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不幸の温度

#13

#7毒の滴り(前編)

 暴走の末、コジャールの氷結魔法で強制的に眠らされたデスディチャ。
 彼女をベッドに運んだ後、研究所のリビングには、重苦しく、吐き気のするような沈黙が流れていた。

 ペテンテは奥の研究室に引きこもり、解析データの整理に没頭している。その姿は、先ほど仲間が死にかけた戦場から戻ったばかりの男とは思えないほど、冷徹で事務的だった。

「……ねえ。あいつ、さっきなんて言った?」

 ソファの端で膝を抱えていたラカスが、震える声で呟いた。
 いつもは臆病で真っ先に逃げ出す彼だが、その拳は白くなるほど強く握りしめられている。

「『フェーズ3へ移行しろ』……『価値は熱を捧げることだけ』……あいつ、デスディチャのことを、最初から人間だなんて思ってなかったんだ。ただの、便利な電池か何かって……」

「……当たり前じゃない」

 向かい側のテーブルの上、空中に浮いたまま窓の外を見ていたニナが、冷たく言い放つ。
 けれど、その声は微かに震えていた。

「私たちは『番号』や『不幸』って名前を付けられた時点で、あいつらにとっての私有物なのよ。ラカス、あんたが甘いのよ。科学者が理由もなく、あんな化け物じみた少女を助けるわけないじゃない」

「でも、ニナだって……デスディチャに名前をもらった時、嬉しそうだったじゃないか!」

「それは……っ!」

 ニナは言葉を詰まらせ、腕にある『No.1727』の刻印を強く押さえつけた。
 期待したからこそ、裏切られた時の衝撃は鋭い。自分を氷の中から救い出し、暖かい居場所を与えてくれた「家」が[漢字]屠殺場[/漢字][ふりがな]とさつじょう[/ふりがな]の待合室だったのだとしたら。

「……あら。少しは真実に近づけたかしら?」

 影の中から、音もなくコジャールが現れた。
 彼女はワイングラスを片手に、優雅に二人の前に座る。

「コジャールさん……。教えてください。ペテンテは、本当は何をしようとしてるんですか?」

 ラカスの真っ直ぐな、けれど絶望に満ちた瞳を見て、コジャールはわずかに目を細めた。

「ペテンテの目的は『完全なる魔素回路』の構築よ。そのために、彼はデスディチャの両親に金を払い、『適度なストレス』を与えるよう指示した。……絶望と孤独、そして暴力。それらは魔素を活性化させる最高のスパイスになるから」

「……じゃあ、あの虐待も……あいつが?」

「ええ。限界まで追い詰め、暴走寸前になったところで『救世主』として現れる。そうすれば、彼女は彼を盲信するでしょう? 精神的な[漢字]隷属[/漢字][ふりがな]れいぞく[/ふりがな]こそが、魔力の制御に最も効率的だから」

 ラカスは立ち上がり、胃の底から込み上げる吐き気をこらえた。
 自分が「いい人だ」と信じようとした男は、デスディチャが流した血も、涙も、すべて計算の上で演出していたのだ。

「最低だ……。そんなの、人間じゃない……!」

「……ねえ、水色のお姉さん」

 ニナが冷ややかな目でコジャールを射抜く。

「あんたは? あんたはなんでそれを知ってて、今さらバラしに来たのよ。あんたもどうせ、[漢字]あいつ[/漢字][ふりがな]ペテンテ[/ふりがな]とは別の目的で、あの子を狙ってるんでしょ?」

 コジャールは[漢字]艶然[/漢字][ふりがな]えんぜん[/ふりがな]と微笑み、ワインを一口含んだ。

「そうね。私は彼女を『テルヌーラ』に戻したいだけ。……それが彼女を救うことになるのか、それとも別の地獄へ落とすことになるのか……それは、これからのあなたたちの働き次第かしらね?」

作者メッセージ

ラカス「そのワイン、もしかして、、、」
コジャール「葡萄ジュースよ」
ニコ「演出用かよ」

2026/02/14 09:25

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
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