弱くていいと言ってくれた貴方へ。
鵜久森さんの死に、浜岡が関与していると瓜生くんから連絡を貰った夜、
丁度夕飯を作ってくれていた蓮に何かあったの、と聞かれ、鵜久森さんの事件の真相に近付いていることを話した。
「鵜久森さんは、本当に強くて、優しい人だったね」
「うん」
「文化祭に行った時、すごい嬉しそうに里奈のこと話してくれたんだ。こんなに真剣に私たちに向き合ってくれる先生はいないって。」
そう言われて、私の視界が涙で滲んだ。
鵜久森さんと、もっと話せたら良かった、力になれたら良かったのに、と今でも後悔が脳裏を過ぎる。
「少しは横に背負ってる荷物を渡してもいいのにな」
「うん」
「里奈も、もっと弱くていいからな」
「文化祭の時、びっくりした。当たり前かもしれないけど、生徒の前だとこんなにも違うのかって」
「そうかな」
「正直、心配になった。こうやって、俺がいないどこかで傷ついたり、してるんじゃないかって。」
蓮は真剣な顔でそう零した。
「でも、こうやって里奈が学校より、解れた顔であったことを話してくれると安心する。里奈にとってこの家が少しでも心を許せる場所なのかもって思うとさ。」
「ありがとう。この家は、私の大切な居場所だよ。毎日帰ってきて、明かりがついてて。玄関のドアを開けると、蓮の料理する音が聞こえて。幸せすぎるくらい…。」
と同時に、この未来が失われる可能性があること、また鵜久森さんのような感覚もないわけではないことも思い出す。
蓮の前では、そのことは隠しておこうと思った。
この何気ない日常を “その時” が来るまで壊したくなかったからだ。
**
西野さんの一件があった夜、私は中々帰路につけないでいた。
事のきっかけは別のことだったかもしれない。
でも、もし私が化学準備室のカメラに気付けていたら。
もっと、鵜久森さんのことを気にかけていたら。
もっと早く、西野さんたちに話を聞いていたら。
もうやり直すことの出来ない、 “もし” が私の頭の中をぐるぐると回っていた。
「私のせいで…鵜久森さんが…」
私が、もっといい教師だったら。
気づくと家の近くの公園にいて、ぽたぽたと零れる涙を止めることは出来ず私はその場で疼くまった。
自分が悪いのに、自分のせいなのに私はどこか誰かに助けを乞いだ。
すると、ポケットの携帯電話が震えていることに気づいた。
もちろん相手は、 “蓮”
バレたくない、こんなとこ見られたくないと言う気持ちと裏腹に自然と通話ボタンを押していた。
「里奈?どこに居る?遅いけど大丈夫?」
聞きなれた心地よい声に、余計涙が溢れてくる。
「蓮…」
バレたくないのに、気付けばその名を口にしていた。
「里奈、どこにいる?」
「近くの公園、夏休みに蓮…とピクニックしたとこ」
そう言うと、通話は切れた。
通話を切っても、涙は止まらずひたすら嗚咽した。
そして西野さんの言葉を思い出すと、苛立ちや悲しみ、そして鵜久森さんへの申し訳なさで呼吸が浅くなった。
深く息をしようと、呼吸を激しくすると今度は吐き気に襲われた。
公共の面前で、吐くわけにはいかず、とりあえず持っていたハンカチで必死に口元を抑えた。
「里奈」
そう呼ばれ、息を切らした蓮が立っていた。
「れ…」
“蓮” そう呼ぼうとしたが、声を出せば戻してしまいそうで、声は出せない。
「良かった、里奈。電話に出てくれて」
「…」
何も話せないまま、相変わらず収まらない気持ち悪さにハンカチで口を覆って呼吸をしていると蓮は話すより先に気づいてくれた。
「里奈もしかして気持ち悪い?」
残りの力を振り絞り、ゆっくりと頷く。
「ごめん、すぐ気付けなくて。里奈、ゆっくり呼吸して。しんどいよな。これあるから我慢はしなくて大丈夫だから」
蓮は、そう言うと素早く持っていた袋を私の前に差し出してくれた。
**
「こんなとこ…見せてごめん。」
暫く、背中をさすってもらうと落ち着き、やっと声を発することができた。
「いいよ、里奈がベロベロに酔った時はいつもこんなだろ」
そう言って、蓮は大丈夫、とまた背中を撫でてくれた。
「ごめん…でもどうして電話してくれたの?」
