「……テルヌーラ……? だれの、こと……?」
デスディチャの声は、熱に浮かされたように掠れていた。
コジャールは、まるで壊れやすいガラス細工を眺めるような、残酷に優しい笑みを浮かべる。
「あら、忘れてしまったの? 無理もないわね。その熱で脳まで焼かれてしまったのかしら。……それとも、隣にいるエルフの『先生』が、都合よく記憶を書き換えた?」
「……コジャール。余計なことを喋るなと言ったはずだ」
ペテンテの言葉には、いつもの冷徹な余裕がなかった。魔導書を握る指先が白くなるほど力が入り、その瞳には明確な「焦燥」が宿っている。
「本当のことを教えてあげたらどう? ペテンテ。あなたがこの子を拾ったのは、慈悲なんかじゃない。……失われた『テルヌーラ』を、もう一度自分の手で作り直したかったからだって」
「黙れッ!!」
ペテンテの咆哮とともに、地面から巨大な氷の棘が突き出した。しかし、コジャールは優雅に身を翻し、水の粒子となってそれを回避する。
「あ、あの……! テルヌーラって、デスディチャの前の名前なの……?」
ラカスが、恐る恐る口を開く。
デスディチャは、自分の胸元に手を当てた。そこには、50℃の熱源があるはずなのに、今はひどく冷たく、空っぽな穴が開いているような感覚。
「……わたしは、デスディチャ。……『不幸』っていう、名前」
「そうね。今はそう呼ばれているわね。でも、その子が『幸運』だった頃……魔素の副作用に侵される前の、誰からも愛されていた姿。それが『テルヌーラ』よ。……ねえ、思い出して? あなたが一番、温もりを知っていた頃のことを」
コジャールの水色の瞳が、デスディチャの紅い瞳を射抜く。
デスディチャの視界が、ぐにゃりと歪んだ。
見覚えのない、陽だまりのような部屋。自分を抱きしめる、柔らかくて優しい、50℃なんていう異常な温度ではない「本当の温もり」。
「……っ、あ、あああああ!」
デスディチャの頭痛が激化し、彼女の周囲の雪が一気に爆発するように蒸発した。
「おい、デスディチャ! しっかりしろ!」
「ちょっと! あいつの魔素が臨界点を超えそうよ! 爆発するわ!」
ニナが叫び、ラカスが駆け寄ろうとするが、熱気で近づけない。
ペテンテは、苦渋の決断を下したようにコジャールを睨みつけた。
「……コジャール。お前の目的は、彼女を壊すことか?」
「まさか。……私は、あなたたちと一緒に『研究』を続けたいだけ。……ねえ、ペテンテ。私を仲間に入れてくれるなら、この子の暴走、私が抑えてあげてもいいわよ?」
水色のハーフアップを綺麗になびかせ、コジャールは勝利を確信したように微笑んだ。
デスディチャの声は、熱に浮かされたように掠れていた。
コジャールは、まるで壊れやすいガラス細工を眺めるような、残酷に優しい笑みを浮かべる。
「あら、忘れてしまったの? 無理もないわね。その熱で脳まで焼かれてしまったのかしら。……それとも、隣にいるエルフの『先生』が、都合よく記憶を書き換えた?」
「……コジャール。余計なことを喋るなと言ったはずだ」
ペテンテの言葉には、いつもの冷徹な余裕がなかった。魔導書を握る指先が白くなるほど力が入り、その瞳には明確な「焦燥」が宿っている。
「本当のことを教えてあげたらどう? ペテンテ。あなたがこの子を拾ったのは、慈悲なんかじゃない。……失われた『テルヌーラ』を、もう一度自分の手で作り直したかったからだって」
「黙れッ!!」
ペテンテの咆哮とともに、地面から巨大な氷の棘が突き出した。しかし、コジャールは優雅に身を翻し、水の粒子となってそれを回避する。
「あ、あの……! テルヌーラって、デスディチャの前の名前なの……?」
ラカスが、恐る恐る口を開く。
デスディチャは、自分の胸元に手を当てた。そこには、50℃の熱源があるはずなのに、今はひどく冷たく、空っぽな穴が開いているような感覚。
「……わたしは、デスディチャ。……『不幸』っていう、名前」
「そうね。今はそう呼ばれているわね。でも、その子が『幸運』だった頃……魔素の副作用に侵される前の、誰からも愛されていた姿。それが『テルヌーラ』よ。……ねえ、思い出して? あなたが一番、温もりを知っていた頃のことを」
コジャールの水色の瞳が、デスディチャの紅い瞳を射抜く。
デスディチャの視界が、ぐにゃりと歪んだ。
見覚えのない、陽だまりのような部屋。自分を抱きしめる、柔らかくて優しい、50℃なんていう異常な温度ではない「本当の温もり」。
「……っ、あ、あああああ!」
デスディチャの頭痛が激化し、彼女の周囲の雪が一気に爆発するように蒸発した。
「おい、デスディチャ! しっかりしろ!」
「ちょっと! あいつの魔素が臨界点を超えそうよ! 爆発するわ!」
ニナが叫び、ラカスが駆け寄ろうとするが、熱気で近づけない。
ペテンテは、苦渋の決断を下したようにコジャールを睨みつけた。
「……コジャール。お前の目的は、彼女を壊すことか?」
「まさか。……私は、あなたたちと一緒に『研究』を続けたいだけ。……ねえ、ペテンテ。私を仲間に入れてくれるなら、この子の暴走、私が抑えてあげてもいいわよ?」
水色のハーフアップを綺麗になびかせ、コジャールは勝利を確信したように微笑んだ。
- 1.#1熱砂の咆哮
- 2.#2無機質(前編)
- 3.#2無機質(後編)
- 4.#3遺跡(前編)
- 5.#3遺跡(中編)
- 6.#3遺跡(後編)
- 7.#4冰の中の「お姫様」(前編)
- 8.#4冰の中の「お姫様」(後編)
- 9.#5水色の嘘(前編)
- 10.#5水色の嘘(中編)
- 11.#5水色の嘘(後編)
- 12.#6凍てつく事実
- 13.#7毒の滴り(前編)
- 14.#7毒の滴り(中編)
- 15.#7毒の滴り(後編)
- 16.#8崩壊の聖域
- 17.#9再会
- 18.#10再起の咆哮(前編)
- 19.#10再起の咆哮(中編)
- 20.#10再起の咆哮(後編)
- 21.#11不完全生命体(前編)
- 22.#11不完全生命体(中編)
- 23.#11不完全生命体(後編)
- 24.#12血眼
- 25.#13道化師と強欲
- 26.#14冰の劣等生(前編)
- 27.#14冰の劣等生(中編)
- 28.#14冰の劣等生(後編)
- 29.#15強欲の残滓
- 30.エピローグ