肺が痛いほどに空気が凍てついた冬の朝、試衛館では竹刀をぶつける音が鳴り響いていた。竹刀で打ち合うのは藤堂平助と新月尊である。
「うおおおおぉ!平助を押してるぞ!」
「どんどん腕を上げますね……。」
新月の剣術の腕では無論沖田総司や永倉新八には相手にならないが、藤堂とはいい勝負だった。 新月の鋭い突きが藤堂の肩を捉えた。
「はい、負けた感想はいかがですか〜?」
「うるっせー沖田!」
「やぶれかぶれになるのは良くないですよ〜。」
「はああぁ、尊には負けない自信があったんだけどなあぁ。」
天然理心流は江戸時代の後半に生み出された、古武道の中でも新しい流派である。剣術の他に、柔術や棒術も含んでいる。初代近藤内蔵之助が江戸に道場を構え、二代目の近藤三助が多摩や相模、武蔵の一部にも広めたのだ。その周辺にはよく試衛館の面々で出稽古に出向いている。試衛館とは天然理心流の道場のことで、江戸にある。天然理心流第四代近藤勇が道場主であり、塾頭は沖田が務めている。
文久二(一八六二)年の年の暮れ、幕府はひろく浪士を募った。条件は体力、気力に優れていることや、忠誠心が厚いことだという。身分年齢問わず、罪を犯した者も、参加すれば許されるらしい。
浪士募集の知らせは試衛館の永倉の耳にも入った。
「俺が聞くに、幕府が浪士を募集しているらしい。身分年齢も問わないと来た。もし事実ならば、参加しようと思っていてなぁ。」
「どうしたんですか?珍しく真面目ですね。」
沖田の言う通りおよそいつもの永倉らしくない。
「それは置いといて、やるしかねぇな。」
一も二もなく土方歳三が話に飛びついた。
「うむ。幕府の役に立てる機会だ。身分も関係が無いのならば、俺たちでも参加できる。ぜひとも加わりたいものだ。」
近藤も同意した。
「あっははは。近藤先生が行くなら、僕も行きますよ。近藤先生の敵は僕が斬りますから。」
少し物騒だが、沖田も意見を同じくした。
そして、藤堂、山南敬助、原田左之助、井上源三郎の四人の意見も揃った。そして、
「近藤先生!私も連れて行ってください!まだ子供で、女で……荷物になる事はわかっています。でも、私は近藤先生に付いて行きたいです。お願いします!」
新月も近藤に頼み出た。
「尊を……そう言われてもまだ子供だしなあ。」
「じゃあ誰かの小姓として連れて行けばいいじゃないですか?」
「っ……。」
確かに沖田の言う通りだ。
だが、新月はもう試衛館の面々と「主人と使える者」という関係に戻りたくなかった。浪士組には他にも大勢の者が参加するだろう。前回より疎遠になってしまうのは目に見えている。
「私は……私は、浪士として参加したいです。」
「……。」
「———覚悟はできているのか?」
土方が新月に問う。
「……覚悟?」
「例えばだ、お前が浪士として参加する事になったら、できるだけ性別は隠した方がいい。今の自分を捨てる覚悟はあるのかって事だ。」
「あります」
「死ぬ覚悟は」
「あります!」
「人を殺す覚悟は!」
「———あります!」
「だってさ。近藤さん。こいつもかなりの実力がある。連れて行っても良いと俺は思うけどな。」
土方は賛同するようだ。
「なら良いだろう。試衛館からは九名が参加する。それで良いな。」
こうして試衛館の面々は浪士組に参加することになったのだ。
「ならば、まず浪士募集の真相を聞かねばなりませんね。攘夷を行うためというのも噂に過ぎませんし。」
という山南の提案で、浪士組の責任者とも言える松平上総介をたずねる事になった。
松平上総介は信望が厚い器量人の旗本で、浪士取扱に任命されている。浪人からは一種の崇拝で迎えられていた。近藤らが訪ねてきたと聞くと、直ちに客間へと通した。
「それで、今日はいかような用件であるか。」
