書けない私の物語
水沢由香はパソコンの画面を睨みつけ、ため息をついた。ディスプレイには、マイナーな小説投稿サイト、ストーリーハブの自分のページが表示されている。昨日アップした短編小説の閲覧数は、たったの7。コメントはゼロ。
由香は17歳、高校2年生。なんとなく小説を書いてみたいという夢は昔からあった。思い切って投稿してみたけど、こんな結果では心が折れそうになる。
「せっかく書いたのに……これじゃ意味ないよ」
由香はノートを閉じ、窓の外を見る。秋の終わり。ぽつぽつと雨が振り始め、冷たい風が木々を揺らしている。
ストーリーハブは大手サイトのノベルワールドとは違い、閲覧数が少なく、投稿者の大半は小中学生だ。誤字だらけの文章や脈絡のない物語が並び、コメント欄は「面白かった!」程度の簡単なものばかり。
由香の作品は、少なくとも文法は整っていて、ストーリーにも起承転結がある。自分ではそこそこ上手く書けたと思っていた。でも、見てもらわなければ意味がない。
大手サイトのノベルワールドなら、閲覧数は桁違いだ。だが、そこは化物たちの戦場。毎日3000字、5000字を投稿し続ける猛者たちがランキングを席巻している。
ファンタジー、恋愛、ミステリー――どの作品も、緻密なプロットとキラキラした文体で読者を魅了する。コメント欄は「神更新!」「続きが待ちきれない!」と熱狂で埋まる。
二次創作サイトも覗いてみたが、原作を大胆にアレンジした個性的な作品が人気で、読者の目は肥えている。そもそも原作そのものが面白いのだから、半端なものを出せば「展開が弱い」「キャラが薄い」と低評価で燃える。
「私なんかがノベルワールドに投稿したって、絶対埋もれるだけ……」
由香は椅子に沈み込む。書きたいという気持ちはある。でも、何を書きたいのかわからない。マイナーなサイトでは目立てるかもしれないが、こんな場所で書くのは負けた気がする。かといって、大手に挑む自信もない。
こんなことを考えている時点で、創作者として向いていないのではないか? 頭の中でぐるぐると渦を巻く不安が、由香を飲み込む。
週末、由香は親友の美月と学校帰りに喫茶店に寄った。木の温もりを感じる店内は、コーヒーの香りで満たされている。美月は明るく楽観的な性格で、いつも由香の重い話を軽やかに受け止めてくれる。
今日は、思い切って悩みを打ち明けることにした。
「美月、私、小説を書きたいってずっと思ってるんだけど……全然ダメなんだ。ストーリーハブに投稿しても、閲覧数7とかで誰も読んでくれない。ノベルワールドにはすごい人たちが山ほどいるし、私の書くものなんて誰も読まないよ。こんなんじゃ、作家になんてなれないよね……」
由香はカップを握りしめ、俯きながら話す。美月はケーキを頬張りながら、にっと笑った。
「由香、なんか考えすぎじゃない? 創作なんて、書きたいものがなければ書かなくていいんだよ。別にそれで死ぬわけじゃないんだしさ」
美月の軽い口調に、由香は少しムッとする。
「でも、書きたいって気持ちはあるんだよ! ただ……何をどう書けばいいのか、わからなくて。ストーリーハブでも全然反応ないし、ノベルワールドなんて怖すぎるし……」
美月はコーヒーを飲みながら、うんうんと頷く。
「うーん、わかるよ、その気持ち。私もたまに短編小説書くけどさ、なんか面白い作品読んだり、映画観たりしたときに、急に『これ書きたい!』って衝動が湧いてくるんだよね。例えば、この前、めっちゃ感動するファンタジー読んだんだけどさ。 あのとき、なんか自分でも似たような冒険物語書きたくなって、一気に書き上げちゃった。結局、強い想いがないと書けないんじゃないかな」
「強い想い……?」
由香は美月の言葉にハッとする。強い想い。確かに、自分には書きたいという気持ちはある。でも、いつも面白いものを書かなきゃ。読者に認められなきゃと考えて、肝心の自分が書きたいものを見失っていた。
