桜が綺麗ですね なんて
「_先輩!見てくださいよ!桜、綺麗ですね!」
あれは確か、1年前の今日と同じような日。
今日と同じような、桜が咲き誇る春の日のことだ。
その言葉を発したのは、僕より学年が1つ下の[漢字]木下[/漢字][ふりがな]きした[/ふりがな]。
綺麗な黒髪を2つにまとめていて、くっきりとした目。
"可愛らしい"と言われる女性の特徴を全て取り揃えた様な彼女は、俺のことを[漢字]佐々木[/漢字][ふりがな]ささき[/ふりがな]先輩と呼んでいた。
僕と彼女の接点は何1つなかったはずだが、何故だか彼女は僕に付き纏っていた。
ある夏の日には海に誘われ、ある冬の日には星を見に誘われ。…彼女の誘いを何度断ろうと思ったことか。
けれどそれを行動にうつせなかったのは、彼女のお願いの仕方にあるのだ。
「佐々木先輩!海行きましょ!いいですかありがとうございます早速行きましょう!」
彼女はいつもそう告げて、強引に僕の腕を引っ張る。
彼女のお願いの仕方にはまるで拒否権がないように思えてきてしまって、次第に彼女に慣れてくると断ろうと思わなくなった。
そして、ある春の日のことだ。段々と進級が近づくと、彼女はそわそわしだした。
最初は慣れるか心配に思っていたのかと考えていたが、彼女の目に映る無数の桜を見て気付いてしまった。
(あ、これ絶対桜見に行かされるな…)
どうして女性の心を感じ取れるようになってしまったのだろうか。思い当たる原因はただ1つ、そう。
木下だ。
…まあ女性の心がわからないよりはわかっていた方が良いだろうということで、僕は木下に聞いてみることにした。
「なあ、木下。今度桜でも見に行かないか?」
それを聞いた彼女は困惑と喜びが掛け合わさったような表情をして、普段より大きな声で言った。
「勿論です!」
「わあ…!咲いてる!!」
桜の並ぶ道を2人で歩きながら、彼女ははしゃいでいた。
「そりゃ、春なんだから。当たり前だろ」
僕はそう言いつつ、はしゃぐ彼女に対しての感情を顔に出さないように必死だった。
「…佐々木先輩、さっきから無表情ですけど…私とだと楽しくないですか、ね」
ふと彼女が口を開いた。
彼女の表情は、焦りと悲しみと_そんなものに溢れている気がする。
僕は勿論申し訳ないと思ったが、それよりも、普段とは少し違う木下に対しての恐怖が勝ってしまった。
だって、いつもは…僕のことを勝手につれてきては「楽しいですね!」って笑うじゃないか。
どうして急に?
_「どうしたんだ、急に。楽しくないわけがないじゃないか。」
恐怖と不安と、そういったマイナスな感情が入り組んでしまった。
「…いえ、なんでもないですよ。それよりもです!」
木下は、さっきまでの暗い暗い表情を変えて、こちらを向いた。
「先輩!見てくださいよ!桜、綺麗ですね!」
その声は、脆くて今でも壊れそうだった。
_気付いたら、そこから1年という月日が経っていた。
ここに辿り着く前に、君は、木下は、遠く遠くへ旅立った。
僕は、慣れない喪服を身に纏って今でも待っている。
「おい、佐々木なにやってんだよ。火葬場行くぞ」
目の前で散りゆく、痛い程美しい桜を掻き消す様に、知人の声が届く。
あぁ、そっか。本当にお別れなんだ。
涙は出なかった。_彼女に恨まれるだろうか。
車に揺られている間も、絶え間なく桜が咲いている。
そういえば、亡くなった人を思い出している時にその人の周りに花が降るなんて迷信があるけれど。
木下が言った、桜が綺麗ですねには"またここで逢おう"という意味があるという何処かの話があるけれど。
けれど_その偶然を、奇跡として抱き締められる余裕なんて僕にはなかった。
