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不幸の温度

#23

#11不完全生命体(後編)

 要塞アイゼンの最上部、天を突く尖塔の広間。
 かつては帝国の威信を象徴していた美しいステンドグラスは、デスディチャの熱とペテンテの魔圧がぶつかり合う衝撃で粉々に砕け散り、色鮮やかな破片が雪のように降り注いでいる。

 その光景を背に、五人は一列に並んだ。

「……ふん。ゴミがこれだけ集まれば、多少は見栄えがするな」

 対峙するペテンテ。彼の姿は、もはやエルフの優雅さなど微塵も残っていない。
 全身を走る黒い魔導回路が血管のように浮き出し、脈打つたびにどす黒い魔素が溢れ出している。背後には、要塞の全エネルギーを連結した巨大な魔方陣が、生き物のようにドクン、ドクンと不気味な鼓動を刻んでいた。

「ペテンテ。あんたの実験は、ここで終わりよ」

 中央に立つコジャールが、短く切った水色の髪を熱風にたなびかせ、二振りの水刃を交差させた。
 かつてはペテンテに翻弄され、絶望に膝をついた。けれど、今の彼女の瞳には、かつての自分への決別と、未来を切り開くための静かな怒りが宿っている。彼女が編み出す水は、もはやただの液体ではない。仲間の命を護り、道を切り拓くための「盾」であり「矛」だ。

「デスディチャは、もうあんたの道具じゃない。僕たちが、あの子の自由を証明する!」

 その隣で、ラカスが巨大な魔導狙撃銃のボルトを引き、重厚な金属音を響かせる。
 三年前、あの日流した涙は、銃を握る手のひらのタコに変わった。震えていた足は、今や要塞の床を真っ向から踏みしめている。彼の視線の先には、最愛の少女を苦しめ続けた元凶しか映っていない。

「へっ、生意気言うじゃない。……アンタこそ、足引っ張ったらそのケツ、私のミサイルで蹴り飛ばしてあげるわよ!」

 鋼鉄の翼を広げたニナが、空中に浮遊しながら挑発的に笑う。
 機械の体になったことで失ったものは多い。けれど、彼女は今、自らの意志でこの場に立っている。ペテンテに書き込まれた「兵器」としての自分を、自らの魂で上書きして。

 そして、その中央。
 紅い髪を激しく揺らし、静かに、けれど誰よりも激しい決意を瞳に宿したデスディチャが、一歩前に出た。

「……ペテンテさま。……さようなら。わたしの、偽物の神様」

 その言葉が、開戦の合図だった。

「――っ、殺せ! 全員、原子の塵にしてくれる!!」

 ペテンテの叫びとともに、要塞全体から無数の黒い雷撃が放たれる。大気が焼け、オゾンの匂いが立ち込める。

「ラカス、狙撃! ニナ、上空からの制圧! デスディチャ、私に合わせなさい!」

 コジャールの鋭い指示。
 かつてはバラバラで、それぞれが深い孤独と絶望の中にいた。けれど、今この瞬間だけは、五人の鼓動が一つに重なっていた。

「……行くよ、みんな!!」

 デスディチャの足元から、紅蓮の炎が爆ぜる。
 一国の宰相であり、神を自称する男への、不完全な家族たちの反逆。
 
 まず動いたのは、かつて「臆病者」と呼ばれた少年、ラカスだった。

「……三年前の、借りを返す!!」

 狙撃銃の引き金が引かれる。蒼い魔弾が、ペテンテの絶対防御を真っ向から貫くために放たれた。


作者メッセージ

私「こなー」友達「ゆきー」

私「ひろー」友達「ゆきー」

2026/02/17 20:42

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
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