「……ふふ、あはははは! ニナ、お前の『意志』など、私の数式の前では無力だ」
瓦礫の中から立ち上がったペテンテが、壊れた眼鏡を投げ捨て、義手の指先で空中に『強制停止』の術式を描いた。
ピピッ――。
ニナの鋼鉄の胸の奥で、不吉な警告音が鳴り響く。
「なっ……なによ、これ……!? 体が……動かない……っ!」
「自爆装置の[漢字]起動[/漢字][ふりがな]カウントダウン[/ふりがな]だ。残り六十秒。……お前が私に牙を剥いた瞬間、その魔導心臓(コア)は暴走し、周囲一キロメートルを消滅させる。……デスディチャ、お前の大切(笑)な仲間が、お前の目の前で木っ端微塵になる気分はどうだ?」
「……に、な……?」
デスディチャが、震える手でニナの冷たい装甲に触れる。
ラカスも狙撃銃を投げ捨て、必死にニナの胸部装甲をこじ開けようとするが、鋼鉄の板はびくともしない。
「逃げ……なさいよ……ラカス、デスディチャ……。このままだと、アンタたちまで……っ!」
ニナの機械の瞳から、火花のような涙が散る。
三年前、自分に名前をくれた少女。自分を「人間」として扱ってくれた少年。彼らを、自分の「死」に巻き込むことだけは耐えられなかった。
「……だめ。いかせない」
デスディチャが、ニナの胸元に両手を押し当てた。
50℃。いや、今はそれ以上の熱。
けれど、その熱は周囲を焼き尽くす「破壊」の熱ではなかった。
「デスディチャ!? 何をする気だ、火傷するぞ!」
「ラカス、下がって。……ニナ、熱いの、がまんしてね」
デスディチャの紅い瞳が、かつてないほどに澄み渡る。
彼女は、ペテンテに教わった「破壊」の術式を逆回転させた。
熱とは、エネルギーの振動。ならば、その振動をピンポイントで「自爆プログラム」が刻まれた極小のチップだけに集中させ、「焼き切る」。
『[漢字]微細なる陽炎[/漢字][ふりがな]ミクロス・イグニス[/ふりがな]』
ジュウ……と、ニナの装甲の隙間から細い煙が上がる。
「ぐ、あ……あつい……あつい……っ!!」
「……あと、すこし……! わたしの熱、いうことをきいて……! だれかを守るための……温もりに、なって!!」
デスディチャの掌から放たれる熱が、ニナの内部回路を精密にスキャンし、ペテンテの仕掛けた「呪い」だけを正確に溶かしていく。
――3……2……1……
カチリ。
爆発の代わりに、ニナの胸から黒い煙が吐き出され、警告音が止まった。
「…………え?」
ニナが呆然と自分の手を見つめる。
自爆装置は沈黙し、彼女を縛っていた「プログラム」の重圧も消えていた。
「……ばか。……あんた、本当に、バカなんだから……っ」
ニナは膝をつき、デスディチャに抱きついた。
鋼鉄の体は相変わらず冷たいけれど、二人の間には、世界で一番温かい沈黙が流れていた。
瓦礫の中から立ち上がったペテンテが、壊れた眼鏡を投げ捨て、義手の指先で空中に『強制停止』の術式を描いた。
ピピッ――。
ニナの鋼鉄の胸の奥で、不吉な警告音が鳴り響く。
「なっ……なによ、これ……!? 体が……動かない……っ!」
「自爆装置の[漢字]起動[/漢字][ふりがな]カウントダウン[/ふりがな]だ。残り六十秒。……お前が私に牙を剥いた瞬間、その魔導心臓(コア)は暴走し、周囲一キロメートルを消滅させる。……デスディチャ、お前の大切(笑)な仲間が、お前の目の前で木っ端微塵になる気分はどうだ?」
「……に、な……?」
デスディチャが、震える手でニナの冷たい装甲に触れる。
ラカスも狙撃銃を投げ捨て、必死にニナの胸部装甲をこじ開けようとするが、鋼鉄の板はびくともしない。
「逃げ……なさいよ……ラカス、デスディチャ……。このままだと、アンタたちまで……っ!」
ニナの機械の瞳から、火花のような涙が散る。
三年前、自分に名前をくれた少女。自分を「人間」として扱ってくれた少年。彼らを、自分の「死」に巻き込むことだけは耐えられなかった。
「……だめ。いかせない」
デスディチャが、ニナの胸元に両手を押し当てた。
50℃。いや、今はそれ以上の熱。
けれど、その熱は周囲を焼き尽くす「破壊」の熱ではなかった。
「デスディチャ!? 何をする気だ、火傷するぞ!」
「ラカス、下がって。……ニナ、熱いの、がまんしてね」
デスディチャの紅い瞳が、かつてないほどに澄み渡る。
彼女は、ペテンテに教わった「破壊」の術式を逆回転させた。
熱とは、エネルギーの振動。ならば、その振動をピンポイントで「自爆プログラム」が刻まれた極小のチップだけに集中させ、「焼き切る」。
『[漢字]微細なる陽炎[/漢字][ふりがな]ミクロス・イグニス[/ふりがな]』
ジュウ……と、ニナの装甲の隙間から細い煙が上がる。
「ぐ、あ……あつい……あつい……っ!!」
「……あと、すこし……! わたしの熱、いうことをきいて……! だれかを守るための……温もりに、なって!!」
デスディチャの掌から放たれる熱が、ニナの内部回路を精密にスキャンし、ペテンテの仕掛けた「呪い」だけを正確に溶かしていく。
――3……2……1……
カチリ。
爆発の代わりに、ニナの胸から黒い煙が吐き出され、警告音が止まった。
「…………え?」
ニナが呆然と自分の手を見つめる。
自爆装置は沈黙し、彼女を縛っていた「プログラム」の重圧も消えていた。
「……ばか。……あんた、本当に、バカなんだから……っ」
ニナは膝をつき、デスディチャに抱きついた。
鋼鉄の体は相変わらず冷たいけれど、二人の間には、世界で一番温かい沈黙が流れていた。
- 1.#1熱砂の咆哮
- 2.#2無機質(前編)
- 3.#2無機質(後編)
- 4.#3遺跡(前編)
- 5.#3遺跡(中編)
- 6.#3遺跡(後編)
- 7.#4冰の中の「お姫様」(前編)
- 8.#4冰の中の「お姫様」(後編)
- 9.#5水色の嘘(前編)
- 10.#5水色の嘘(中編)
- 11.#5水色の嘘(後編)
- 12.#6凍てつく事実
- 13.#7毒の滴り(前編)
- 14.#7毒の滴り(中編)
- 15.#7毒の滴り(後編)
- 16.#8崩壊の聖域
- 17.#9再会
- 18.#10再起の咆哮(前編)
- 19.#10再起の咆哮(中編)
- 20.#10再起の咆哮(後編)
- 21.#11不完全生命体(前編)
- 22.#11不完全生命体(中編)
- 23.#11不完全生命体(後編)
- 24.#12血眼
- 25.#13道化師と強欲
- 26.#14冰の劣等生(前編)
- 27.#14冰の劣等生(中編)
- 28.#14冰の劣等生(後編)
- 29.#15強欲の残滓
- 30.エピローグ