あれは確か、1年前の今日と同じような日。
今日と同じような、桜が咲き誇る春の日のことだ。
その言葉を発したのは、僕より学年が1つ下の[漢字]木下[/漢字][ふりがな]きした[/ふりがな]。
綺麗な黒髪を2つにまとめていて、くっきりとした目。
"可愛らしい"と言われる女性の特徴を全て取り揃えた様な彼女は、俺のことを[漢字]佐々木[/漢字][ふりがな]ささき[/ふりがな]先輩と呼んでいた。
僕と彼女の接点は何1つなかったはずだが、何故だか彼女は僕に付き纏っていた。
ある夏の日には海に誘われ、ある冬の日には星を見に誘われ。…彼女の誘いを何度断ろうと思ったことか。
けれどそれを行動にうつせなかったのは、彼女のお願いの仕方にあるのだ。
「佐々木先輩!海行きましょ!いいですかありがとうございます早速行きましょう!」
彼女はいつもそう告げて、強引に僕の腕を引っ張る。
彼女のお願いの仕方にはまるで拒否権がないように思えてきてしまって、次第に彼女に慣れてくると断ろうと思わなくなった。
そして、ある春の日のことだ。段々と進級が近づくと、彼女はそわそわしだした。
最初は慣れるか心配に思っていたのかと考えていたが、彼女の目に映る無数の桜を見て気付いてしまった。
(あ、これ絶対桜見に行かされるな…)
どうして女性の心を感じ取れるようになってしまったのだろうか。思い当たる原因はただ1つ、そう。
木下だ。
…まあ女性の心がわからないよりはわかっていた方が良いだろうということで、僕は木下に聞いてみることにした。
「なあ、木下。今度桜でも見に行かないか?」
それを聞いた彼女は困惑と喜びが掛け合わさったような表情をして、普段より大きな声で言った。
「勿論です!」
「わあ…!咲いてる!!」
桜の並ぶ道を2人で歩きながら、彼女ははしゃいでいた。
「そりゃ、春なんだから。当たり前だろ」
僕はそう言いつつ、はしゃぐ彼女に対しての感情を顔に出さないように必死だった。
「…佐々木先輩、さっきから無表情ですけど…私とだと楽しくないですか、ね」
ふと彼女が口を開いた。
彼女の表情は、焦りと悲しみと_そんなものに溢れている気がする。
僕は勿論申し訳ないと思ったが、それよりも、普段とは少し違う木下に対しての恐怖が勝ってしまった。
だって、いつもは…僕のことを勝手につれてきては「楽しいですね!」って笑うじゃないか。
どうして急に?
_「どうしたんだ、急に。楽しくないわけがないじゃないか。」
恐怖と不安と、そういったマイナスな感情が入り組んでしまった。
「…いえ、なんでもないですよ。それよりもです!」
木下は、さっきまでの暗い暗い表情を変えて、こちらを向いた。
「先輩!見てくださいよ!桜、綺麗ですね!」
その声は、脆くて今でも壊れそうだった。
_気付いたら、そこから1年という月日が経っていた。
ここに辿り着く前に、君は、木下は、遠く遠くへ旅立った。
僕は、慣れない喪服を身に纏って今でも待っている。
「おい、佐々木なにやってんだよ。火葬場行くぞ」
目の前で散りゆく、痛い程美しい桜を掻き消す様に、知人の声が届く。
あぁ、そっか。本当にお別れなんだ。
涙は出なかった。_彼女に恨まれるだろうか。
車に揺られている間も、絶え間なく桜が咲いている。
そういえば、亡くなった人を思い出している時にその人の周りに花が降るなんて迷信があるけれど。
木下が言った、桜が綺麗ですねには"またここで逢おう"という意味があるという何処かの話があるけれど。
けれど_その偶然を、奇跡として抱き締められる余裕なんて僕にはなかった。
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