[大文字]ー 序章 ー[/大文字]
[漢字]「……くっ、鎮まれ……俺の左腕(レフトハンド・ルシファー)……っ!」
中学二年生の夏。俺、佐藤司(さとう つかさ)は、自室の学習机で歯を食いしばりながら、一冊の大学ノートに「真理」を刻んでいた。
邪気眼、深淵、混沌、そして自分にしか救えない世界の破滅。
書きなぐられた設定は、当時の俺にとっては魂の叫びであり、今の俺にとっては直視すれば即死しかねない猛毒――通称『黒歴史ノート』である。
あれから五年。大学生になった俺は、そのノートを実家の押し入れの奥深くに封印した……はずだった。
「――本日未明、中東で発生した謎の爆発現象は、昨日SNSで拡散された『聖典』の記述通りでした」
昼下がりのカフェ。スマホのニュース速報を見た俺は、持っていたアイスコーヒーを吹き出した。
画面に映し出されたのは、古びたノートの一ページをスキャンした画像。
そこには、震えるような筆致でこう記されていた。
『黎明の刻、砂漠の檻が砕け、焔の蛇が地を這うだろう』
「……嘘だろ。あれ、俺の字じゃん」
しかも、その投稿には世界中から数千万の「いいね」がつき、ハッシュタグ「#The_Prophecy(予言)」がトレンドを独占している。
さらに恐ろしいことに、コメント欄にはこう書かれていた。
『この予言を書いたのは「終焉を司る者(ジ・エンド・マスター)」だ』
それ、俺が中二の時に使ってたハンドルネームだ……。
どうやら、何者かが俺のノートを盗み出し、あろうことか「世界を導く予言書」としてネットにライブ配信し始めたらしい。
そして最悪なことに、俺がノートの後半に書いた「世界最大の恥ずかしい設定」のカウントダウンは、もう始まっていた。[/漢字][ふりがな][/ふりがな]
[大文字]ー 第1話 ー[/大文字]
[漢字]翌日、大学に向かった俺を待っていたのは、平穏な日常の崩壊だった。
「おい、見たかよ! 次の予言は『蒼き稲妻が、学び舎の時計塔を貫く』だってよ。不謹慎だけどワクワクするよな」
講義室の隅でそんな会話が聞こえた瞬間、心臓が跳ねた。
……時計塔? まさか。
俺は冷や汗を流しながら、記憶の底に眠る「ノート第3章」を必死に手繰り寄せる。
(確かあそこは……俺が隣の席の女子に振られた直後、怒りに任せて『雷神の鉄槌がリア充の時間を止める』とか書いたページだ!)
窓の外を見れば、雲一つない快晴。
しかし、俺の黒歴史ノート(予言書)は外さない。
――ピシャァァァァァァン!!
突如、空から青白い雷光が降り注ぎ、キャンパス中央の時計塔が派手に火花を散らした。
悲鳴と歓声が上がる中、俺のスマホが狂ったように通知を鳴らし始める。
『予言的中!』『ジ・エンド・マスターは神か?』『次はなんだ?』
画面をスクロールすると、ノートの新しいページが配信されていた。
そこには、かつての俺が気取って描いた、下手くそな「魔法陣」のイラスト。
『選ばれし十二人の使徒が、東京の地下に集う。封印されし魔眼(イビルアイ)が目覚める時、真実の扉が開く……』
「やめろ……それだけはやめてくれ……っ!」
それは、俺が中学の同級生たちの実名を勝手に使い、一人一人に「特殊能力」と「痛すぎる二つ名」を授けていた、ノート最大の暗部。
その直後、俺のLINEに通知が届いた。
送り主は、中学卒業以来連絡をとっていない、今は真面目な公務員になったはずの旧友。
『……司、今ニュース見た。これ、俺たちのことだよな? なんで俺の右腕に、お前が描いたのと全く同じ「龍の痣」が出てきてるんだよ!?』
世界が俺の妄想に追いつき、かつての友が「設定通り」に覚醒し始めた。
そして配信画面の最後には、真っ赤な文字でこう追記されていた。
『今夜20時、教祖(マスター)自ら、新宿のアルタ前で世界を浄化する。』
「行ってねえよ! 行くわけねえだろ!!」
俺の叫びは、新宿に向かって大移動を始めた全世界の信者たちの狂騒に、虚しく消えていった。
[/漢字][ふりがな][/ふりがな]
