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不幸の温度

#27

#14冰の劣等生(中編)

「……ア、アバリシア……やめて……! コジャールさんを……殺したくない……!!」

 デスディチャの絶叫が要塞に響く。しかし、彼女の意思とは無関係に、アバリシアの放つ『操り糸』が紅い筋となって彼女の神経を支配していた。
 デスディチャの右拳が白熱し、かつてないほどの熱量が収束していく。それは、目の前に立つコジャールの心臓を確実に撃ち抜くための、「死の導火線」だった。

「無駄よ、デスディチャ。お姉様は昔からそうなの。無能のくせに、自分より価値のあるものを守ろうとして自滅する。……さあ、その熱でお姉様を蒸発させてあげなさい」

 アバリシアが指先を跳ね上げる。
 放たれる、紅蓮の衝撃。

 ――ドォォォォォォォォンッ!!!

 爆煙が晴れたとき、そこには予想外の光景が広がっていた。
 コジャールは逃げていなかった。それどころか、死を覚悟した真っ直ぐな瞳で、デスディチャの熱い拳を、自らの左肩で受け止めていたのだ。

「……っ、が、あぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 じりじりと肉が焼ける嫌な音が響き、コジャールの軍服が燃え上がる。
 けれど、彼女は倒れない。焼かれた肩の痛みなど微塵も感じていないかのように、残った右腕で、デスディチャの震える体を強く抱きしめた。

「……バカね、デスディチャ。……あんな奴の糸に、負けてるんじゃないわよ」

「コジャール、さん……? どうして……逃げないで……わたしの熱で、死んじゃう……!」

「死なないわよ。……私、知ってるの。……魔法が使えなくて、誰からも必要とされなくて……自分は世界で一番『不幸(デスディチャ)』だって、泣いていた頃の自分を」

 コジャールの脳裏に、妹に罵られ、冷たい雨の中で震えていた幼い日の自分が重なる。
 彼女は、血の混じった水を全身から溢れ出させた。それは妹のような「華やかな糸」ではない。泥にまみれ、地を這い、泥臭く積み上げてきた『執念の結界』。

「……見てなさい、アバリシア。……これが、あんたがバカにした『無能』の、唯一の取り柄よ!!」

 コジャールが叫ぶとともに、彼女の体から溢れた「血の水」が、デスディチャに絡みついていたアバリシアの魔力の糸を、強引に、物理的に引きちぎった。
 魔力による相性ではない。自分の命そのものを「溶媒」にして、妹の魔法を強引に中和するという、狂気の心中術。

「……なっ!? バカな……私の糸を、力技で引きちぎった……!? 魔力も持たないゴミが、何をしたの!?」

 アバリシアが初めて、その美しい顔を驚愕に歪め、数歩後退した。
 計算外。
 天才である彼女の数式には、「自分を焼きながら他人を抱きしめる」という非合理な行動など、一行も書かれていなかったからだ。

「……はぁ、はぁ……。デスディチャ……。……もう、大丈夫よ。……あんたは、一人じゃない……」

 コジャールは真っ赤に焼けた肩を落とし、そのままデスディチャの腕の中へ崩れ落ちた。
 けれど、その口元には、三年前に見せた「大人の余裕」ではない、泥臭くも晴れやかな勝利の笑みが浮かんでいた。


「くっ……でも、まだ終わりじゃないわよ!」

作者メッセージ

たこたこぴーだん

2026/02/25 20:28

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
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