「でもさ、美月。そういう衝動ってどうやって湧いてくるの? 私、なんかずっとモヤモヤしてるだけで……」
美月はフォークを置いて、身を乗り出す。
「うーん、たとえばさ、好きな音楽聴いてるときに、急に『このメロディみたいな物語書きたい!』って思ったりしない? 私の場合は、そういう『何か』に心が動いたときに、書きたいものがパッと浮かぶんだよね。由香、最近なんかワクワクしたことあった?」
由香は少し考える。最近、ワクワクしたこと。ノベルワールドのランキングを眺めて焦ったり、ストーリーハブの閲覧数に落ち込んだり。そんなことばかりで、純粋に楽しいと感じた瞬間が思い出せない。
「……ないかも。なんか、書かなきゃって焦ってばっかりで」
美月は小さく笑う。
「それじゃ書けないよ! ほら、由香、子供の頃とか、好きな本読んで『自分もこんな話書きたい!』って思ったことなかった? あの気持ち、思い出してみなよ。別に誰かに褒められなくても、自分が楽しければいいじゃん」
由香は目を丸くする。自分が楽しむ。確かに、子供の頃はただ物語の世界に飛び込むのが楽しかった。誰かに見せるためじゃなく、自分がワクワクするために空想していた。あの純粋な気持ちを、どこかに置き忘れていたのかもしれない。
「でも……それで書けたとして、誰も読んでくれなかったら、なんか虚しいよ」
美月は肩をすくめる。
「最初はそれでいいんじゃない? ほら、ジョン・レノンの名言だったかな? 『人生は他の計画を立てているうちに過ぎる』って。書きたいならさっさと書いて、書けないなら諦めて別のことに手をつければいいじゃん! 由香が楽しめる物語なら、いつか誰かも楽しんでくれるよ。シンプルにいこうよ」
由香は小さく笑う。美月の言葉は、まるで秋の風のようにさっぱりしていた。でも、そのシンプルさが、胸にじんわりと響いた。
自分が楽しむために書く。誰かに認められる前に、まず自分が物語を愛せるかどうか。美月の例え話や子供時代の思い出が、由香の心に小さな火を灯した。書くための強い想いは、意外と身近なところにあるのかもしれない。
帰宅後、由香は少し体が冷えたので、熱いシャワーを浴びることにした。温かい水が肩に流れ落ち、冷えた体をじんわりと温める。シャワーの音に耳を澄ませながら、美月の言葉を反芻する。
自分が楽しければいい。その言葉が、頭の中で静かに響く。書くことは、誰かと競うことじゃない。自分が物語の世界に飛び込むための、ただの道具だ。
シャワーを終え、鏡の前に立つ。濡れた髪をタオルで拭きながら、由香は呟く。
「よし。とりあえず、書いてみるか」
部屋に戻り、本棚に目をやる。そこには、子供の頃に愛読していたファンタジー小説『魔法の森の冒険』があった。色褪せた表紙。何度も読み直して、角が丸まったページ。
そっと1枚めくると、懐かしい物語の世界に引き込まれる。魔法の森に住む少女が、不思議な生き物と出会い、冒険を通じて自分を信じる力を取り戻す物語。あの頃は、ただ「面白い!」と感じるだけでよかった。純粋に、物語を楽しんでいた。
由香は考える。私が本当に書きたいものって、こういうワクワクする物語なんじゃないだろうか? 別に新しいアイデアじゃなくたっていい。自分が心から楽しめるものを書けばいいんだ。完璧な作品を目指すのではなく、まずは自分が楽しむために書いてみることにする。
ノートを開き、子供の頃に空想していた物語を思い出す。魔法の森に住む少女、ティア。彼女は臆病で、いつも自分の力を信じられなかった。でも、森の奥で出会った光る生き物に導かれ、冒険に出る。ストーリーはシンプルで、プロットも穴だらけ。でも、書いているうちに、美月は物語の世界に没頭していく。ティアが森を歩く音、風の匂い、生き物のキラキラした光。頭の中に浮かぶ情景を、必死に言葉にしていく。