松平上総介が用件をだずねる。
「私どもはこの度の浪士募集の本旨を伺いに訪ねた次第でございます。」
近藤が代表して用件を伝えると、松平上総介は一同に向けて浪士募集について話した。
「本旨は尊王攘夷に何ら変わりはござらん。しかし、この度公儀で募る浪士の一隊は、来春上洛する将軍の警護として京都へすすめられるべきものである。」
———など、松平上総介が説明すると、近藤は感激で体を震わし、
「私どもは浪士組にあい加わり、誰よりも忠義を尽くしましょう!」
と誓った。
そして、松平上総介は一同をあつく饗応した。喜びと感激が入り混じる一同は松平上総介と再会を約束して別れたのだった。
[水平線]
小説はこれで今回分は終わりですが、他説や注意点などの解説を入れようと思います!軽いネタバレも含みます。ご注意下さい。
[太字]序章の解説[/太字]
まず、近藤さんの道場、「試衛館」は正しくは「試衛場」です。「試衛館」が一般的なので使用させていただきました。
次に、沖田さんや主人公の喋り方「です」「ます」は江戸時代には水商売の女性の喋り方とされていましたが(諸説あり)、一切関係ありません。役づくりの中であって、むしろ喋り方はこの時代としては全員おかしいです。
次に、主人公が試衛館に出会った文久元年の段階での試衛館のメンバーですが、原田さんがいるのはおかしいです。浪士募集の直前に試衛館に来た、という説が有力です。また、井上さんが最初いないですね。あくまでもこの作品内ではあまり出てこないので、出せませんでした(すみませんすみませんすみません)。
[太字]今回の解説[/太字]
まず、主人公が藤堂さんに勝っちゃいましたが、藤堂さんもかなり強いです。主人公を基準に考えると頭おかしくなっちゃいます、はい。
次に、この小説の世界観がおかしいので、新選組に子供、女性が入れるとは僕は考えていません。ただ、のちの新徴組には女性はいたとされています。
「うおおおおぉ!平助を押してるぞ!」
「どんどん腕を上げますね……。」
新月の剣術の腕では無論沖田総司や永倉新八には相手にならないが、藤堂とはいい勝負だった。 新月の鋭い突きが藤堂の肩を捉えた。
「はい、負けた感想はいかがですか〜?」
「うるっせー沖田!」
「やぶれかぶれになるのは良くないですよ〜。」
「はああぁ、尊には負けない自信があったんだけどなあぁ。」
天然理心流は江戸時代の後半に生み出された、古武道の中でも新しい流派である。剣術の他に、柔術や棒術も含んでいる。初代近藤内蔵之助が江戸に道場を構え、二代目の近藤三助が多摩や相模、武蔵の一部にも広めたのだ。その周辺にはよく試衛館の面々で出稽古に出向いている。試衛館とは天然理心流の道場のことで、江戸にある。天然理心流第四代近藤勇が道場主であり、塾頭は沖田が務めている。
文久二(一八六二)年の年の暮れ、幕府はひろく浪士を募った。条件は体力、気力に優れていることや、忠誠心が厚いことだという。身分年齢問わず、罪を犯した者も、参加すれば許されるらしい。
浪士募集の知らせは試衛館の永倉の耳にも入った。
「俺が聞くに、幕府が浪士を募集しているらしい。身分年齢も問わないと来た。もし事実ならば、参加しようと思っていてなぁ。」
「どうしたんですか?珍しく真面目ですね。」
沖田の言う通りおよそいつもの永倉らしくない。
「それは置いといて、やるしかねぇな。」
一も二もなく土方歳三が話に飛びついた。
「うむ。幕府の役に立てる機会だ。身分も関係が無いのならば、俺たちでも参加できる。ぜひとも加わりたいものだ。」
近藤も同意した。
「あっははは。近藤先生が行くなら、僕も行きますよ。近藤先生の敵は僕が斬りますから。」
少し物騒だが、沖田も意見を同じくした。
