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恋愛短編集。【390閲覧感謝‼︎】

#27

蝉の声。

「……暑い。溶けそう」

夏休みの中盤。部活動の指導で登校した私は、冷房の効きがいい甘い職員室で、一人愚痴をこぼした。
生徒たちはグラウンドで声を張り上げ、他の先生たちも遠征や出張で不在。
広い部屋に、タイピングの音だけが響く。

「はい、差し入れ」

不意に、冷たいペットボトルが私の頬に押し当てられた。
驚いて振り向くと、そこにはTシャツにゆったりしたズボンという、ラフな格好の彼。
教員の「蓬城先生」ではなく、私の「夫」の顔をした彼がいた。

「あれ、午後から出張じゃなかったの?」
「早く終わらせた。一人で残業してるだろうなって思って」

彼は自分のデスクを通り過ぎ、私の椅子のすぐ後ろに立った。
窓の外からは、遠くで吹奏楽部が練習をする楽器の音が聞こえてくる。

「……誰か来ちゃうよ」
「鍵、閉めてきた。数分なら大丈夫だろ」

大人の余裕を崩さないまま、彼は私の肩に手を置く。
開いた窓から吹き込む熱い風が、二人の距離をさらに縮める。
彼は私の耳元に唇を寄せ、低い声で囁いた。

「今夜、海までドライブしない?助手席の予約、空いてそう?」

学校では絶対見せない、少しだけ茶目っ気のある誘い方。
私はわざと困った顔をして、「……残業が終われば、検討します」と答える。

「じゃあ、手伝ってあげる。その代わり、家に帰ったら甘えさせてよ」

彼は私の手からペンを取り上げ、代わりに冷えた麦茶を握らせた。
氷がカラン、と音を立てる。                                                                                   

「……愛、顔赤いぞ。暑さのせいか?それとも、俺のせい?」

不敵に笑う彼の瞳に抗えない。
夏の陽光に照らされた無人の職員室で、私たちは短いキスを交わした。
外の蝉の声が、私たちの秘密をかき消すように、一層激しく鳴り響いた。




2026/05/08 14:08

mayu.418
ID:≫ 85OyLBeYTHE8E
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