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不幸の温度

#5

#3遺跡(中編)

 三人が足を踏み入れた『静寂の廃坑』の入り口は、ただの洞窟ではなかった。
 無骨な岩肌が続くトンネルの先に、魔法で灯された小さな詰め所がある。中には、分厚い魔導防護服を着た、恰幅の良い中年男性が退屈そうに座っていた。

「……おう、ペテンテ先生。毎度あり」

 男性はペテンテを見るなり、けだるそうに手を挙げた。

「ああ、所定の契約書と、今回の被験体の情報を」

 ペテンテは慣れた手つきで、デスディチャのプロフィールが記載された魔導端末を受付に差し出した。

「被験体? じゃなくて、僕らは冒険者じゃないんですか!?」

 ラカスが慌てて詰め寄る。

「うるさい。私にとって冒険者など、ただの肉体労働者兼データ収集機だ。……おい、デスディチャ。お前が今回の『パーティーリーダー』扱いになっている。サインをしろ」

 ペテンテがデスディチャにペンを渡す。
 デスディチャは生まれて初めて見る「契約」というものに戸惑いながらも、言われるがままに震える手でDesdichaを書き入れた。

「デスディチャ、ね。ふうん。……先生、この子の体温データ、ちょっと異常すぎないかい? 計測器が壊れているのかと思ったよ。50℃って……」

 受付の男性がデスディチャをまじまじと見つめる。
 デスディチャは居心地悪そうに身をすくめた。

「欠陥品を最適化するのが私の仕事だ。余計な詮索は無用。……それより、今日の魔物の活性度は?」

「あいよ。午後から冷え込みがきつくなったせいで、下層のアイス・ウルフがいつもより凶暴だってさ。気をつけてな、リーダーさん」

 受付男性はニヤリと笑い、デスディチャに魔石で作られた小さな認識票を手渡した。

 ――パーティーリーダー。

 虐待され、「化け物」と呼ばれてきた自分が、見知らぬ人から役割を与えられる。その事実に、デスディチャの胸は不思議な熱を帯びた。

「さっさと行くぞ。お前たちの感傷に付き合う趣味はない」

 ペテンテが先導し、三人は受付を通り過ぎて、さらに奥へと続く螺旋階段を下りていく。
 階段を下りるにつれ、気温は急激に低下していった。
 地下深くから吹き上がってくる冷気は、地上の吹雪とは比較にならない。肌が引き裂かれるような、鋭利な冷たさだ。

「さむっ! さむい! 痛いよもう!」

 ラカスが悲鳴を上げる。
 しかし、デスディチャは今度は不思議と平気だった。
 ペテンテがくれた青い薬が効いているのか、内側の熱と外側の冷気が拮抗し、初めて「ニュートラル」な状態を保てていた。

「すごい……痛くない」
「当たり前だ。私の薬の精度を疑うな」

 ペテンテは得意げに鼻を鳴らす。

「……デスディチャ。最下層にある『冷却石』まで到達するのが目的だ。道中の魔物は、お前の『出力』を試すのにちょうどいい。お前の熱は、氷属性の魔物にとって致命的な弱点になる」

「わたしの、熱が……役に立つの?」

 今まで呪いでしかなかった力が、初めて「武器」として肯定された瞬間だった。
 デスディチャの黒い瞳が、期待に揺れる。

「使えなければ、ここに連れてきた意味がない。……来い、最初の獲物だ」

 ペテンテが足元を照らした先。
 氷の結晶でできた狼が三匹、真っ青な牙を剥き出しにして、三人に襲いかかろうとしていた。

作者メッセージ

ラカス「この小説、設定ガバガバすぎない?」

作者「(・ω・`)」

2026/02/10 20:07

♗◈夢見鳥◈♗
ID:≫ 65guhuu.CMb9.
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