「……ア、アバリシア……やめて……! コジャールさんを……殺したくない……!!」
デスディチャの絶叫が要塞に響く。しかし、彼女の意思とは無関係に、アバリシアの放つ『操り糸』が紅い筋となって彼女の神経を支配していた。
デスディチャの右拳が白熱し、かつてないほどの熱量が収束していく。それは、目の前に立つコジャールの心臓を確実に撃ち抜くための、「死の導火線」だった。
「無駄よ、デスディチャ。お姉様は昔からそうなの。無能のくせに、自分より価値のあるものを守ろうとして自滅する。……さあ、その熱でお姉様を蒸発させてあげなさい」
アバリシアが指先を跳ね上げる。
放たれる、紅蓮の衝撃。
――ドォォォォォォォォンッ!!!
爆煙が晴れたとき、そこには予想外の光景が広がっていた。
コジャールは逃げていなかった。それどころか、死を覚悟した真っ直ぐな瞳で、デスディチャの熱い拳を、自らの左肩で受け止めていたのだ。
「……っ、が、あぁぁぁぁぁぁッ!!!」
じりじりと肉が焼ける嫌な音が響き、コジャールの軍服が燃え上がる。
けれど、彼女は倒れない。焼かれた肩の痛みなど微塵も感じていないかのように、残った右腕で、デスディチャの震える体を強く抱きしめた。
「……バカね、デスディチャ。……あんな奴の糸に、負けてるんじゃないわよ」
「コジャール、さん……? どうして……逃げないで……わたしの熱で、死んじゃう……!」
「死なないわよ。……私、知ってるの。……魔法が使えなくて、誰からも必要とされなくて……自分は世界で一番『不幸(デスディチャ)』だって、泣いていた頃の自分を」
コジャールの脳裏に、妹に罵られ、冷たい雨の中で震えていた幼い日の自分が重なる。
彼女は、血の混じった水を全身から溢れ出させた。それは妹のような「華やかな糸」ではない。泥にまみれ、地を這い、泥臭く積み上げてきた『執念の結界』。
「……見てなさい、アバリシア。……これが、あんたがバカにした『無能』の、唯一の取り柄よ!!」
コジャールが叫ぶとともに、彼女の体から溢れた「血の水」が、デスディチャに絡みついていたアバリシアの魔力の糸を、強引に、物理的に引きちぎった。
魔力による相性ではない。自分の命そのものを「溶媒」にして、妹の魔法を強引に中和するという、狂気の心中術。
「……なっ!? バカな……私の糸を、力技で引きちぎった……!? 魔力も持たないゴミが、何をしたの!?」
アバリシアが初めて、その美しい顔を驚愕に歪め、数歩後退した。
計算外。
天才である彼女の数式には、「自分を焼きながら他人を抱きしめる」という非合理な行動など、一行も書かれていなかったからだ。
「……はぁ、はぁ……。デスディチャ……。……もう、大丈夫よ。……あんたは、一人じゃない……」
コジャールは真っ赤に焼けた肩を落とし、そのままデスディチャの腕の中へ崩れ落ちた。
けれど、その口元には、三年前に見せた「大人の余裕」ではない、泥臭くも晴れやかな勝利の笑みが浮かんでいた。
「くっ……でも、まだ終わりじゃないわよ!」
デスディチャの絶叫が要塞に響く。しかし、彼女の意思とは無関係に、アバリシアの放つ『操り糸』が紅い筋となって彼女の神経を支配していた。
デスディチャの右拳が白熱し、かつてないほどの熱量が収束していく。それは、目の前に立つコジャールの心臓を確実に撃ち抜くための、「死の導火線」だった。
「無駄よ、デスディチャ。お姉様は昔からそうなの。無能のくせに、自分より価値のあるものを守ろうとして自滅する。……さあ、その熱でお姉様を蒸発させてあげなさい」
アバリシアが指先を跳ね上げる。
放たれる、紅蓮の衝撃。
――ドォォォォォォォォンッ!!!
爆煙が晴れたとき、そこには予想外の光景が広がっていた。
コジャールは逃げていなかった。それどころか、死を覚悟した真っ直ぐな瞳で、デスディチャの熱い拳を、自らの左肩で受け止めていたのだ。
「……っ、が、あぁぁぁぁぁぁッ!!!」
じりじりと肉が焼ける嫌な音が響き、コジャールの軍服が燃え上がる。
けれど、彼女は倒れない。焼かれた肩の痛みなど微塵も感じていないかのように、残った右腕で、デスディチャの震える体を強く抱きしめた。
「……バカね、デスディチャ。……あんな奴の糸に、負けてるんじゃないわよ」
「コジャール、さん……? どうして……逃げないで……わたしの熱で、死んじゃう……!」
「死なないわよ。……私、知ってるの。……魔法が使えなくて、誰からも必要とされなくて……自分は世界で一番『不幸(デスディチャ)』だって、泣いていた頃の自分を」
コジャールの脳裏に、妹に罵られ、冷たい雨の中で震えていた幼い日の自分が重なる。
彼女は、血の混じった水を全身から溢れ出させた。それは妹のような「華やかな糸」ではない。泥にまみれ、地を這い、泥臭く積み上げてきた『執念の結界』。
「……見てなさい、アバリシア。……これが、あんたがバカにした『無能』の、唯一の取り柄よ!!」
コジャールが叫ぶとともに、彼女の体から溢れた「血の水」が、デスディチャに絡みついていたアバリシアの魔力の糸を、強引に、物理的に引きちぎった。
魔力による相性ではない。自分の命そのものを「溶媒」にして、妹の魔法を強引に中和するという、狂気の心中術。
「……なっ!? バカな……私の糸を、力技で引きちぎった……!? 魔力も持たないゴミが、何をしたの!?」
アバリシアが初めて、その美しい顔を驚愕に歪め、数歩後退した。
計算外。
天才である彼女の数式には、「自分を焼きながら他人を抱きしめる」という非合理な行動など、一行も書かれていなかったからだ。
「……はぁ、はぁ……。デスディチャ……。……もう、大丈夫よ。……あんたは、一人じゃない……」
コジャールは真っ赤に焼けた肩を落とし、そのままデスディチャの腕の中へ崩れ落ちた。
けれど、その口元には、三年前に見せた「大人の余裕」ではない、泥臭くも晴れやかな勝利の笑みが浮かんでいた。
「くっ……でも、まだ終わりじゃないわよ!」
- 1.#1熱砂の咆哮
- 2.#2無機質(前編)
- 3.#2無機質(後編)
- 4.#3遺跡(前編)
- 5.#3遺跡(中編)
- 6.#3遺跡(後編)
- 7.#4冰の中の「お姫様」(前編)
- 8.#4冰の中の「お姫様」(後編)
- 9.#5水色の嘘(前編)
- 10.#5水色の嘘(中編)
- 11.#5水色の嘘(後編)
- 12.#6凍てつく事実
- 13.#7毒の滴り(前編)
- 14.#7毒の滴り(中編)
- 15.#7毒の滴り(後編)
- 16.#8崩壊の聖域
- 17.#9再会
- 18.#10再起の咆哮(前編)
- 19.#10再起の咆哮(中編)
- 20.#10再起の咆哮(後編)
- 21.#11不完全生命体(前編)
- 22.#11不完全生命体(中編)
- 23.#11不完全生命体(後編)
- 24.#12血眼
- 25.#13道化師と強欲
- 26.#14冰の劣等生(前編)
- 27.#14冰の劣等生(中編)
- 28.#14冰の劣等生(後編)
- 29.#15強欲の残滓
- 30.エピローグ