「こんな感じかな……。うん、悪くないかも!」
文章は拙く、時々言葉が詰まる。それでも、書くこと自体が楽しくて仕方ない。初めて、書く喜びを感じた瞬間だった。
数日後、由香は3000字ほどの短編を書き上げた。タイトルは『ティアと光の森』。ノベルワールドの猛者たちの作品に比べれば、明らかに未熟だ。展開は単調だし、キャラの掘り下げも浅い。それでも、由香は満足していた。これが私の物語だと、胸を張れる気がした。
学校帰り、美月に読んでもらうと、彼女は目を輝かせて言った。「由香、めっちゃいいじゃん! なんか、由香らしい優しい物語だね。こういうの、もっと読みたいよ!」
由香は照れながら笑う。
「そ、そっか。ありがと……。でも、まだノベルワールドに投稿する勇気はないかな」
「いいじゃん、マイペースで! 書きたいときに書けばさ」
美月の言葉に、由香は頷く。帰り道、近くの川沿いを歩く。数日前、雨で濁っていた川は、今は静かに澄んだ水を湛えている。川面に映る冬の空は、まるで由香の心のように、穏やかで透明だった。
由香は結局、物語をノベルワールドに投稿する勇気はまだ持てなかった。でも、ストーリーハブに新しい短編をアップしてみようかと考える。閲覧数が少なくても、自分が楽しめた物語なら、それでいいかもしれない。
ノートに新しいアイデアを書き留め、好きな本を読みながら次はこんな話を書いてみようと考える時間が増えた。書けない日々が続いても、もう焦らない。書きたいという想いが湧いてくるのを、気長に待ってみようと思えるようになった。
冬の初め、由香の部屋は少しだけ変わっていた。本棚には新しいノートが加わり、机の上には読みかけの小説が置かれている。由香は日記を開き、ペンを走らせる。
書けない私も、書こうとする私も、全部私の物語の一部だって今では思える。いつか、誰かに読んでもらえる物語を書ける日が来るって、信じてみる。
窓の外では、初雪が静かに降り始めていた。
由香は17歳、高校2年生。なんとなく小説を書いてみたいという夢は昔からあった。思い切って投稿してみたけど、こんな結果では心が折れそうになる。
「せっかく書いたのに……これじゃ意味ないよ」
由香はノートを閉じ、窓の外を見る。秋の終わり。ぽつぽつと雨が振り始め、冷たい風が木々を揺らしている。
ストーリーハブは大手サイトのノベルワールドとは違い、閲覧数が少なく、投稿者の大半は小中学生だ。誤字だらけの文章や脈絡のない物語が並び、コメント欄は「面白かった!」程度の簡単なものばかり。
由香の作品は、少なくとも文法は整っていて、ストーリーにも起承転結がある。自分ではそこそこ上手く書けたと思っていた。でも、見てもらわなければ意味がない。
大手サイトのノベルワールドなら、閲覧数は桁違いだ。だが、そこは化物たちの戦場。毎日3000字、5000字を投稿し続ける猛者たちがランキングを席巻している。
ファンタジー、恋愛、ミステリー――どの作品も、緻密なプロットとキラキラした文体で読者を魅了する。コメント欄は「神更新!」「続きが待ちきれない!」と熱狂で埋まる。
二次創作サイトも覗いてみたが、原作を大胆にアレンジした個性的な作品が人気で、読者の目は肥えている。そもそも原作そのものが面白いのだから、半端なものを出せば「展開が弱い」「キャラが薄い」と低評価で燃える。
「私なんかがノベルワールドに投稿したって、絶対埋もれるだけ……」
由香は椅子に沈み込む。書きたいという気持ちはある。でも、何を書きたいのかわからない。マイナーなサイトでは目立てるかもしれないが、こんな場所で書くのは負けた気がする。かといって、大手に挑む自信もない。
こんなことを考えている時点で、創作者として向いていないのではないか? 頭の中でぐるぐると渦を巻く不安が、由香を飲み込む。
