文字サイズ変更

不幸の温度

#26

#14冰の劣等生(前編)

 アバリシアの「糸」に拘束され、要塞の冷たい床に縫い付けられたコジャール。その脳裏に、水底に沈めていたはずの、忌まわしい記憶が濁流となって流れ込んできた。

 ――魔導名家、アクア・レジーナ家。
 代々、純度の高い水魔法を継承するその一族において、長女であるコジャールは「[漢字]石女[/漢字][ふりがな]うまずめ[/ふりがな]」ならぬ「[漢字]出ず女[/漢字][ふりがな]いずめ[/ふりがな]」と呼ばれていた。

「……お姉様。また、一滴も出せなかったの?」

 十数年前。庭園の噴水の前で、当時まだ幼かったアバリシアが、残酷に澄んだ瞳で姉を見下ろしていた。
 アバリシアの手のひらからは、美しく、それでいて鋭利な水の糸が幾筋も伸び、周囲の蝶をなぶり殺しにしている。彼女は生まれながらにして、一族の誰よりも高い魔導適性を持っていた。

 対するコジャールは、どれほど歯を食いしばり、魔導書を読み耽っても、指先から霧の一吹きすら出すことができなかった。

「……努力なんて、無能の慰めよ。お姉様、あなたにはこの家の血を引く資格なんてないわ。……死ねばいいのに」

 アバリシアのその一言は、呪いとなってコジャールの心に深く刺さった。
 両親の冷ややかな視線、使用人たちの陰口、そして妹からの終わりのない蔑み。
 コジャールが家を飛び出し、戦場を渡り歩いて「自力で」魔力を絞り出す術を学んだのは、ただ妹の影から逃れるためだけだった。

「……っ、ふふ……。あの日、あんたに捨てられた私が……今のあんたの『糸』を斬るために、どれだけの地獄を見てきたか……教えてあげるわ!」

 現在。
 コジャールは、食い込む糸で血を流しながらも、不敵に笑った。
 彼女の全身から、かつては「一滴も出なかった」水が、どす黒い「血」を混ぜて噴き出し始める。

『[漢字]屍水の聖域[/漢字][ふりがな]ブラッド・レクイエム[/ふりがな]!』

「――アバリシア!! あんたに見下されていた『石女』の、執念を見なさい!!」

 コジャールの体から溢れた水が、アバリシアの糸を物理的に「腐食」させていく。
 それは魔力による相性ではなく、己の命を削って魔力へ変換する、捨て身の術式だった。

「あら、見苦しいわね。……そんなに死に急ぎたいのなら、望み通りにしてあげる」

 アバリシアは眉ひとつ動かさず、指先を複雑に躍らせた。
 要塞の影から、無数の「糸」がデスディチャ、ラカス、そしてニナへと伸びていく。

「お姉様、あなたがどれだけ頑張っても、あなたの守りたいものは、私の指先一つで壊れるのよ。……さあ、デスディチャ。お姉様を……『殺しなさい』」

「……っ、やめて……! アバリシアッ!!」

 アバリシアの糸がデスディチャの首筋に絡みつき、彼女の意志を無視して、その紅い拳をコジャールへと向けさせた。

作者メッセージ

アバリシアの第一印象→蟻?

2026/02/24 20:44

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
コメント

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権は♗◈夢見鳥◈♗さんに帰属します

TOP