「……うそ……ラカスも、ニナも……いなくなったの……?」
研究所の冷たいベッドの上、デスディチャの瞳から光が消え、深い闇が差し込んでいた。
傍らでは、ペテンテが事も無げに温かいスープをトレイに置いている。その指先は、昨日二人を「処理」した時と同じ、精密機械のような正確さで動いていた。
「ああ。君の熱が怖くなったと言っていた。……所詮、人間などそんなものだ。だが安心しろ、デスディチャ。私だけは、君を捨てない。君の価値を一番理解しているのは、私だからね」
「……あ……ああああ……っ!!」
ペテンテが差し出した手に、デスディチャは縋らなかった。
代わりに、彼女の中から溢れ出したのは、悲しみすら焼き尽くす「漆黒の殺意」だった。
ドォォォォォンッ!!
研究所の壁が、内側からの圧力で弾け飛ぶ。
デスディチャの体温が、もはや計測不能な領域へと跳ね上がる。50℃? いや、500℃、1000℃――。
彼女の周囲の物質が、個体から液体を飛ばして一気に「気体」へと昇華する。
「あはははは! 素晴らしい! 怒れ、絶望しろ、デスディチャ! その負の感情こそが、魔素を神の領域へと押し上げる燃料だ!」
崩壊する研究所の中で、ペテンテだけが高笑いしている。
その光景を、瓦礫の影から見つめている者がいた。
「…………っ」
コジャールは、自分の指先が震えているのを、止めることができなかった。
彼女の得意な水魔法でさえ、今のデスディチャの熱の前では、触れる前に消滅してしまう。
(……なんてこと。ペテンテ、あなたはここまで……)
コジャールは、自分がペテンテを「甘く見ていた」ことを痛感していた。
彼女はデスディチャを救うためにここへ来たはずだった。けれど、目の前で暴走する少女の悲鳴を止める術を、彼女は持っていない。
水色のハーフアップが、熱風に煽られて焦げ茶色に変色していく。
大人の余裕も、ペテンテをからかう不敵な笑みも、今の彼女には残っていない。
「……ごめんなさい、テルヌーラ。私は……私は、あなたを……」
膝をつき、水鏡のように澄んでいた彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
けれど、その涙さえも、デスディチャが放つ絶望の熱によって、地面に届く前に虚しく蒸発していった。
目の前には、狂ったように笑う「恩人」と、怪物へと変貌していく「少女」。
最強の魔導師の一人であるはずのコジャールは、ただその地獄を、静かな絶望とともに眺めることしかできなかった。
研究所の冷たいベッドの上、デスディチャの瞳から光が消え、深い闇が差し込んでいた。
傍らでは、ペテンテが事も無げに温かいスープをトレイに置いている。その指先は、昨日二人を「処理」した時と同じ、精密機械のような正確さで動いていた。
「ああ。君の熱が怖くなったと言っていた。……所詮、人間などそんなものだ。だが安心しろ、デスディチャ。私だけは、君を捨てない。君の価値を一番理解しているのは、私だからね」
「……あ……ああああ……っ!!」
ペテンテが差し出した手に、デスディチャは縋らなかった。
代わりに、彼女の中から溢れ出したのは、悲しみすら焼き尽くす「漆黒の殺意」だった。
ドォォォォォンッ!!
研究所の壁が、内側からの圧力で弾け飛ぶ。
デスディチャの体温が、もはや計測不能な領域へと跳ね上がる。50℃? いや、500℃、1000℃――。
彼女の周囲の物質が、個体から液体を飛ばして一気に「気体」へと昇華する。
「あはははは! 素晴らしい! 怒れ、絶望しろ、デスディチャ! その負の感情こそが、魔素を神の領域へと押し上げる燃料だ!」
崩壊する研究所の中で、ペテンテだけが高笑いしている。
その光景を、瓦礫の影から見つめている者がいた。
「…………っ」
コジャールは、自分の指先が震えているのを、止めることができなかった。
彼女の得意な水魔法でさえ、今のデスディチャの熱の前では、触れる前に消滅してしまう。
(……なんてこと。ペテンテ、あなたはここまで……)
コジャールは、自分がペテンテを「甘く見ていた」ことを痛感していた。
彼女はデスディチャを救うためにここへ来たはずだった。けれど、目の前で暴走する少女の悲鳴を止める術を、彼女は持っていない。
水色のハーフアップが、熱風に煽られて焦げ茶色に変色していく。
大人の余裕も、ペテンテをからかう不敵な笑みも、今の彼女には残っていない。
「……ごめんなさい、テルヌーラ。私は……私は、あなたを……」
膝をつき、水鏡のように澄んでいた彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
けれど、その涙さえも、デスディチャが放つ絶望の熱によって、地面に届く前に虚しく蒸発していった。
目の前には、狂ったように笑う「恩人」と、怪物へと変貌していく「少女」。
最強の魔導師の一人であるはずのコジャールは、ただその地獄を、静かな絶望とともに眺めることしかできなかった。
- 1.#1熱砂の咆哮
- 2.#2無機質(前編)
- 3.#2無機質(後編)
- 4.#3遺跡(前編)
- 5.#3遺跡(中編)
- 6.#3遺跡(後編)
- 7.#4冰の中の「お姫様」(前編)
- 8.#4冰の中の「お姫様」(後編)
- 9.#5水色の嘘(前編)
- 10.#5水色の嘘(中編)
- 11.#5水色の嘘(後編)
- 12.#6凍てつく事実
- 13.#7毒の滴り(前編)
- 14.#7毒の滴り(中編)
- 15.#7毒の滴り(後編)
- 16.#8崩壊の聖域
- 17.#9再会
- 18.#10再起の咆哮(前編)
- 19.#10再起の咆哮(中編)
- 20.#10再起の咆哮(後編)
- 21.#11不完全生命体(前編)
- 22.#11不完全生命体(中編)
- 23.#11不完全生命体(後編)
- 24.#12血眼
- 25.#13道化師と強欲
- 26.#14冰の劣等生(前編)
- 27.#14冰の劣等生(中編)
- 28.#14冰の劣等生(後編)
- 29.#15強欲の残滓
- 30.エピローグ