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不幸の温度

#30

エピローグ

 要塞アイゼンが崩壊してから、数ヶ月が経った。
 世界から「魔導宰相」と「強欲の支配者」が消え、新しい秩序が芽吹き始めていた。

 人里離れた静かな森の奥、かつての研究所を思わせる小さなログハウス。
 そこから、香ばしいスープの匂いと、賑やかな話し声が漏れてくる。

「ちょっとラカス! その野菜、切り方が雑すぎ! 私のセンサーが0.1ミリの誤差を検知してるわよ!」
「わ、わかったよニナ……。でも、機械の体に包丁を持たされる僕の身にもなってよ……」

 エプロン姿のラカスと、小型の浮遊ボディに魂を移し替えたニナが、キッチンでいつものように言い争っている。その光景を、テラスの椅子に腰掛けたコジャールが、本を片手に穏やかな笑みで見守っていた。焼かれた左肩の傷跡は、今では彼女にとって「誇り」の証だ。

「……ふふ。今日も平和ね」

 そこへ、薪を抱えたデスディチャが戻ってきた。
 かつての紅い髪は、魔力の安定とともに、また少しずつ柔らかな白へと戻り始めている。けれど、その瞳に宿る光は、もう絶望に濁ることはない。

「コジャールさん、ただいま」
「おかえりなさい、デスディチャ。……少し、顔色が良くなったわね」

 デスディチャは、自分の手を見つめた。
 かつては50℃の熱で、触れるものすべてを拒絶していたこの手。
 今は、薬を使わなくても、愛する仲間たちの温もりをそのままに感じることができる。

 彼女は、ソファーで丸まって眠っているアバリシア――魔力を失い、幼子のように眠り続ける妹――の肩に、そっとブランケットを掛けた。

「……あつい?」
 眠りの中の妹が、うわ言で呟く。
 デスディチャは、その手を優しく握りしめた。

「ううん。……ちょうどいい温度だよ、アバリシア」

 窓の外には、どこまでも続く青い空。
 「[漢字]不幸[/漢字][ふりがな]デスティチャ[/ふりがな]」という名の少女が、長い旅の末に見つけたのは、伝説の秘宝でも、神の力でもなかった。

 それは、喧嘩をして、笑い合い、時に泣きながら、同じ食卓を囲む日常。
 彼女がずっと探していた「本当の温もり」は、最初から、すぐ隣にあったのだ。

「デスディチャ、ご飯できたよ! 早く来ないとニナに全部食べられちゃう!」
「ちょっと、ラカス! 私はオイルしか飲まないわよ! ……あ、でもそのスープ、一口だけならプログラムに書き込んであげてもいいわよ!」

 仲間たちの声に呼ばれ、デスディチャは弾むような足取りでリビングへと向かう。
 扉を開ける瞬間、彼女は一度だけ振り返り、かつて自分を縛り付けていた空へ、晴れやかな笑顔を向けた。

 ――さようなら、わたしの不運。
 ――こんにちは、わたしの「[漢字]優しさ[/漢字][ふりがな]テルヌーラ[/ふりがな]」。

 物語のページはここで閉じられる。
 けれど、彼らの「温かな日々」は、これからもずっと、この世界のどこかで続いていく。


【不幸の温度・完】

作者メッセージ

完結!

今までありがとございますた!

パスタ!

2026/02/27 20:16

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
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