週末、由香は親友の美月と学校帰りに喫茶店に寄った。木の温もりを感じる店内は、コーヒーの香りで満たされている。美月は明るく楽観的な性格で、いつも由香の重い話を軽やかに受け止めてくれる。
今日は、思い切って悩みを打ち明けることにした。
「美月、私、小説を書きたいってずっと思ってるんだけど……全然ダメなんだ。ストーリーハブに投稿しても、閲覧数7とかで誰も読んでくれない。ノベルワールドにはすごい人たちが山ほどいるし、私の書くものなんて誰も読まないよ。こんなんじゃ、作家になんてなれないよね……」
由香はカップを握りしめ、俯きながら話す。美月はケーキを頬張りながら、にっと笑った。
「由香、なんか考えすぎじゃない? 創作なんて、書きたいものがなければ書かなくていいんだよ。別にそれで死ぬわけじゃないんだしさ」
美月の軽い口調に、由香は少しムッとする。
「でも、書きたいって気持ちはあるんだよ! ただ……何をどう書けばいいのか、わからなくて。ストーリーハブでも全然反応ないし、ノベルワールドなんて怖すぎるし……」
美月はコーヒーを飲みながら、うんうんと頷く。
「うーん、わかるよ、その気持ち。私もたまに短編小説書くけどさ、なんか面白い作品読んだり、映画観たりしたときに、急に『これ書きたい!』って衝動が湧いてくるんだよね。例えば、この前、めっちゃ感動するファンタジー読んだんだけどさ。 あのとき、なんか自分でも似たような冒険物語書きたくなって、一気に書き上げちゃった。結局、強い想いがないと書けないんじゃないかな」
「強い想い……?」
由香は美月の言葉にハッとする。強い想い。確かに、自分には書きたいという気持ちはある。でも、いつも面白いものを書かなきゃ。読者に認められなきゃと考えて、肝心の自分が書きたいものを見失っていた。
「でもさ、美月。そういう衝動ってどうやって湧いてくるの? 私、なんかずっとモヤモヤしてるだけで……」
美月はフォークを置いて、身を乗り出す。
「うーん、たとえばさ、好きな音楽聴いてるときに、急に『このメロディみたいな物語書きたい!』って思ったりしない? 私の場合は、そういう『何か』に心が動いたときに、書きたいものがパッと浮かぶんだよね。由香、最近なんかワクワクしたことあった?」
由香は少し考える。最近、ワクワクしたこと。ノベルワールドのランキングを眺めて焦ったり、ストーリーハブの閲覧数に落ち込んだり。そんなことばかりで、純粋に楽しいと感じた瞬間が思い出せない。
「……ないかも。なんか、書かなきゃって焦ってばっかりで」
美月は小さく笑う。
「それじゃ書けないよ! ほら、由香、子供の頃とか、好きな本読んで『自分もこんな話書きたい!』って思ったことなかった? あの気持ち、思い出してみなよ。別に誰かに褒められなくても、自分が楽しければいいじゃん」
由香は目を丸くする。自分が楽しむ。確かに、子供の頃はただ物語の世界に飛び込むのが楽しかった。誰かに見せるためじゃなく、自分がワクワクするために空想していた。あの純粋な気持ちを、どこかに置き忘れていたのかもしれない。
「でも……それで書けたとして、誰も読んでくれなかったら、なんか虚しいよ」
美月は肩をすくめる。
「最初はそれでいいんじゃない? ほら、ジョン・レノンの名言だったかな? 『人生は他の計画を立てているうちに過ぎる』って。書きたいならさっさと書いて、書けないなら諦めて別のことに手をつければいいじゃん! 由香が楽しめる物語なら、いつか誰かも楽しんでくれるよ。シンプルにいこうよ」
由香は小さく笑う。美月の言葉は、まるで秋の風のようにさっぱりしていた。でも、そのシンプルさが、胸にじんわりと響いた。
自分が楽しむために書く。誰かに認められる前に、まず自分が物語を愛せるかどうか。美月の例え話や子供時代の思い出が、由香の心に小さな火を灯した。書くための強い想いは、意外と身近なところにあるのかもしれない。
