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不幸の温度

#28

#14冰の劣等生(後編)

「……不愉快。ゴミ共が寄り集まって、私の糸を汚すなんて」

 アバリシアの桃色の髪が、怒りの魔力で逆立つ。
 彼女の背後からは、要塞『アイゼン』の全エネルギーを供給された数万本の『断罪の糸』が、毒蛇のように蠢いていた。一本一本が鋼鉄を切り裂き、魔力を吸い取る死のライン。

 倒れたコジャールを抱えるデスディチャ。
 そして、いまだ重力魔法の糸で床に縫い付けられているラカスとニナ。
 絶体絶命の状況。しかし、ラカスだけは、その鋭い「狙撃手の目」を一度も逸らしていなかった。

(……おかしい。さっきからずっと、あいつの指先と、要塞の動力源の『波長』がズレている)

 三年間、コジャールの下で地獄の訓練を積んできたラカス。
 彼は知っていた。アバリシアの「糸」は、繊細すぎるがゆえに、膨大なエネルギーを扱うとき、必ず「中継地点」を必要とすることを。

「……ニナ。……僕が合図したら、右腕の残弾を全部、あいつの足元の影に撃ち込んで」

「はぁ!? あんた何言って……私、今指一本動かないのよ!?」

「……できるよ。ニナは、デスディチャに名前をもらった『妖精』だろ。……あいつの糸、ニナの『魂』までは縛れてない」

 ラカスは、ギリ、と奥歯を鳴らし、重力魔法の不可視の糸を、自らの肩の骨が外れるほどの力で跳ね除けた。

「なっ……!? ただの人間が、私の重力縛を……!?」

「アバリシア!! あんたの弱点、見えたよ!!」

 ラカスが叫ぶ。
 アバリシアの魔法は完璧だ。しかし、彼女は「自分以外の存在」を信じていない。だから、糸の制御をすべて自分一人で、それも要塞の外部魔力を無理やり引き込んで行っている。

「あんたは糸で人を繋ぐけど、誰とも繋がってない! その糸……『あんた自身の指先』が、一番の脆弱性(ボトルネック)なんだよ!!」

 ラカスの指摘に、アバリシアの顔が初めて青ざめた。
 そう、数万本の糸を同時に操る彼女の指先には、今、想像を絶する[漢字]負荷[/漢字][ふりがな]フィードバック[/ふりがな]がかかっている。そこにほんの少しの「振動」が加われば、制御は崩壊する。

「ニナ、今だッ!!」

「――言われなくてもッ!! 『[漢字]妖精の悪戯[/漢字][ふりがな]ピクシー・グリッチ[/ふりがな]』!!」

 ニナが魂の底から魔力を絞り出し、自らの装甲を一部自爆させることで、重力縛を強引に解除。そのまま右腕のガトリングを、アバリシアの足元ではなく、「要塞の魔力供給ライン」へと叩き込んだ。

 ズガガガガガガガッ!!

「……っ、しまった!?」

 魔力の供給が微かに乱れる。
 その瞬間、アバリシアの十本の指に、数万本分の糸の反動が襲いかかった。

「……あ、あああああああッ!? 私の指が……私の糸がぁぁッ!!」

 完璧だった糸が絡まり、逆にアバリシア自身の肉体を締め上げ始める。
 天才が、自らの完璧さに首を絞められる瞬間。

「……今だよ、デスディチャ!!」

 ラカスが、焦土の中で叫んだ。


作者メッセージ

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2026/02/26 20:14

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
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