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翌朝、オフィスの22階は、何事もなかったかのように冷たい電子音だけが響いていた。
昨夜、居酒屋の前で手を離したあと、○○は「……すみません、頭が冷えました」とだけ言って、逃げるようにタクシーに乗り込んでいった。
あの熱い手のひらの感触だけが、私の手のひらに居座り続けている。
「おはよう、○○」
デスクに向かう彼の背中に声をかけると、彼は一瞬だけ肩を強張らせた。
「……おはようございます」
振り返った彼の顔は、いつもの無表情に戻っていた。ただ、いつもより少しだけ、視線が泳いでいる気がする。
「あの、昨夜のことだけど――」
私が切り出そうとすると、彼はすっと立ち上がり、「ミーティングの資料、コピーしてきます」と会話をシャットアウトして席を外してしまった。
あからさまな回避行動に、胸がちくりとする。
お昼休み。屋上のベンチで一人でお弁当を食べていると、重い扉が開く音がした。
見ると、手に見慣れた缶コーヒーを持った○○が立っている。
私と目が合うと、彼は気まずそうに視線を落とした。
「……ここ、いいですか」
「うん、どうぞ」
彼は少し離れた位置に腰掛け、缶コーヒーのプルタブを開けた。カチリ、と静かな音が響く。
「逃げるみたいにして、すみませんでした」
彼がぽつりと言った。横顔はいつも通り端正で、冷たく見える。
「ううん。私も、ちょっとびっくりしちゃっただけだから」
「……みっともないところを見せました」
○○は自嘲気味に、ふっと息を漏らした。
「佐々木先輩が、●●のこと狙ってるのは知ってました。あいつ、誰にでもあんな距離の詰め方するんです。それが、すごく嫌で。昨日、二人が楽しそうに話してるのを見た瞬間、頭の回路がショートしたみたいになりました。……自分でも、あんな感情が自分の中にあるなんて知らなかった」
淡々と、けれど言葉を選ぶように話す彼の声は、少しだけ震えている。
「○○、それって、私のことが好きってこと?」
ストレートに訊ねると、彼は缶コーヒーを握る手に力を入れた。
白い指先が、さらに白くなる。
「……気づいてなかったんですか」
彼はようやく私の方を向いた。その瞳は、いつものクールな彼ではなく、必死に感情を堪えている20代の等身大の男の顔だった。
「半年間、ずっと隣にいたんです。仕事のフォローをしてくれるときの声とか、たまに笑った顔とか……全部、僕だけのものになればいいと思ってました。でも、僕は不器用だから、どう接していいか分からなくて、冷たくすることしかできなかった」
彼は一歩、私との距離を詰めた。
「佐々木先輩に誘われて、嬉しかったですか?」
「え? いや、断る理由を探してただけで――」
「なら、僕の誘いなら断りませんか」
彼の言葉は静かだけど、どこか強引で、やっぱり少し嫉妬が滲んでいる。
「今週末、僕と二人で出かけてください。仕事の話は一切なしで」
冷たいと思っていた彼の瞳が、まっすぐに私を捉えて離さない。私は、小さく頷くことしかできなかった。
昨夜、居酒屋の前で手を離したあと、○○は「……すみません、頭が冷えました」とだけ言って、逃げるようにタクシーに乗り込んでいった。
あの熱い手のひらの感触だけが、私の手のひらに居座り続けている。
「おはよう、○○」
デスクに向かう彼の背中に声をかけると、彼は一瞬だけ肩を強張らせた。
「……おはようございます」
振り返った彼の顔は、いつもの無表情に戻っていた。ただ、いつもより少しだけ、視線が泳いでいる気がする。
「あの、昨夜のことだけど――」
私が切り出そうとすると、彼はすっと立ち上がり、「ミーティングの資料、コピーしてきます」と会話をシャットアウトして席を外してしまった。
あからさまな回避行動に、胸がちくりとする。
お昼休み。屋上のベンチで一人でお弁当を食べていると、重い扉が開く音がした。
見ると、手に見慣れた缶コーヒーを持った○○が立っている。
私と目が合うと、彼は気まずそうに視線を落とした。
「……ここ、いいですか」
「うん、どうぞ」
彼は少し離れた位置に腰掛け、缶コーヒーのプルタブを開けた。カチリ、と静かな音が響く。
「逃げるみたいにして、すみませんでした」
彼がぽつりと言った。横顔はいつも通り端正で、冷たく見える。
「ううん。私も、ちょっとびっくりしちゃっただけだから」
「……みっともないところを見せました」
○○は自嘲気味に、ふっと息を漏らした。
「佐々木先輩が、●●のこと狙ってるのは知ってました。あいつ、誰にでもあんな距離の詰め方するんです。それが、すごく嫌で。昨日、二人が楽しそうに話してるのを見た瞬間、頭の回路がショートしたみたいになりました。……自分でも、あんな感情が自分の中にあるなんて知らなかった」
淡々と、けれど言葉を選ぶように話す彼の声は、少しだけ震えている。
「○○、それって、私のことが好きってこと?」
ストレートに訊ねると、彼は缶コーヒーを握る手に力を入れた。
白い指先が、さらに白くなる。
「……気づいてなかったんですか」
彼はようやく私の方を向いた。その瞳は、いつものクールな彼ではなく、必死に感情を堪えている20代の等身大の男の顔だった。
「半年間、ずっと隣にいたんです。仕事のフォローをしてくれるときの声とか、たまに笑った顔とか……全部、僕だけのものになればいいと思ってました。でも、僕は不器用だから、どう接していいか分からなくて、冷たくすることしかできなかった」
彼は一歩、私との距離を詰めた。
「佐々木先輩に誘われて、嬉しかったですか?」
「え? いや、断る理由を探してただけで――」
「なら、僕の誘いなら断りませんか」
彼の言葉は静かだけど、どこか強引で、やっぱり少し嫉妬が滲んでいる。
「今週末、僕と二人で出かけてください。仕事の話は一切なしで」
冷たいと思っていた彼の瞳が、まっすぐに私を捉えて離さない。私は、小さく頷くことしかできなかった。