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不幸の温度

#22

#11不完全生命体(中編)

「……ふふ、あはははは! ニナ、お前の『意志』など、私の数式の前では無力だ」

 瓦礫の中から立ち上がったペテンテが、壊れた眼鏡を投げ捨て、義手の指先で空中に『強制停止』の術式を描いた。

 ピピッ――。

 ニナの鋼鉄の胸の奥で、不吉な警告音が鳴り響く。

「なっ……なによ、これ……!? 体が……動かない……っ!」

「自爆装置の[漢字]起動[/漢字][ふりがな]カウントダウン[/ふりがな]だ。残り六十秒。……お前が私に牙を剥いた瞬間、その魔導心臓(コア)は暴走し、周囲一キロメートルを消滅させる。……デスディチャ、お前の大切(笑)な仲間が、お前の目の前で木っ端微塵になる気分はどうだ?」

「……に、な……?」

 デスディチャが、震える手でニナの冷たい装甲に触れる。
 ラカスも狙撃銃を投げ捨て、必死にニナの胸部装甲をこじ開けようとするが、鋼鉄の板はびくともしない。

「逃げ……なさいよ……ラカス、デスディチャ……。このままだと、アンタたちまで……っ!」

 ニナの機械の瞳から、火花のような涙が散る。
 三年前、自分に名前をくれた少女。自分を「人間」として扱ってくれた少年。彼らを、自分の「死」に巻き込むことだけは耐えられなかった。

「……だめ。いかせない」

 デスディチャが、ニナの胸元に両手を押し当てた。
 50℃。いや、今はそれ以上の熱。
 けれど、その熱は周囲を焼き尽くす「破壊」の熱ではなかった。

「デスディチャ!? 何をする気だ、火傷するぞ!」

「ラカス、下がって。……ニナ、熱いの、がまんしてね」

 デスディチャの紅い瞳が、かつてないほどに澄み渡る。
 彼女は、ペテンテに教わった「破壊」の術式を逆回転させた。
 熱とは、エネルギーの振動。ならば、その振動をピンポイントで「自爆プログラム」が刻まれた極小のチップだけに集中させ、「焼き切る」。

『[漢字]微細なる陽炎[/漢字][ふりがな]ミクロス・イグニス[/ふりがな]』

 ジュウ……と、ニナの装甲の隙間から細い煙が上がる。

「ぐ、あ……あつい……あつい……っ!!」

「……あと、すこし……! わたしの熱、いうことをきいて……! だれかを守るための……温もりに、なって!!」

 デスディチャの掌から放たれる熱が、ニナの内部回路を精密にスキャンし、ペテンテの仕掛けた「呪い」だけを正確に溶かしていく。

 ――3……2……1……

 カチリ。

 爆発の代わりに、ニナの胸から黒い煙が吐き出され、警告音が止まった。

「…………え?」

 ニナが呆然と自分の手を見つめる。
 自爆装置は沈黙し、彼女を縛っていた「プログラム」の重圧も消えていた。

「……ばか。……あんた、本当に、バカなんだから……っ」

 ニナは膝をつき、デスディチャに抱きついた。
 鋼鉄の体は相変わらず冷たいけれど、二人の間には、世界で一番温かい沈黙が流れていた。

作者メッセージ

警告音といえば、あの警報とかが発表されたときの「テレテレテー♪」ですよね。
あの、全人類が嫌う音。

2026/02/16 20:35

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
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