文字サイズ変更

不幸の温度

#9

#5水色の嘘(前編)

 廃坑を脱出した四人を待ち受けていたのは、安らぎではなく、鋼の包囲網だった。
 雪原を埋め尽くすのは、デスディチャの親が雇った特級傭兵団と、国から派遣された「異常体回収班」。その数、およそ五十。

「……チッ。計算が狂ったな。これほどの戦力をこれほど早く差し向けてくるとは」

 ペテンテが苦々しく毒づき、魔導書を展開する。しかし、連戦で魔素を使い果たしたデスディチャは、雪の上に膝をついていた。薬の効果も切れかけ、体温は制御不能なほどに跳ね上がり、周囲の雪が真っ赤な霧となって立ち込める。

「デスディチャ! しっかりして!」
「ダメよ、ラカス! 今のあいつに触ったらアンタが蒸発するわ!」

 ラカスとニナが叫ぶ中、回収班のリーダーが冷酷に右手を挙げた。
「構わん、殺すな。手足の一本もあれば実験には事足りる。……撃てッ!」

 無数の魔法の矢が、雨のように四人に降り注ごうとした――その時。

「――お行儀が悪いわね。私の獲物に勝手に触らないでもらえるかしら?」

 空から降ってきたのは、言葉よりも先に「絶対的な冷気」だった。
 降り注ぐ魔法の矢が、空中でことごとく氷像へと変わり、粉々に砕け散る。

 戦場の中央に、音もなく舞い降りた一人の女性。
 水色のハーフアップを冬風に揺らし、タイトなスーツの上から優雅に白銀の毛皮を羽織ったその美女――コジャールは、退屈そうに指先を弄んでいた。

「な、なんだ……!? お前は誰だ!」

「名前を名乗るほど、長く付き合う相手でもないわ」

 コジャールが軽く指を鳴らす。
 次の瞬間、大気中の水分が一気に収束し、巨大な水の刃となって敵の陣形を真っ二つに切り裂いた。悲鳴を上げる間もなく、傭兵たちは激流に飲み込まれ、瞬時に氷漬けにされていく。

 圧倒的。
 デスディチャが命を削って出した熱を一瞬で無効化するほどの、静謐で暴力的な水魔法。

「あら、ペテンテ。随分と情けない顔をしているのね?」

 コジャールは背後の敵を一掃したまま、ゆっくりと振り返った。その視線は、震えるデスディチャに向けられる。

「……久しぶりね、『テルヌーラ』。いいえ、今は『[漢字]不幸[/漢字][ふりがな]デスディチャ[/ふりがな]』と呼ばれているのかしら?」

「……あ、あな、た……は……」

 デスディチャの脳裏に、水底に沈むような深い記憶が蘇る。
 ペテンテは苦虫を噛み潰したような顔で、低い声を絞り出した。

「コジャール……。なぜ、お前がここにいる」

「決まっているじゃない。あなたを連れ戻しに来たのよ。……それと、その『欠陥品』を、私が正しく[漢字]再定義[/漢字][ふりがな]リメイク[/ふりがな]するためにね」

 コジャールの不敵な笑みが、吹雪の中で鮮やかに輝いた。


作者メッセージ

ゴワダヨ

2026/02/12 20:17

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
コメント

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権は♗◈夢見鳥◈♗さんに帰属します

TOP