「そんなことしないってわかってる、でも夏穂から今日のこと聞いたら電話せずにはいられなかった、里奈の “最悪” の可能性を消したくて」
「だから、今里奈を抱きしめて里奈の温もりを感じられて良かった…」
そう言われて、私は蓮の方に縋りついて泣いた。
**
気持ち悪さで、足の震えが止まらずベンチに腰掛け、なんとか足の震えを止めようとする私を蓮は軽々とおんぶしてくれた。
帰路の途中
「ごめん…重くない?もう歩けるよ」
「全然重くない、むしろ軽いくらいだよ。」
そう言って、蓮はいつまでも下ろしてくれなかった。
「なんか懐かしいな、こうして里奈のことおぶるの。」
「そうだね」
「最後におぶったのは、一昨年か?里奈が生理痛酷いのに、無理やり出勤して学校から連絡が来た時」
「面目ない…」
一昨年、どうしてもいかないければいならない日に何ヶ月かに一回経験する、生理痛が酷い日が当たってしまった時だ。
休むに休めず、無理やり出勤したがその代償として、動けなくなってしまった。
良くなったら帰ろう、そう考えてるうちに日は暮れ、その日は休みだった蓮に来てもらったのだ。
しかし、来てもらったのはいいものの私は限界を迎え、化学準備室で動けなくなっていた。
その時、蓮は私を科学準備室まで迎えに来てくれ、おぶって連れて帰ってくれたのだ。
「里奈は昔から限界まで我慢するからな、だから “もう少し弱くていいのに”」
その言葉に、また涙が溢れこっそり蓮の背中を濡らした。
「でも、今回はちゃんと呼んでくれてよかったよ、少しずつ里奈が背負ったものうぃ横に渡すことができてるかもって思えたしさ。」
それだけで十分だよ、そう呟く蓮の背中に
「好きだよ、蓮」
と呟いた。誕生日の時は何か改めて言うのが照れくさくて、 “皆に向けた好き” だったがこれは正真正銘、蓮に向けた好きだった。
「ん?何か言った?里奈」
「なんでもないよ」
私は蓮のことを強く抱きしめた。
**
家に着くと、蓮は温かいお茶をいれてくれた。
「で、なんで里奈はあんなとこにいたの?」
優しく問う声に、私は涙が溢れそうになるのを堪え話し始めた。
「西野さんは、科学準備室にカメラを仕掛けたの。もし、私が気付けていたら、鵜久森さんが呼ばれることもなかった、私のせいで鵜久森さん…は」
「そう思ったら申し訳なくて、苦しくてでも泣くことしかできなくて、蓮にもまたこんな姿見せたら心配してくれるのが分かったから、公園で泣いてたら動けなくなって」
蓮は優しく、頷きながら聞いてくれた。
「里奈、背負ってる荷物、もう少し横に渡してもいいんだからな」
その言葉にまた勝手に涙が零れ落ちた。
「里奈が、俺の知らないとこで傷ついてるにが心配だって言ったよね?だから、何かあったときはまっすぐ家に帰ってきて。里奈の話、いくらでも聞くって言ったろ?」
「ごめんなさい…ありがとう」
そう言うと、蓮はおいで、と手を広げてくれた。
半年前ならためらっていただろうが、今は迷わず飛び込むことができる。
そんな関係に戻れたことが嬉しくて、でもだからこそ切なくて。
そして、私が落ち着くのを待って、蓮が口を開いた。
「里奈、残念ながら過去を変えることはできない。でも未来はこれから幾らでも変えることが出来るよ」
「里奈は、鵜久森さんの遺してくれた言葉を、約束をこれから、守っていくことが出来る。」
「もう、二度と同じようなことは起こさないことが今、里奈が鵜久森さんのために出来ることなんじゃないのかな」
蓮の言葉に、涙が止まらなくなった。
「怖くなった。鵜久森さんの時みたいに、私が何かをしたせいで生徒になにか起こるのは。」
「もういやなの。私のせいで誰かが傷つくのは」
「でも、里奈の行動で変わった生徒もたくさんいるだろ?なら、まだ助けなきゃいけない生徒はいるんじゃないのか?」
そう言われて、ある人物が私の脳裏をよぎる。
そして、覚悟も。
「弱気になってる場合じゃないよね、ごめん。」
そう言うと、蓮は首を振った。
「弱くていいよ。でも、里奈がしようとしたこと最後まで応援するって決めたからさ」
「蓮、ありがとう」
私は “その生徒” と向き合うため、再びパソコンを開いた。
the end.