帰宅後、由香は少し体が冷えたので、熱いシャワーを浴びることにした。温かい水が肩に流れ落ち、冷えた体をじんわりと温める。シャワーの音に耳を澄ませながら、美月の言葉を反芻する。
自分が楽しければいい。その言葉が、頭の中で静かに響く。書くことは、誰かと競うことじゃない。自分が物語の世界に飛び込むための、ただの道具だ。
シャワーを終え、鏡の前に立つ。濡れた髪をタオルで拭きながら、由香は呟く。
「よし。とりあえず、書いてみるか」
部屋に戻り、本棚に目をやる。そこには、子供の頃に愛読していたファンタジー小説『魔法の森の冒険』があった。色褪せた表紙。何度も読み直して、角が丸まったページ。
そっと1枚めくると、懐かしい物語の世界に引き込まれる。魔法の森に住む少女が、不思議な生き物と出会い、冒険を通じて自分を信じる力を取り戻す物語。あの頃は、ただ「面白い!」と感じるだけでよかった。純粋に、物語を楽しんでいた。
由香は考える。私が本当に書きたいものって、こういうワクワクする物語なんじゃないだろうか? 別に新しいアイデアじゃなくたっていい。自分が心から楽しめるものを書けばいいんだ。完璧な作品を目指すのではなく、まずは自分が楽しむために書いてみることにする。
ノートを開き、子供の頃に空想していた物語を思い出す。魔法の森に住む少女、ティア。彼女は臆病で、いつも自分の力を信じられなかった。でも、森の奥で出会った光る生き物に導かれ、冒険に出る。ストーリーはシンプルで、プロットも穴だらけ。でも、書いているうちに、美月は物語の世界に没頭していく。ティアが森を歩く音、風の匂い、生き物のキラキラした光。頭の中に浮かぶ情景を、必死に言葉にしていく。
「こんな感じかな……。うん、悪くないかも!」
文章は拙く、時々言葉が詰まる。それでも、書くこと自体が楽しくて仕方ない。初めて、書く喜びを感じた瞬間だった。
数日後、由香は3000字ほどの短編を書き上げた。タイトルは『ティアと光の森』。ノベルワールドの猛者たちの作品に比べれば、明らかに未熟だ。展開は単調だし、キャラの掘り下げも浅い。それでも、由香は満足していた。これが私の物語だと、胸を張れる気がした。
学校帰り、美月に読んでもらうと、彼女は目を輝かせて言った。「由香、めっちゃいいじゃん! なんか、由香らしい優しい物語だね。こういうの、もっと読みたいよ!」
由香は照れながら笑う。
「そ、そっか。ありがと……。でも、まだノベルワールドに投稿する勇気はないかな」
「いいじゃん、マイペースで! 書きたいときに書けばさ」
美月の言葉に、由香は頷く。帰り道、近くの川沿いを歩く。数日前、雨で濁っていた川は、今は静かに澄んだ水を湛えている。川面に映る冬の空は、まるで由香の心のように、穏やかで透明だった。
由香は結局、物語をノベルワールドに投稿する勇気はまだ持てなかった。でも、ストーリーハブに新しい短編をアップしてみようかと考える。閲覧数が少なくても、自分が楽しめた物語なら、それでいいかもしれない。
ノートに新しいアイデアを書き留め、好きな本を読みながら次はこんな話を書いてみようと考える時間が増えた。書けない日々が続いても、もう焦らない。書きたいという想いが湧いてくるのを、気長に待ってみようと思えるようになった。
冬の初め、由香の部屋は少しだけ変わっていた。本棚には新しいノートが加わり、机の上には読みかけの小説が置かれている。由香は日記を開き、ペンを走らせる。
書けない私も、書こうとする私も、全部私の物語の一部だって今では思える。いつか、誰かに読んでもらえる物語を書ける日が来るって、信じてみる。
窓の外では、初雪が静かに降り始めていた。
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