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不幸の温度

#29

#15強欲の残滓

「……あ、あはは! あははははははッ!!」

 要塞アイゼンの最上階に、正気を失った高笑いが響き渡った。
 アバリシア。かつて優雅に糸を操っていた「支配者」の姿は、もうそこにはない。
 ラカスが暴いた指先の綻びから、制御を失った数万本の糸が逆流し、彼女自身の白く細い手足に食い込んでいた。

「私の糸が……私の完璧な世界が、こんなゴミ共に汚されるなんて……! だったら、全部、全部いらないわッ!!」

 ミリ、ミリ……と、彼女の肉体が自らの糸で切り刻まれ、鮮血が舞う。
 しかし、アバリシアはその激痛を快楽に変えるように、血塗れの顔を吊り上げた。

「お姉様……見てる? あなたが守りたかったこの子も、あの男の子も、鉄屑の妖精も……私の『命』を燃料にして、この要塞ごと消してあげる!!」

 彼女の心臓部――魔導核が、どす黒い光を放ち、脈打ち始めた。
 要塞の全エネルギーを逆流させ、自らを爆弾に変える禁忌の自爆術。

「……あいつ、正気じゃないわ! 死ぬ気よ!」
 ニナが叫び、ラカスは倒れたコジャールを庇うように盾となる。

「……アバリシア……もう、やめて……!」
 デスディチャが、一歩、また一歩と、崩壊を始めたアバリシアへと歩み寄る。

「来なさい、不幸な女の子! 一緒に地獄へ行きましょう! そこで永遠に、私の操り人形にしてあげるから!!」

 アバリシアを中心に、世界が歪むほどの魔力が膨れ上がる。
 爆発まで、あと数秒。
 デスディチャは、逃げなかった。彼女は静かに、自分の胸に手を当てた。

「……わたしの熱は、だれかを守るためにあるって……みんなが教えてくれた」

 デスディチャの紅い髪が、白銀の光を帯びて輝き出す。
 ペテンテに与えられた「破壊」でも、アバリシアに利用された「絶望」でもない。
 それは、三年間の孤独を越え、再会した仲間たちの想いを束ねた、「命の温度」。

「アバリシア……さようなら。……あなたの『強欲』、わたしが全部、焼き切ってあげる」

第一部完結・最終奥義:『慈愛の白夜(テルヌーラ・ノヴァ)』

 デスディチャがアバリシアを抱きしめた瞬間、要塞全体を包み込むような、温かくて眩しい光が溢れ出した。



[水平線]

 
 爆発は起きなかった。
 アバリシアの自爆エネルギーは、デスディチャの「包み込むような熱」によって、ただの光の粒子へと分解され、アイゼンの空へと霧散していった。

 崩れ落ちる要塞の跡地。
 そこには、糸から解放され、ただの抜け殻のようになったアバリシアを抱くデスディチャと、ボロボロになりながらも生き残った仲間たちの姿があった。

「……終わったんだね」
 ラカスが、空を見上げて呟く。

「……フン、当然よ。私のボディを修理する費用、後でたっぷり請求してやるんだから」
 ニナが、照れ隠しに悪態をつく。

 そして、デスディチャの腕の中で目を覚ましたコジャールが、妹の青ざめた顔を悲しげに見つめ、それからデスディチャを見て、優しく微笑んだ。

「……おかえり、デスディチャ。……いいえ、今のあなたは……最高の、自分自身ね」

 朝日が昇る。
 50℃の熱に苦しんでいた少女は、もういない。
 そこには、仲間と共に「本当の温もり」を求めて歩き出す、一人の女性の姿があった。

【第二部:不幸と強欲の連鎖・完】



作者メッセージ

最近本格的に小説の勉強を始めました

感想コメント是非ください!

2026/02/27 20:11

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
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