要塞アイゼンの最上階。硝煙と水蒸気が渦巻く中、私はついに、その「紅」の前に立った。
「……デスディチャ。いいえ、今はそう呼んではいけないのね」
私は二振りの水刃を構え、荒い呼吸を整える。
目の前に立つ少女――テルヌーラは、微動だにしなかった。かつての白髪は、凝縮された魔素によって鮮血のような紅髪へと変貌し、その先からは絶えず陽炎が立ち上っている。
「目標を確認。……排除を開始します」
彼女の口から漏れたのは、鈴の音のように美しい、けれど温度を一切持たない機械的な声だった。
三年前、あんなに「温もり」を求めて震えていた少女の面影は、どこにもない。
「排除……? 私を忘れたというの? あなたに、熱の抑え方を教えたのは私よ!」
「……データ照合不能。高エネルギー反応、感知」
デスディチャが細い腕を前に突き出す。
次の瞬間、私の視界は白銀の爆炎に包まれた。
『[漢字]浄罪の白焔[/漢字][ふりがな]パージ・フレア[/ふりがな]』
「――っ、く……あああああ!!」
咄嗟に展開した水の盾が、触れた瞬間に蒸発する。
かつての彼女の熱は、ただの「暴走」だった。けれど今の熱は、ペテンテによって研ぎ澄まされた、純粋な「消滅」の輝きだ。
私は瓦礫の上を転がり、熱風から身を隠す。
軍服の袖が焼け、肌がチリチリと痛む。けれど、それ以上に胸が痛かった。
彼女の紅い瞳には、私が映っていない。ただ、ペテンテに書き込まれた「敵」という記号だけを見つめている。
「……あいつ、何をしてくれたのよ……!」
私は叫び、地面を蹴った。
水の刃を交差させ、熱の波を切り裂きながら肉薄する。かつては彼女を傷つけないように手加減していた。けれど今は、全力でぶつからなければ、彼女を正気に戻すことさえ叶わない。
「目を覚ましなさい、デスディチャ!! ラカスも、ニナも……みんな生きているのよ!!」
至近距離。私の水刃が、彼女の紅い髪を掠める。
その瞬間、デスディチャの瞳が微かに揺れた。
「……ラ、カ……ス……? ……ニ、ナ……?」
彼女の動きが一瞬、止まる。
脳内のノイズを振り払うように、彼女は頭を押さえてよろめいた。
「……あ、あたまが……あつい……。だめ、ペテンテさまが……命令が……」
「あいつの命令なんて聞かなくていい! あなたは道具じゃないわ!!」
私は彼女の懐に飛び込み、その細い肩を掴もうとした。
50℃どころではない。彼女の体温は、今や鉄をも溶かす温度に達している。
私の手のひらが焼ける。けれど、私は手を離さなかった。
「……い、いたい……。はなして……コジャール……さん……」
彼女の口から、三年前の呼び名が漏れる。
再会の喜びよりも先に、絶望が私を貫いた。
彼女の目からは、涙ではなく、真っ赤な魔素の滴がこぼれ落ちていた。
「……にげて。……わたし、もう、止まれないの……」
彼女の背中から、八枚の燃え盛る光翼が展開される。
それは、再会を祝う抱擁ではなく、全てを焼き尽くす「終焉の合図」だった。
「……デスディチャ。いいえ、今はそう呼んではいけないのね」
私は二振りの水刃を構え、荒い呼吸を整える。
目の前に立つ少女――テルヌーラは、微動だにしなかった。かつての白髪は、凝縮された魔素によって鮮血のような紅髪へと変貌し、その先からは絶えず陽炎が立ち上っている。
「目標を確認。……排除を開始します」
彼女の口から漏れたのは、鈴の音のように美しい、けれど温度を一切持たない機械的な声だった。
三年前、あんなに「温もり」を求めて震えていた少女の面影は、どこにもない。
「排除……? 私を忘れたというの? あなたに、熱の抑え方を教えたのは私よ!」
「……データ照合不能。高エネルギー反応、感知」
デスディチャが細い腕を前に突き出す。
次の瞬間、私の視界は白銀の爆炎に包まれた。
『[漢字]浄罪の白焔[/漢字][ふりがな]パージ・フレア[/ふりがな]』
「――っ、く……あああああ!!」
咄嗟に展開した水の盾が、触れた瞬間に蒸発する。
かつての彼女の熱は、ただの「暴走」だった。けれど今の熱は、ペテンテによって研ぎ澄まされた、純粋な「消滅」の輝きだ。
私は瓦礫の上を転がり、熱風から身を隠す。
軍服の袖が焼け、肌がチリチリと痛む。けれど、それ以上に胸が痛かった。
彼女の紅い瞳には、私が映っていない。ただ、ペテンテに書き込まれた「敵」という記号だけを見つめている。
「……あいつ、何をしてくれたのよ……!」
私は叫び、地面を蹴った。
水の刃を交差させ、熱の波を切り裂きながら肉薄する。かつては彼女を傷つけないように手加減していた。けれど今は、全力でぶつからなければ、彼女を正気に戻すことさえ叶わない。
「目を覚ましなさい、デスディチャ!! ラカスも、ニナも……みんな生きているのよ!!」
至近距離。私の水刃が、彼女の紅い髪を掠める。
その瞬間、デスディチャの瞳が微かに揺れた。
「……ラ、カ……ス……? ……ニ、ナ……?」
彼女の動きが一瞬、止まる。
脳内のノイズを振り払うように、彼女は頭を押さえてよろめいた。
「……あ、あたまが……あつい……。だめ、ペテンテさまが……命令が……」
「あいつの命令なんて聞かなくていい! あなたは道具じゃないわ!!」
私は彼女の懐に飛び込み、その細い肩を掴もうとした。
50℃どころではない。彼女の体温は、今や鉄をも溶かす温度に達している。
私の手のひらが焼ける。けれど、私は手を離さなかった。
「……い、いたい……。はなして……コジャール……さん……」
彼女の口から、三年前の呼び名が漏れる。
再会の喜びよりも先に、絶望が私を貫いた。
彼女の目からは、涙ではなく、真っ赤な魔素の滴がこぼれ落ちていた。
「……にげて。……わたし、もう、止まれないの……」
彼女の背中から、八枚の燃え盛る光翼が展開される。
それは、再会を祝う抱擁ではなく、全てを焼き尽くす「終焉の合図」だった。
- 1.#1熱砂の咆哮
- 2.#2無機質(前編)
- 3.#2無機質(後編)
- 4.#3遺跡(前編)
- 5.#3遺跡(中編)
- 6.#3遺跡(後編)
- 7.#4冰の中の「お姫様」(前編)
- 8.#4冰の中の「お姫様」(後編)
- 9.#5水色の嘘(前編)
- 10.#5水色の嘘(中編)
- 11.#5水色の嘘(後編)
- 12.#6凍てつく事実
- 13.#7毒の滴り(前編)
- 14.#7毒の滴り(中編)
- 15.#7毒の滴り(後編)
- 16.#8崩壊の聖域
- 17.#9再会
- 18.#10再起の咆哮(前編)
- 19.#10再起の咆哮(中編)
- 20.#10再起の咆哮(後編)
- 21.#11不完全生命体(前編)
- 22.#11不完全生命体(中編)
- 23.#11不完全生命体(後編)
- 24.#12血眼
- 25.#13道化師と強欲
- 26.#14冰の劣等生(前編)
- 27.#14冰の劣等生(中編)
- 28.#14冰の劣等生(後編)
- 29.#15強欲の残滓
- 30.エピローグ