もう戻れない
君が死んだ。
いや、脳死でも心臓停止でも、病気でも事故でもない。
「心」が死んだと言ったほうが正しいだろう
そう、
[大文字][太字]君は記憶喪失だ[/太字][/大文字]
[水平線]
まだ斜陽になれない日が佇む午後。
僕の幼馴染であり、唯一の友達でもあった[漢字]枢寿[/漢字][ふりがな]すず[/ふりがな]ちゃんと遊んだ帰りだった。
枢寿「ちょっとトイレ行ってくる!」
僕「うん」
枢寿「……」
僕「どうしたの?」
枢寿「トイレどこだっけ?」
僕「はぁ……」
見ての通り、超天然なんだ。
でも僕は彼女のそんなところに心奪われていた。
僕「あそこだよ」
枢寿「あぁ、ありがと!」
枢寿ちゃんが横断歩道を駆け出した。
刹那、
キキーッ
[中央寄せ][大文字][太字]バァン![/太字][/大文字][/中央寄せ]
僕「……え?」
一瞬にして世界が歪み、時間が引き伸ばされたような感覚に襲われた。
枢寿ちゃんがトラックに轢かれた。
板金は血が飛び散り、滴る。
彼女は頭から血を垂れ流し、赤く滲んだ道路の白線上にばったりと倒れた。
その瞳には光が失われている。
僕はただ突っ立って傍観しているだけだ。
手を差し伸べることも、助けを求めることも出来ない。
周りは違う。
勿論ただ口を塞ぎながら悲鳴を上げるだけの者もいれば、すぐに駆けつけ、救急車を呼ぶ者もいた。
彼女のお陰で色づいて見えた世界が灰色に戻ってしまった。
視界が真っ赤と真っ黒で染まった。
逆に涙が出ないほど、悲しすぎて、衝撃的すぎる真実だ。
膝の力が抜け、地に伏せる。
僕「あぁ……あぁ……」
やっと啜り泣いた。
[水平線]
医者「命に別状はありません」
枢寿ちゃんの担当の医者は冷淡と告げた。
正直言って信用ならない。
命に別状はない? じゃあ何なの? 僕はどうすればいいの? 本当にこのままでいいの?
頭に直接話しかけられているように聞こえては消える低い声が僕を問い詰める。そいつをそのまま医者にぶつけてやりたかった。でも出来ない。
医者「大丈夫ですよ。きっと良くなります」
意味も信用価値も心に残る単語もないその一言を、僕は聞き流した。
[水平線]
教師「菱川枢寿さんが、記憶喪失になりました」
退屈な朝の時間に先生は口を開く。
こないだ医者に告げられたんだから、今更言われなくても分かる。
それで……今日はちょっと遅れて来るんだっけ?
キーンコーンカーンコーン……
教師「それでは朝の会を終わりにします」
考え事をしている間に朝の会は終わった。
未だにどこかで普段通りの枢寿ちゃんを期待している自分がいる。
またあの笑顔が見たい。一緒にアイスを食べたい。夏休みになったら、お祭りにも行きたい。
またもや無意味で下らない妄想を巡らせている最中に
ガララッ
ドアが開き、枢寿ちゃんが入ってきた。
僕「お……おはよ! 枢寿ちゃん」
枢寿「えっと……
[大文字][太字]誰ですか貴方?[/太字][/大文字]」
僕「……え?」
人生で一番傷つくこと、それは人に忘れられること。
それが今眼前で起きた。
これが夢であって欲しかった。すぐに目覚めたかった。
だけどこれは明らかに夢じゃない。
変えようのない現実そのものだ。
彼女の席は隣だ。
その後も話しかけたが、彼女は冷たい。
まるで魂だけが入れ替わったように。
[水平線]
まだ明るい放課後、僕は枢寿ちゃんを誘った。
僕「あのさ……今日一緒に帰らない?」
枢寿「また貴方ですか? いい加減にしてくださいよ」
僕「え? あ……
と、とにかく一緒に帰ろ!」
枢寿「はぁ……」
[大文字][太字]枢寿「お断りします」[/太字][/大文字]
僕「え?」
枢寿「今日はお勉強をしなければならないので、失礼」
嘘だ。僕の知ってる枢寿ちゃんは勉強なんかしない。天然で純粋でズボラな子だ。
でも、何も言い残せず、枢寿ちゃんは行ってしまった。
土砂降りな雨が降り出した。僕も枢寿ちゃんも傘を持っていたから、心配はない。
だが一歩踏み出した、
その刹那、
ドドドドドドドドドドドド……
どこかで土砂崩れがした。
いや待てよ、あの方向って枢寿ちゃんが帰ったほうじゃないか?
直ぐ様僕は全力疾走。
いた! 枢寿ちゃんに土砂がすぐ迫ってきてる!
