義務教育は残ってますけどね」
そんな私の話を聞かずに、薫さんが急に両手を差し伸べた。
「ん、ちょっと握ってみ」
「えなんでですか…?なんか…ヤダ……」
「酷くない?一応これでも医者だから衛生面は徹底してるよ?」
という茶番を挟みつつ、私は言われた通り手を握った。
抱いた感情は数多にあったはずだが、記憶に残っているのは「あったかいな」と「これに何の意味があるんだろう」だけ。
薫さんはそれを見兼ねたのか、手を握ったまま話し始めた。
「これはねー、人の温もりを忘れないおまじないだよ。人は色々なものを忘れていってしまうからね。」
忘れかけていた、人の温もり。
知っていなくても良いと思っていた温かさが…私の心を抱き締めていた。
_少年は少し微笑んだ後こう言った。
「…あの、ちょっと痛いです」
少年が何故微笑んだのかは、少年にしかわからない。下手したら少年すらわからないかもしれない。
けれどもその微笑みは、私にとって嬉しくてたまらないのだ。
_「そうだ。お姉さんが君みたいだった時どうやって抜け出したかっていう話でもするかい?」
少年はまるで、夢の中にいるのか戸惑っている表情をして私を見つめている。
それもそうか。あんな境遇が2つ以上もあるだなんて、誰だって信じられないだろう。
かくいう私も最初は嘘だと思っていた。
浴びるのは罵詈雑言と、それと時々雨だけ。
ふるわれるのは暴力だけ。
体だけにしか傷を負っていない訳がなくて、正直なところ心もズタズタだった。
人々は良いところだけを切り取るが、切り取られた残りはどうなるのだろうか?
それは勿論、ボロボロで醜い汚い部分だけが不器用に残り続けるだけ。
私はその"切り取れる良いところ"がなく、ただただ腐りきった醜い部分を切って貼って繋げただけの存在だった。
でも。
拒絶しないで、ちゃんと私を見てくれる人…そう、運命の人と[漢字]邂逅[/漢字][ふりがな]かいこう[/ふりがな]してしまったのだ。
出会いはある年の5月。
確か…私が中学3年生の時、だったかな。
私は、学校に行く時間よりも家庭を優先したせいで中1の最後辺りからまともに学校に行けなくなった。
けれど中学校生活はある程度高校にも影響してくる。勿論出席日数も。
それを見兼ねた当時の担任が、私を精神病棟に入院させるという案を出した。
それに親は猛反対したが、それとは裏腹に私は一度親から離れる確実な理由が欲しいと考えていた。
その理由というのは正直少々強引でも何でも良くて、その時チャンスが巡ってきたのだ。
そこから私はというと、何かしら精神への害をきたしている人の真似事を続けた。
今まで通りの生活をしながら。
次第に親は、まるで軽蔑しているかのような目を向けてくるようになった。
「こんなの自分の子供じゃない」と信じたかったのだろう。
でも、ある日。痺れを切らしたのか、数年ぶりに親が付き添いつつ病院へ向かうことになった。
やっとか、と思っていたが、親曰く何度も行くのか聞いたのに大丈夫だと言った_らしい。
そんなの毒親あるあるの一種の記憶改ざんでしょ。
よく覚えていないけれど検査をし、下された私の病状は「解離性同一性障害」。
トラウマから自身を守るために別人格が交代して現れる、"精神障害の一種"。
そこからは覚えていない。
気付けば病院のベッドの上だった。
私はそこでやっと運命の出会いをしたのだ。
精神病棟のスペシャリスト、その名も[漢字]薫[/漢字][ふりがな]かおる[/ふりがな]さん。
私が入院した時にもう既に35か36歳だったことは覚えている。
薫さんからはいつもラベンダーの香りが仄かにしていて、どぎつい香水の匂いに慣れた私にとっては良い癒やしだった。
理由は「ラベンダーのいい匂いで傷ついた人たちを少しでも癒やしたいから」だそう。…つまりどういうことかというと、見事に策略にハマっていたということである。
でもそんなことを言っておきながら薫さんとの会話は1つしか覚えていない。
「霞ちゃん、調子はどう?」
「あ、先生!いい感じですよ」
「そっかそっか」
いつもならお薬を飲む前に聞いてくる言葉が出てきたことに対して、少しびっくりした。
「いま、お薬の時間じゃないですよね?どうしたんですか」
「ちょっと霞ちゃんにおまじないをかけようと思ってね。おまじない。」
…おまじない?と私は困惑した。
「…もう子供じゃないんですけど?確かにあと半年以上義務教育は残ってますけどね」
そんな私の話を聞かずに、薫さんが急に両手を差し伸べた。
「ん、ちょっと握ってみ」
「えなんでですか…?なんか…ヤダ……」
「酷くない?一応これでも医者だから衛生面は徹底してるよ?」
という茶番を挟みつつ、私は言われた通り手を握った。
抱いた感情は数多にあったはずだが、記憶に残っているのは「あったかいな」と「これに何の意味があるんだろう」だけ。
薫さんはそれを見兼ねたのか、手を握ったまま話し始めた。
「これはねー、人の温もりを忘れないおまじないだよ。人は色々なものを忘れていってしまうからね。」
忘れかけていた、人の温もり。
知っていなくても良いと思っていた温かさが…私の心を抱き締めていた。
_少年は少し微笑んだ後こう言った。
「…あの、ちょっと痛いです」
少年が何故微笑んだのかは、少年にしかわからない。下手したら少年すらわからないかもしれない。
けれどもその微笑みは、私にとって嬉しくてたまらないのだ。
_「そうだ。お姉さんが君みたいだった時どうやって抜け出したかっていう話でもするかい?」
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