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浅葱色の誠

#4

第一章 浪士組 三

 京に到着した浪士組は壬生村で分宿する事となった。近藤一行が泊まるのは八木源之丞宅、八木邸である。そこにはあの芹沢一派も同宿するのだが、特に関わる事もなく過ごした。
 翌日、浪士組の首魁である清河の演説があるとして、清河が宿する新徳寺に集まっていた。清河は出羽出身らしい色白な男だった。態度は堂々としており、挙動からして弁才があるように見える。尊攘を主張しながらも幕府を説得できた弁才が清河にはあるのだ。
「諸君」
清河が話し始めると、場は静まり返った。
「この話は我々一身の事であるからにして、各々の精神をもってして聞いていただきたい。この場には、勇猛な士らが集まっている。そこで今一度、今後我らが進むべき針路について考えたい。道を踏み外し乱臣の汚名を着る事なく、この勇士の血を何のために流すのか———」
清河の長い演説は教養のない者にとって理解できない弁舌だった。新月も必死に耳を傾けようとしているのだが、到底頭が追いつかないでいる。しかし、次の清河の言葉に一同は声をのんだ。
「我々が浪士組を結成した目的は、近々上洛する将軍警護と、攘夷の先駆になる事にあった。この事からも分かるように、我々は佐幕の立場で結成された。しかし、身の去就は自由である。私が幕府に浪士組を結成させるよう進言した本意は、天皇の兵となり、尊王攘夷の魁を担う事である。」
と清河は言ったのだ。この清河という浪士組の実質的な責任者は山岡や鵜殿といった浪士組の幹部にも話していなかったらしい。二人とも幕臣であるから、当然といえば当然であるのだが、最初から幕府を騙す前提で計画を進めていたのだ。さらに、既に朝廷に建白書も提出していて、話もついていると言うのだ。続けて清河は次なる驚きの発言をした。
「朝廷から江戸の市中警備の任務を賜った。朝廷の兵として江戸警護の任務を遂行するべく、我らはまもなく江戸へ戻る。」
————江戸へ戻る?本当に将軍警護という本来の任務を投げ出し、幕府を裏切るつもりか?
誰もの心中にそのような思いが浮かび上がった事だろう。
「異論がなければ解散する。」 
清河は周囲を、睨め付けるような視線で見渡した。結局清河以外誰も言葉を発する事なく集会は終了した。

 屯所に戻ってから、堰を切ったように全員が怒り出した。
「清河の野郎!最初から全員を、幕府すらも騙していたんだな!」
「江戸に戻るなど、では我らに当て振られていた将軍様の警護はどうなるのだ!」
「幕府を裏切るなど、天子様の御意向を愚弄するのに等しい。」
「なんだかよく分からないですけど、近藤先生を怒らせるのは許せませんね。」
土方、近藤、山南、沖田の順でそれぞれの感想を述べた。もっとも、沖田は他とは少し違うが。
永倉、藤堂、原田はよく分からない、といった様子でそれを眺めていた。当然新月もそちらよりだった。
「えーっと、山南さん、先程の内容を説明してもらえないですか。」
「そうですね。まず、清河は将軍警護と攘夷を目的として幕府に浪士組を結成させました。ですが、清河の本意は天子様のために働く事で、先程幕府を裏切ったのですよ。」
山南の清河の敬称はつい先程まで「清河先生」だったが、急に呼び捨てになっていた。
「ええ?幕臣の取扱役の方々も知らなかったのですか?」
「そのようです。それに、朝廷から賜った仕事として、今から江戸に戻る事になったのですよ。」
「そういう事ですか……それはやはり必ず従わなければいけないのですか?」
「そこが今話している問題点ですよ。どうにかして従わない方法を、ね。」
と、その時、近くの部屋でものすごい音がした。どうやら棚が勢いよく倒れたようだった。
「清河の野郎!俺を騙しおったな!」
土方の比にならない声量で誰かが叫んだ。声は芹沢のものだった。棚も芹沢が怒って倒したらしい。
「まさか、芹沢が同じ心情とはな。不思議な巡り合わせもあるものだ。」
と近藤がつぶやいた。すると、土方は何やら考え込み、
「近藤さん。芹沢と手を組めば、離脱が可能かもしれないぜ。」
と言った。
「歳、それは本当か?」
「ああ。流れとしてはこうなる————」
 土方は計画の全貌を語り出した。
 まず、明日にでも芹沢に自らの心情を伝え、離脱の計画を持ちかける。芹沢は本名を下村嗣治といい、水戸天狗党に属していた。力のある者を取り込めば有利になるだろうという考えだ。そして次の集会時に、浪士組全員の前で清河に反論する。その後、京都守護職である会津公の後ろ盾を得て独立すれば清河も連れ出せなくなるだろうというものだった。
「会津も引き込むとはな。さすがは歳だ。」
近藤は笑って許諾した。

