神殿の正門。白銀の鎧に身を包んだ聖騎士たちが、無粋な鉄靴の音を鳴らして踏み込んできた。
彼らが掲げるのは「正義」の旗。だが、フィニティの目には、それが何よりも滑稽で「しょっぺぇ」代物に映っていた。
「ここまでにしましょう、エルフの魔女。この神殿から漂う『記憶の腐臭』……これ以上、民の魂を弄ぶことは許さない!」
騎士団長が剣を突きつける。
いつもなら、フィニティは慈悲深い聖女の微笑みで彼らを煙に巻き、裏でじっくりと彼らの「正義感」という名の激辛な記憶を食らっていただろう。
だが、今の彼女は、ただひたすらに不機嫌だった。
「……アタシの食卓を土足で荒らしといて、随分な言い草じゃねえか。正義? 魂の救済? 虫酸が走るんだよ、そういう安っぽい言葉はさ」
フィニティの周囲の空気が、パキパキと凍りつくような音を立てて変質していく。
銀髪が逆立ち、翡翠色の瞳が紅く燃え上がった。
「アタシがこの神殿で何を食おうが、どんな『味』を楽しもうが、アタシの勝手なんだよ。……だがな、お前らが今踏み越えたそのラインの先には……アタシがようやく見つけた、大事な『無味』がいるんだ」
彼女の手のひらに、漆黒の魔力が集束する。
「その子に、お前らみたいなしょっぺぇ連中の気配を、一瞬でも触れさせるわけにはいかねえんだよッ!!」
爆発的な衝撃波が神殿を揺らした。
聖騎士たちの正義など、数百年生きてきたエルフの本気の前では紙屑も同然だった。
─────しかし。
フィニティが表で騎士たちを圧倒していた、その時。
神殿の奥、フィニティの自室。
「……だれ、ですか……?」
クローゼットの中に隠れていたフェリスの前に、影のような男が立っていた。
それは聖騎士団とは別の、魂を売買する闇のブローカー。彼は、フィニティが隠し持っているという「特殊な亡霊」の噂を聞きつけ、裏口から侵入していたのだ。
「ほう……これが。味もしない、汚れもない、純粋な『空の魂』か。これは高値で売れる」
男が取り出した「魂縛の瓶」が、禍々しい光を放つ。
「やめて……! おねえちゃん、たすけて……!!」
叫び声は、厚い壁に遮られてフィニティには届かない。
いや、届かないはずだった。
「……ッ!?」
騎士の剣を片手で受け流していたフィニティが、ガタガタと震え出した。
(なんだ……? 腹が、急激に減ってやがる。……違う、これじゃねえ。……フェリスが、削られてるのか!?)
味はしない。けれど、アタシを満たしてくれていたあの「主食」が、今、絶望的な速度で消えかかっている。
「……どけ。どけよ、クソどもが!!」
フィニティは騎士団をゴミのように吹き飛ばすと、なりふり構わず神殿の奥へと走り出した。
転びそうになりながら、教祖としての威厳も、エルフとしてのプライドもかなぐり捨てて。
[太字]「フェリス!! 勝ち逃げすんじゃねえぞ、このガキ!! まだ……まだアタシは、お前に勝ってねえんだからな!!」[/太字]
彼らが掲げるのは「正義」の旗。だが、フィニティの目には、それが何よりも滑稽で「しょっぺぇ」代物に映っていた。
「ここまでにしましょう、エルフの魔女。この神殿から漂う『記憶の腐臭』……これ以上、民の魂を弄ぶことは許さない!」
騎士団長が剣を突きつける。
いつもなら、フィニティは慈悲深い聖女の微笑みで彼らを煙に巻き、裏でじっくりと彼らの「正義感」という名の激辛な記憶を食らっていただろう。
だが、今の彼女は、ただひたすらに不機嫌だった。
「……アタシの食卓を土足で荒らしといて、随分な言い草じゃねえか。正義? 魂の救済? 虫酸が走るんだよ、そういう安っぽい言葉はさ」
フィニティの周囲の空気が、パキパキと凍りつくような音を立てて変質していく。
銀髪が逆立ち、翡翠色の瞳が紅く燃え上がった。
「アタシがこの神殿で何を食おうが、どんな『味』を楽しもうが、アタシの勝手なんだよ。……だがな、お前らが今踏み越えたそのラインの先には……アタシがようやく見つけた、大事な『無味』がいるんだ」
彼女の手のひらに、漆黒の魔力が集束する。
「その子に、お前らみたいなしょっぺぇ連中の気配を、一瞬でも触れさせるわけにはいかねえんだよッ!!」
爆発的な衝撃波が神殿を揺らした。
聖騎士たちの正義など、数百年生きてきたエルフの本気の前では紙屑も同然だった。
─────しかし。
フィニティが表で騎士たちを圧倒していた、その時。
神殿の奥、フィニティの自室。
「……だれ、ですか……?」
クローゼットの中に隠れていたフェリスの前に、影のような男が立っていた。
それは聖騎士団とは別の、魂を売買する闇のブローカー。彼は、フィニティが隠し持っているという「特殊な亡霊」の噂を聞きつけ、裏口から侵入していたのだ。
「ほう……これが。味もしない、汚れもない、純粋な『空の魂』か。これは高値で売れる」
男が取り出した「魂縛の瓶」が、禍々しい光を放つ。
「やめて……! おねえちゃん、たすけて……!!」
叫び声は、厚い壁に遮られてフィニティには届かない。
いや、届かないはずだった。
「……ッ!?」
騎士の剣を片手で受け流していたフィニティが、ガタガタと震え出した。
(なんだ……? 腹が、急激に減ってやがる。……違う、これじゃねえ。……フェリスが、削られてるのか!?)
味はしない。けれど、アタシを満たしてくれていたあの「主食」が、今、絶望的な速度で消えかかっている。
「……どけ。どけよ、クソどもが!!」
フィニティは騎士団をゴミのように吹き飛ばすと、なりふり構わず神殿の奥へと走り出した。
転びそうになりながら、教祖としての威厳も、エルフとしてのプライドもかなぐり捨てて。
[太字]「フェリス!! 勝ち逃げすんじゃねえぞ、このガキ!! まだ……まだアタシは、お前に勝ってねえんだからな!!」[/太字]