枢寿「あ……あぁ……」
ガシッ
右手は確かに彼女の手を握った感触がした。
震えている枢寿ちゃんを連れて、逃げた。
土砂は僕と彼女の横をスレスレで流れ落ち、ガードレールを突き破った。
なんとか避けられた。
息切れて、枯れている声で僕は言った。
僕「大丈夫?」
枢寿「……ありがと
……ねぇ
[中央寄せ][大文字][太字]君は……栢……徒?[/太字][/大文字][/中央寄せ]」
僕「え?」
枢寿「やっぱり栢徒だよね?」
彼女は微笑みながら涙を流して、僕に抱きついた。
まずい……赤面しているのがバレそう……
枢寿「ありがと……栢徒のお陰で思い出せた
[大文字][太字]私……栢徒のことが好きなんだって[/太字][/大文字]」
その言葉を聞いた途端、今度は僕が死んだ。
雨はやみ、遠くに虹が見える。
いや、脳死でも心臓停止でも、病気でも事故でもない。
「心」が死んだと言ったほうが正しいだろう
そう、
[大文字][太字]君は記憶喪失だ[/太字][/大文字]
[水平線]
まだ斜陽になれない日が佇む午後。
僕の幼馴染であり、唯一の友達でもあった[漢字]枢寿[/漢字][ふりがな]すず[/ふりがな]ちゃんと遊んだ帰りだった。
枢寿「ちょっとトイレ行ってくる!」
僕「うん」
枢寿「……」
僕「どうしたの?」
枢寿「トイレどこだっけ?」
僕「はぁ……」
見ての通り、超天然なんだ。
でも僕は彼女のそんなところに心奪われていた。
僕「あそこだよ」
枢寿「あぁ、ありがと!」
枢寿ちゃんが横断歩道を駆け出した。
刹那、
キキーッ
[中央寄せ][大文字][太字]バァン![/太字][/大文字][/中央寄せ]
僕「……え?」
一瞬にして世界が歪み、時間が引き伸ばされたような感覚に襲われた。
枢寿ちゃんがトラックに轢かれた。
板金は血が飛び散り、滴る。
彼女は頭から血を垂れ流し、赤く滲んだ道路の白線上にばったりと倒れた。
その瞳には光が失われている。
僕はただ突っ立って傍観しているだけだ。
手を差し伸べることも、助けを求めることも出来ない。
周りは違う。
勿論ただ口を塞ぎながら悲鳴を上げるだけの者もいれば、すぐに駆けつけ、救急車を呼ぶ者もいた。
彼女のお陰で色づいて見えた世界が灰色に戻ってしまった。
視界が真っ赤と真っ黒で染まった。
逆に涙が出ないほど、悲しすぎて、衝撃的すぎる真実だ。
膝の力が抜け、地に伏せる。
僕「あぁ……あぁ……」
やっと啜り泣いた。
[水平線]
医者「命に別状はありません」
枢寿ちゃんの担当の医者は冷淡と告げた。
正直言って信用ならない。
命に別状はない? じゃあ何なの? 僕はどうすればいいの? 本当にこのままでいいの?
頭に直接話しかけられているように聞こえては消える低い声が僕を問い詰める。そいつをそのまま医者にぶつけてやりたかった。でも出来ない。
医者「大丈夫ですよ。きっと良くなります」
意味も信用価値も心に残る単語もないその一言を、僕は聞き流した。
[水平線]
教師「菱川枢寿さんが、記憶喪失になりました」
退屈な朝の時間に先生は口を開く。
こないだ医者に告げられたんだから、今更言われなくても分かる。
それで……今日はちょっと遅れて来るんだっけ?
キーンコーンカーンコーン……
教師「それでは朝の会を終わりにします」
考え事をしている間に朝の会は終わった。
未だにどこかで普段通りの枢寿ちゃんを期待している自分がいる。
またあの笑顔が見たい。一緒にアイスを食べたい。夏休みになったら、お祭りにも行きたい。
またもや無意味で下らない妄想を巡らせている最中に
ガララッ
ドアが開き、枢寿ちゃんが入ってきた。
僕「お……おはよ! 枢寿ちゃん」
枢寿「えっと……
[大文字][太字]誰ですか貴方?[/太字][/大文字]」
僕「……え?」
人生で一番傷つくこと、それは人に忘れられること。
それが今眼前で起きた。
これが夢であって欲しかった。すぐに目覚めたかった。
だけどこれは明らかに夢じゃない。
変えようのない現実そのものだ。
彼女の席は隣だ。
その後も話しかけたが、彼女は冷たい。
まるで魂だけが入れ替わったように。
[水平線]
まだ明るい放課後、僕は枢寿ちゃんを誘った。
僕「あのさ……今日一緒に帰らない?」
枢寿「また貴方ですか? いい加減にしてくださいよ」
僕「え? あ……
と、とにかく一緒に帰ろ!」
枢寿「はぁ……」
[大文字][太字]枢寿「お断りします」[/太字][/大文字]
僕「え?」
枢寿「今日はお勉強をしなければならないので、失礼」
嘘だ。僕の知ってる枢寿ちゃんは勉強なんかしない。天然で純粋でズボラな子だ。
でも、何も言い残せず、枢寿ちゃんは行ってしまった。
土砂降りな雨が降り出した。僕も枢寿ちゃんも傘を持っていたから、心配はない。
だが一歩踏み出した、
その刹那、
ドドドドドドドドドドドド……
どこかで土砂崩れがした。
いや待てよ、あの方向って枢寿ちゃんが帰ったほうじゃないか?
直ぐ様僕は全力疾走。
いた! 枢寿ちゃんに土砂がすぐ迫ってきてる!
枢寿「あ……あぁ……」
ガシッ
右手は確かに彼女の手を握った感触がした。
震えている枢寿ちゃんを連れて、逃げた。
土砂は僕と彼女の横をスレスレで流れ落ち、ガードレールを突き破った。
なんとか避けられた。
息切れて、枯れている声で僕は言った。
僕「大丈夫?」
枢寿「……ありがと
……ねぇ
[中央寄せ][大文字][太字]君は……栢……徒?[/太字][/大文字][/中央寄せ]」
僕「え?」
枢寿「やっぱり栢徒だよね?」
彼女は微笑みながら涙を流して、僕に抱きついた。
まずい……赤面しているのがバレそう……
枢寿「ありがと……栢徒のお陰で思い出せた
[大文字][太字]私……栢徒のことが好きなんだって[/太字][/大文字]」
その言葉を聞いた途端、今度は僕が死んだ。
雨はやみ、遠くに虹が見える。
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