[漢字]「……くっ、鎮まれ……俺の左腕(レフトハンド・ルシファー)……っ!」
中学二年生の夏。俺、佐藤司(さとう つかさ)は、自室の学習机で歯を食いしばりながら、一冊の大学ノートに「真理」を刻んでいた。
邪気眼、深淵、混沌、そして自分にしか救えない世界の破滅。
書きなぐられた設定は、当時の俺にとっては魂の叫びであり、今の俺にとっては直視すれば即死しかねない猛毒――通称『黒歴史ノート』である。
あれから五年。大学生になった俺は、そのノートを実家の押し入れの奥深くに封印した……はずだった。
「――本日未明、中東で発生した謎の爆発現象は、昨日SNSで拡散された『聖典』の記述通りでした」
昼下がりのカフェ。スマホのニュース速報を見た俺は、持っていたアイスコーヒーを吹き出した。
画面に映し出されたのは、古びたノートの一ページをスキャンした画像。
そこには、震えるような筆致でこう記されていた。
『黎明の刻、砂漠の檻が砕け、焔の蛇が地を這うだろう』
「……嘘だろ。あれ、俺の字じゃん」
しかも、その投稿には世界中から数千万の「いいね」がつき、ハッシュタグ「#The_Prophecy(予言)」がトレンドを独占している。
さらに恐ろしいことに、コメント欄にはこう書かれていた。
『この予言を書いたのは「終焉を司る者(ジ・エンド・マスター)」だ』
それ、俺が中二の時に使ってたハンドルネームだ……。
どうやら、何者かが俺のノートを盗み出し、あろうことか「世界を導く予言書」としてネットにライブ配信し始めたらしい。
そして最悪なことに、俺がノートの後半に書いた「世界最大の恥ずかしい設定」のカウントダウンは、もう始まっていた。[/漢字][ふりがな][/ふりがな]
[大文字]ー 第1話 ー[/大文字]
[漢字]翌日、大学に向かった俺を待っていたのは、平穏な日常の崩壊だった。
「おい、見たかよ! 次の予言は『蒼き稲妻が、学び舎の時計塔を貫く』だってよ。不謹慎だけどワクワクするよな」
講義室の隅でそんな会話が聞こえた瞬間、心臓が跳ねた。
……時計塔? まさか。
俺は冷や汗を流しながら、記憶の底に眠る「ノート第3章」を必死に手繰り寄せる。
(確かあそこは……俺が隣の席の女子に振られた直後、怒りに任せて『雷神の鉄槌がリア充の時間を止める』とか書いたページだ!)
窓の外を見れば、雲一つない快晴。
しかし、俺の黒歴史ノート(予言書)は外さない。
――ピシャァァァァァァン!!
突如、空から青白い雷光が降り注ぎ、キャンパス中央の時計塔が派手に火花を散らした。
悲鳴と歓声が上がる中、俺のスマホが狂ったように通知を鳴らし始める。
『予言的中!』『ジ・エンド・マスターは神か?』『次はなんだ?』
画面をスクロールすると、ノートの新しいページが配信されていた。
そこには、かつての俺が気取って描いた、下手くそな「魔法陣」のイラスト。
『選ばれし十二人の使徒が、東京の地下に集う。封印されし魔眼(イビルアイ)が目覚める時、真実の扉が開く……』
「やめろ……それだけはやめてくれ……っ!」
それは、俺が中学の同級生たちの実名を勝手に使い、一人一人に「特殊能力」と「痛すぎる二つ名」を授けていた、ノート最大の暗部。
その直後、俺のLINEに通知が届いた。
送り主は、中学卒業以来連絡をとっていない、今は真面目な公務員になったはずの旧友。
『……司、今ニュース見た。これ、俺たちのことだよな? なんで俺の右腕に、お前が描いたのと全く同じ「龍の痣」が出てきてるんだよ!?』
世界が俺の妄想に追いつき、かつての友が「設定通り」に覚醒し始めた。
そして配信画面の最後には、真っ赤な文字でこう追記されていた。
『今夜20時、教祖(マスター)自ら、新宿のアルタ前で世界を浄化する。』
「行ってねえよ! 行くわけねえだろ!!」
俺の叫びは、新宿に向かって大移動を始めた全世界の信者たちの狂騒に、虚しく消えていった。
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