そして、藤堂、山南敬助、原田左之助、井上源三郎の四人の意見も揃った。そして、
「近藤先生!私も連れて行ってください!まだ子供で、女で……荷物になる事はわかっています。でも、私は近藤先生に付いて行きたいです。お願いします!」
新月も近藤に頼み出た。
「尊を……そう言われてもまだ子供だしなあ。」
「じゃあ誰かの小姓として連れて行けばいいじゃないですか?」
「っ……。」
確かに沖田の言う通りだ。
だが、新月はもう試衛館の面々と「主人と使える者」という関係に戻りたくなかった。浪士組には他にも大勢の者が参加するだろう。前回より疎遠になってしまうのは目に見えている。
「私は……私は、浪士として参加したいです。」
「……。」
「———覚悟はできているのか?」
土方が新月に問う。
「……覚悟?」
「例えばだ、お前が浪士として参加する事になったら、できるだけ性別は隠した方がいい。今の自分を捨てる覚悟はあるのかって事だ。」
「あります」
「死ぬ覚悟は」
「あります!」
「人を殺す覚悟は!」
「———あります!」
「だってさ。近藤さん。こいつもかなりの実力がある。連れて行っても良いと俺は思うけどな。」
土方は賛同するようだ。
「なら良いだろう。試衛館からは九名が参加する。それで良いな。」
こうして試衛館の面々は浪士組に参加することになったのだ。
「ならば、まず浪士募集の真相を聞かねばなりませんね。攘夷を行うためというのも噂に過ぎませんし。」
という山南の提案で、浪士組の責任者とも言える松平上総介をたずねる事になった。
松平上総介は信望が厚い器量人の旗本で、浪士取扱に任命されている。浪人からは一種の崇拝で迎えられていた。近藤らが訪ねてきたと聞くと、直ちに客間へと通した。
「それで、今日はいかような用件であるか。」
松平上総介が用件をだずねる。
「私どもはこの度の浪士募集の本旨を伺いに訪ねた次第でございます。」
近藤が代表して用件を伝えると、松平上総介は一同に向けて浪士募集について話した。
「本旨は尊王攘夷に何ら変わりはござらん。しかし、この度公儀で募る浪士の一隊は、来春上洛する将軍の警護として京都へすすめられるべきものである。」
———など、松平上総介が説明すると、近藤は感激で体を震わし、
「私どもは浪士組にあい加わり、誰よりも忠義を尽くしましょう!」
と誓った。
そして、松平上総介は一同をあつく饗応した。喜びと感激が入り混じる一同は松平上総介と再会を約束して別れたのだった。
[水平線]
小説はこれで今回分は終わりですが、他説や注意点などの解説を入れようと思います!軽いネタバレも含みます。ご注意下さい。
[太字]序章の解説[/太字]
まず、近藤さんの道場、「試衛館」は正しくは「試衛場」です。「試衛館」が一般的なので使用させていただきました。
次に、沖田さんや主人公の喋り方「です」「ます」は江戸時代には水商売の女性の喋り方とされていましたが(諸説あり)、一切関係ありません。役づくりの中であって、むしろ喋り方はこの時代としては全員おかしいです。
次に、主人公が試衛館に出会った文久元年の段階での試衛館のメンバーですが、原田さんがいるのはおかしいです。浪士募集の直前に試衛館に来た、という説が有力です。また、井上さんが最初いないですね。あくまでもこの作品内ではあまり出てこないので、出せませんでした(すみませんすみませんすみません)。
[太字]今回の解説[/太字]
まず、主人公が藤堂さんに勝っちゃいましたが、藤堂さんもかなり強いです。主人公を基準に考えると頭おかしくなっちゃいます、はい。
次に、この小説の世界観がおかしいので、新選組に子供、女性が入れるとは僕は考えていません。ただ、のちの新徴組には女性はいたとされています。