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不幸の温度

#19

#10再起の咆哮(中編)

 要塞アイゼンの最上階。硝煙と水蒸気が渦巻く中、私はついに、その「紅」の前に立った。

「……デスディチャ。いいえ、今はそう呼んではいけないのね」

 私は二振りの水刃を構え、荒い呼吸を整える。
 目の前に立つ少女――テルヌーラは、微動だにしなかった。かつての白髪は、凝縮された魔素によって鮮血のような紅髪へと変貌し、その先からは絶えず陽炎が立ち上っている。

「目標を確認。……排除を開始します」

 彼女の口から漏れたのは、鈴の音のように美しい、けれど温度を一切持たない機械的な声だった。
 三年前、あんなに「温もり」を求めて震えていた少女の面影は、どこにもない。

「排除……? 私を忘れたというの? あなたに、熱の抑え方を教えたのは私よ!」

「……データ照合不能。高エネルギー反応、感知」

 デスディチャが細い腕を前に突き出す。
 次の瞬間、私の視界は白銀の爆炎に包まれた。

『[漢字]浄罪の白焔[/漢字][ふりがな]パージ・フレア[/ふりがな]』

「――っ、く……あああああ!!」

 咄嗟に展開した水の盾が、触れた瞬間に蒸発する。
 かつての彼女の熱は、ただの「暴走」だった。けれど今の熱は、ペテンテによって研ぎ澄まされた、純粋な「消滅」の輝きだ。

 私は瓦礫の上を転がり、熱風から身を隠す。
 軍服の袖が焼け、肌がチリチリと痛む。けれど、それ以上に胸が痛かった。
 彼女の紅い瞳には、私が映っていない。ただ、ペテンテに書き込まれた「敵」という記号だけを見つめている。

「……あいつ、何をしてくれたのよ……!」

 私は叫び、地面を蹴った。
 水の刃を交差させ、熱の波を切り裂きながら肉薄する。かつては彼女を傷つけないように手加減していた。けれど今は、全力でぶつからなければ、彼女を正気に戻すことさえ叶わない。

「目を覚ましなさい、デスディチャ!! ラカスも、ニナも……みんな生きているのよ!!」

 至近距離。私の水刃が、彼女の紅い髪を掠める。
 その瞬間、デスディチャの瞳が微かに揺れた。

「……ラ、カ……ス……? ……ニ、ナ……?」

 彼女の動きが一瞬、止まる。
 脳内のノイズを振り払うように、彼女は頭を押さえてよろめいた。

「……あ、あたまが……あつい……。だめ、ペテンテさまが……命令が……」

「あいつの命令なんて聞かなくていい! あなたは道具じゃないわ!!」

 私は彼女の懐に飛び込み、その細い肩を掴もうとした。
 50℃どころではない。彼女の体温は、今や鉄をも溶かす温度に達している。
 私の手のひらが焼ける。けれど、私は手を離さなかった。

「……い、いたい……。はなして……コジャール……さん……」

 彼女の口から、三年前の呼び名が漏れる。
 再会の喜びよりも先に、絶望が私を貫いた。
 彼女の目からは、涙ではなく、真っ赤な魔素の滴がこぼれ落ちていた。

「……にげて。……わたし、もう、止まれないの……」

 彼女の背中から、八枚の燃え盛る光翼が展開される。
 それは、再会を祝う抱擁ではなく、全てを焼き尽くす「終焉の合図」だった。

作者メッセージ

感想コメント嬉しいです(〃⌒ー⌒〃)ゞ

嬉しすぎて鼻セレブ一箱使い切りました(〃⌒ー⌒〃)ゞ

2026/02/15 08:44

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
コメント

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