丁度夕飯を作ってくれていた蓮に何かあったの、と聞かれ、鵜久森さんの事件の真相に近付いていることを話した。
「鵜久森さんは、本当に強くて、優しい人だったね」
「うん」
「文化祭に行った時、すごい嬉しそうに里奈のこと話してくれたんだ。こんなに真剣に私たちに向き合ってくれる先生はいないって。」
そう言われて、私の視界が涙で滲んだ。
鵜久森さんと、もっと話せたら良かった、力になれたら良かったのに、と今でも後悔が脳裏を過ぎる。
「少しは横に背負ってる荷物を渡してもいいのにな」
「うん」
「里奈も、もっと弱くていいからな」
「文化祭の時、びっくりした。当たり前かもしれないけど、生徒の前だとこんなにも違うのかって」
「そうかな」
「正直、心配になった。こうやって、俺がいないどこかで傷ついたり、してるんじゃないかって。」
蓮は真剣な顔でそう零した。
「でも、こうやって里奈が学校より、解れた顔であったことを話してくれると安心する。里奈にとってこの家が少しでも心を許せる場所なのかもって思うとさ。」
「ありがとう。この家は、私の大切な居場所だよ。毎日帰ってきて、明かりがついてて。玄関のドアを開けると、蓮の料理する音が聞こえて。幸せすぎるくらい…。」
と同時に、この未来が失われる可能性があること、また鵜久森さんのような感覚もないわけではないことも思い出す。
蓮の前では、そのことは隠しておこうと思った。
この何気ない日常を “その時” が来るまで壊したくなかったからだ。
**
西野さんの一件があった夜、私は中々帰路につけないでいた。
事のきっかけは別のことだったかもしれない。
でも、もし私が化学準備室のカメラに気付けていたら。
もっと、鵜久森さんのことを気にかけていたら。
もっと早く、西野さんたちに話を聞いていたら。
もうやり直すことの出来ない、 “もし” が私の頭の中をぐるぐると回っていた。
「私のせいで…鵜久森さんが…」
私が、もっといい教師だったら。
気づくと家の近くの公園にいて、ぽたぽたと零れる涙を止めることは出来ず私はその場で疼くまった。
自分が悪いのに、自分のせいなのに私はどこか誰かに助けを乞いだ。
すると、ポケットの携帯電話が震えていることに気づいた。
もちろん相手は、 “蓮”
バレたくない、こんなとこ見られたくないと言う気持ちと裏腹に自然と通話ボタンを押していた。
「里奈?どこに居る?遅いけど大丈夫?」
聞きなれた心地よい声に、余計涙が溢れてくる。
「蓮…」
バレたくないのに、気付けばその名を口にしていた。
「里奈、どこにいる?」
「近くの公園、夏休みに蓮…とピクニックしたとこ」
そう言うと、通話は切れた。
通話を切っても、涙は止まらずひたすら嗚咽した。
そして西野さんの言葉を思い出すと、苛立ちや悲しみ、そして鵜久森さんへの申し訳なさで呼吸が浅くなった。
深く息をしようと、呼吸を激しくすると今度は吐き気に襲われた。
公共の面前で、吐くわけにはいかず、とりあえず持っていたハンカチで必死に口元を抑えた。
「里奈」
そう呼ばれ、息を切らした蓮が立っていた。
「れ…」
“蓮” そう呼ぼうとしたが、声を出せば戻してしまいそうで、声は出せない。
「良かった、里奈。電話に出てくれて」
「…」
何も話せないまま、相変わらず収まらない気持ち悪さにハンカチで口を覆って呼吸をしていると蓮は話すより先に気づいてくれた。
「里奈もしかして気持ち悪い?」
残りの力を振り絞り、ゆっくりと頷く。
「ごめん、すぐ気付けなくて。里奈、ゆっくり呼吸して。しんどいよな。これあるから我慢はしなくて大丈夫だから」
蓮は、そう言うと素早く持っていた袋を私の前に差し出してくれた。
**
「こんなとこ…見せてごめん。」
暫く、背中をさすってもらうと落ち着き、やっと声を発することができた。
「いいよ、里奈がベロベロに酔った時はいつもこんなだろ」
そう言って、蓮は大丈夫、とまた背中を撫でてくれた。
「ごめん…でもどうして電話してくれたの?」
「そんなことしないってわかってる、でも夏穂から今日のこと聞いたら電話せずにはいられなかった、里奈の “最悪” の可能性を消したくて」