 翌日。
 近藤一派と芹沢一派は対面していた。近藤が芹沢に計画を説明し、協力を申し出ているのだ。芹沢一派の最前列に座る芹沢は既に顔が赤かった。酒なのか怒りなのか分からないが。近藤が計画を語りだすと、最初は不機嫌そうだった芹沢だったが、計画を聞いている内に機嫌が良くなり、最終的には大笑いして、
「わっはっはっは、面白い、やってみようではないか。新見にもその旨を伝えておこう。」
と賛成してくれたのだった。

 そして、次の清河の演説がある二十九日、浪士組は再び新徳寺に集まった。
 清河は延々と、江戸に帰る事にあたっての心構えや、今、天皇を中心とした国を作る事の大切さを説いた。そして討幕の話が清河の口から出た時、芹沢と近藤はちらりと目を合わせ、
「幕府の多大な恩があって我々浪士組が結成されたというのに、幕府に歯向かうと申されるか!」
「幕府だけではない!我々までだまし、私兵にしようとしているのか!」
などと猛反発した。清河は、
「今は時間が無い。後に聞く故、外で待っておれ。」
と、派閥ごと芹沢と近藤を外に追い出した。
 演説が終わると、両派は新徳寺の座敷へと通された。
「今更幕府への恩などと申されるな。我々は既に朝廷の兵。朝廷に尽くすのみであるぞ。」
「いや、我々だけでも京に残り、将軍の警護を実施したい。」
「そう申されてもどうにもできぬ。浪士組には帰還命令が出されている。」
「では我らが浪士組から離脱し、別の組織として活動する次第です。」
「ふん、梃子でも動かぬ、といった様子だな。勝手にしろ。」
と、最終的に清河が吐き捨て、去ろうとした。だが、最後列に座る新月を目に留めると、
「異人か———?貴様まさか異人まで連れ込んだのか!?」
と、顔色を変えて怒り狂った。
「ち、違いますよ、私は異人ではありません。」
「それの髪色と目は生まれつきらしくてですね、異人ではないのでご安心を。」
「ふん、だといいがな。」
畳を蹴るようにして清河は立ちさった。何はともあれ、離脱の許可をもらった。あとは独立を成功させれば、京に残る事ができる。

 浪士組の出発予定日は三月三日だったが、離脱者をまとめるために三月十四日へ延期になった。清河は反対派は将来毒になると考えたのか、態々滞留者をまとめるよう殿内義雄、家里次郎、根岸友山に命じた。集まったのは近藤派、芹沢派を含め二十四人。芹沢派から順に、
 芹沢鴨、新見錦、平山五郎、平間重助、野口健司、佐伯又三郎
 近藤勇、土方歳三、沖田総司、山南敬助、永倉新八、藤堂平助、原田左之助、井上源三郎、新月尊
 殿内義雄、家里次郎、根岸友山、遠藤丈庵、清水吾一、鈴木長蔵、神代仁之助、粕谷新五郎、阿比留鋭三郎
となった。
 この二十四名は晴れて浪士組から離脱し、「壬生浪士組」としてここに発足した。職務内容は浪士組の建前の目的———将軍上洛に伴う市中警護である。屯所は八木邸と前川邸である。しかし、壬生を中心に人を集めていたのだが誰一人寄り付かず、「身ぼろ」と呼ばれる始末である。言われてみれば当たり前、隊士たちを見るとまともな身なりをしている人が殆どいないのだ。それもそのはず、壬生浪士組には金が無い。食べ物も、八木家から米を頂いているのもずっとというわけにはいかないのだ。
「これはますます会津藩への嘆願を進めなければ」
と、近藤は人を増やすのを諦め、会津への嘆願を早急に始めた。

作者メッセージ

  お久しぶりですね!白草四葉です!
 いつぶりでしょうか……新生活が始まってから忙しくて浮上すらしていませんでした(言い訳ではありませんよ?ええ)……
 絶筆だけはしたくないので、どうか見守っていてください!

 今回は、色々ありまして。文字数が多すぎて一部次に回しました!!だから中途半端なんです。スミマセン。
 次回、ご期待ですね……予定ですが、「あの人」が出てきます。
  では、また次回、お会いしましょう!

2025/06/16 11:06

白草四葉
ID:≫ 9sj/OpU7XAebA
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暴力表現歴史幕末新選組刀剣たまに甘い?

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