廃坑を脱出した四人を待ち受けていたのは、安らぎではなく、鋼の包囲網だった。
雪原を埋め尽くすのは、デスディチャの親が雇った特級傭兵団と、国から派遣された「異常体回収班」。その数、およそ五十。
「……チッ。計算が狂ったな。これほどの戦力をこれほど早く差し向けてくるとは」
ペテンテが苦々しく毒づき、魔導書を展開する。しかし、連戦で魔素を使い果たしたデスディチャは、雪の上に膝をついていた。薬の効果も切れかけ、体温は制御不能なほどに跳ね上がり、周囲の雪が真っ赤な霧となって立ち込める。
「デスディチャ! しっかりして!」
「ダメよ、ラカス! 今のあいつに触ったらアンタが蒸発するわ!」
ラカスとニナが叫ぶ中、回収班のリーダーが冷酷に右手を挙げた。
「構わん、殺すな。手足の一本もあれば実験には事足りる。……撃てッ!」
無数の魔法の矢が、雨のように四人に降り注ごうとした――その時。
「――お行儀が悪いわね。私の獲物に勝手に触らないでもらえるかしら?」
空から降ってきたのは、言葉よりも先に「絶対的な冷気」だった。
降り注ぐ魔法の矢が、空中でことごとく氷像へと変わり、粉々に砕け散る。
戦場の中央に、音もなく舞い降りた一人の女性。
水色のハーフアップを冬風に揺らし、タイトなスーツの上から優雅に白銀の毛皮を羽織ったその美女――コジャールは、退屈そうに指先を弄んでいた。
「な、なんだ……!? お前は誰だ!」
「名前を名乗るほど、長く付き合う相手でもないわ」
コジャールが軽く指を鳴らす。
次の瞬間、大気中の水分が一気に収束し、巨大な水の刃となって敵の陣形を真っ二つに切り裂いた。悲鳴を上げる間もなく、傭兵たちは激流に飲み込まれ、瞬時に氷漬けにされていく。
圧倒的。
デスディチャが命を削って出した熱を一瞬で無効化するほどの、静謐で暴力的な水魔法。
「あら、ペテンテ。随分と情けない顔をしているのね?」
コジャールは背後の敵を一掃したまま、ゆっくりと振り返った。その視線は、震えるデスディチャに向けられる。
「……久しぶりね、『テルヌーラ』。いいえ、今は『[漢字]不幸[/漢字][ふりがな]デスディチャ[/ふりがな]』と呼ばれているのかしら?」
「……あ、あな、た……は……」
デスディチャの脳裏に、水底に沈むような深い記憶が蘇る。
ペテンテは苦虫を噛み潰したような顔で、低い声を絞り出した。
「コジャール……。なぜ、お前がここにいる」
「決まっているじゃない。あなたを連れ戻しに来たのよ。……それと、その『欠陥品』を、私が正しく[漢字]再定義[/漢字][ふりがな]リメイク[/ふりがな]するためにね」
コジャールの不敵な笑みが、吹雪の中で鮮やかに輝いた。
雪原を埋め尽くすのは、デスディチャの親が雇った特級傭兵団と、国から派遣された「異常体回収班」。その数、およそ五十。
「……チッ。計算が狂ったな。これほどの戦力をこれほど早く差し向けてくるとは」
ペテンテが苦々しく毒づき、魔導書を展開する。しかし、連戦で魔素を使い果たしたデスディチャは、雪の上に膝をついていた。薬の効果も切れかけ、体温は制御不能なほどに跳ね上がり、周囲の雪が真っ赤な霧となって立ち込める。
「デスディチャ! しっかりして!」
「ダメよ、ラカス! 今のあいつに触ったらアンタが蒸発するわ!」
ラカスとニナが叫ぶ中、回収班のリーダーが冷酷に右手を挙げた。
「構わん、殺すな。手足の一本もあれば実験には事足りる。……撃てッ!」
無数の魔法の矢が、雨のように四人に降り注ごうとした――その時。
「――お行儀が悪いわね。私の獲物に勝手に触らないでもらえるかしら?」
空から降ってきたのは、言葉よりも先に「絶対的な冷気」だった。
降り注ぐ魔法の矢が、空中でことごとく氷像へと変わり、粉々に砕け散る。
戦場の中央に、音もなく舞い降りた一人の女性。
水色のハーフアップを冬風に揺らし、タイトなスーツの上から優雅に白銀の毛皮を羽織ったその美女――コジャールは、退屈そうに指先を弄んでいた。
「な、なんだ……!? お前は誰だ!」
「名前を名乗るほど、長く付き合う相手でもないわ」
コジャールが軽く指を鳴らす。
次の瞬間、大気中の水分が一気に収束し、巨大な水の刃となって敵の陣形を真っ二つに切り裂いた。悲鳴を上げる間もなく、傭兵たちは激流に飲み込まれ、瞬時に氷漬けにされていく。
圧倒的。
デスディチャが命を削って出した熱を一瞬で無効化するほどの、静謐で暴力的な水魔法。
「あら、ペテンテ。随分と情けない顔をしているのね?」
コジャールは背後の敵を一掃したまま、ゆっくりと振り返った。その視線は、震えるデスディチャに向けられる。
「……久しぶりね、『テルヌーラ』。いいえ、今は『[漢字]不幸[/漢字][ふりがな]デスディチャ[/ふりがな]』と呼ばれているのかしら?」
「……あ、あな、た……は……」
デスディチャの脳裏に、水底に沈むような深い記憶が蘇る。
ペテンテは苦虫を噛み潰したような顔で、低い声を絞り出した。
「コジャール……。なぜ、お前がここにいる」
「決まっているじゃない。あなたを連れ戻しに来たのよ。……それと、その『欠陥品』を、私が正しく[漢字]再定義[/漢字][ふりがな]リメイク[/ふりがな]するためにね」
コジャールの不敵な笑みが、吹雪の中で鮮やかに輝いた。
- 1.#1熱砂の咆哮
- 2.#2無機質(前編)
- 3.#2無機質(後編)
- 4.#3遺跡(前編)
- 5.#3遺跡(中編)
- 6.#3遺跡(後編)
- 7.#4冰の中の「お姫様」(前編)
- 8.#4冰の中の「お姫様」(後編)
- 9.#5水色の嘘(前編)
- 10.#5水色の嘘(中編)
- 11.#5水色の嘘(後編)
- 12.#6凍てつく事実
- 13.#7毒の滴り(前編)
- 14.#7毒の滴り(中編)
- 15.#7毒の滴り(後編)
- 16.#8崩壊の聖域
- 17.#9再会
- 18.#10再起の咆哮(前編)
- 19.#10再起の咆哮(中編)
- 20.#10再起の咆哮(後編)
- 21.#11不完全生命体(前編)
- 22.#11不完全生命体(中編)
- 23.#11不完全生命体(後編)
- 24.#12血眼
- 25.#13道化師と強欲
- 26.#14冰の劣等生(前編)
- 27.#14冰の劣等生(中編)
- 28.#14冰の劣等生(後編)
- 29.#15強欲の残滓
- 30.エピローグ