「だから、今里奈を抱きしめて里奈の温もりを感じられて良かった…」
そう言われて、私は蓮の方に縋りついて泣いた。
**
気持ち悪さで、足の震えが止まらずベンチに腰掛け、なんとか足の震えを止めようとする私を蓮は軽々とおんぶしてくれた。
帰路の途中
「ごめん…重くない?もう歩けるよ」
「全然重くない、むしろ軽いくらいだよ。」
そう言って、蓮はいつまでも下ろしてくれなかった。
「なんか懐かしいな、こうして里奈のことおぶるの。」
「そうだね」
「最後におぶったのは、一昨年か?里奈が生理痛酷いのに、無理やり出勤して学校から連絡が来た時」
「面目ない…」
一昨年、どうしてもいかないければいならない日に何ヶ月かに一回経験する、生理痛が酷い日が当たってしまった時だ。
休むに休めず、無理やり出勤したがその代償として、動けなくなってしまった。
良くなったら帰ろう、そう考えてるうちに日は暮れ、その日は休みだった蓮に来てもらったのだ。
しかし、来てもらったのはいいものの私は限界を迎え、化学準備室で動けなくなっていた。
その時、蓮は私を科学準備室まで迎えに来てくれ、おぶって連れて帰ってくれたのだ。
「里奈は昔から限界まで我慢するからな、だから “もう少し弱くていいのに”」
その言葉に、また涙が溢れこっそり蓮の背中を濡らした。
「でも、今回はちゃんと呼んでくれてよかったよ、少しずつ里奈が背負ったものうぃ横に渡すことができてるかもって思えたしさ。」
それだけで十分だよ、そう呟く蓮の背中に
「好きだよ、蓮」
と呟いた。誕生日の時は何か改めて言うのが照れくさくて、 “皆に向けた好き” だったがこれは正真正銘、蓮に向けた好きだった。
「ん?何か言った?里奈」
「なんでもないよ」
私は蓮のことを強く抱きしめた。
**
家に着くと、蓮は温かいお茶をいれてくれた。
「で、なんで里奈はあんなとこにいたの?」
優しく問う声に、私は涙が溢れそうになるのを堪え話し始めた。
「西野さんは、科学準備室にカメラを仕掛けたの。もし、私が気付けていたら、鵜久森さんが呼ばれることもなかった、私のせいで鵜久森さん…は」
「そう思ったら申し訳なくて、苦しくてでも泣くことしかできなくて、蓮にもまたこんな姿見せたら心配してくれるのが分かったから、公園で泣いてたら動けなくなって」
蓮は優しく、頷きながら聞いてくれた。
「里奈、背負ってる荷物、もう少し横に渡してもいいんだからな」
その言葉にまた勝手に涙が零れ落ちた。
「里奈が、俺の知らないとこで傷ついてるにが心配だって言ったよね?だから、何かあったときはまっすぐ家に帰ってきて。里奈の話、いくらでも聞くって言ったろ?」
「ごめんなさい…ありがとう」
そう言うと、蓮はおいで、と手を広げてくれた。
半年前ならためらっていただろうが、今は迷わず飛び込むことができる。
そんな関係に戻れたことが嬉しくて、でもだからこそ切なくて。
そして、私が落ち着くのを待って、蓮が口を開いた。
「里奈、残念ながら過去を変えることはできない。でも未来はこれから幾らでも変えることが出来るよ」
「里奈は、鵜久森さんの遺してくれた言葉を、約束をこれから、守っていくことが出来る。」
「もう、二度と同じようなことは起こさないことが今、里奈が鵜久森さんのために出来ることなんじゃないのかな」
蓮の言葉に、涙が止まらなくなった。
「怖くなった。鵜久森さんの時みたいに、私が何かをしたせいで生徒になにか起こるのは。」
「もういやなの。私のせいで誰かが傷つくのは」
「でも、里奈の行動で変わった生徒もたくさんいるだろ?なら、まだ助けなきゃいけない生徒はいるんじゃないのか?」
そう言われて、ある人物が私の脳裏をよぎる。
そして、覚悟も。
「弱気になってる場合じゃないよね、ごめん。」
そう言うと、蓮は首を振った。
「弱くていいよ。でも、里奈がしようとしたこと最後まで応援するって決めたからさ」
「蓮、ありがとう」
私は “その生徒” と向き合うため、再びパソコンを開いた。
the end.
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