敵か味方か【下】
唐木田「宮野さんから話を聞きましたよ」
上原は口をつぐんだ。
唐木田「宮野さんは、三船教授からナカムラ商事のバンカーオイルのことを聞かされていて、うっかりそれをあなたに話したと、そうおっしゃっています。」
上原「すみません…なんのことか私には…」
唐木田「三船教授はウチの研究所にバンカーオイルの分析を依頼していました。分析結果は『問題あり』なのに、三船教授が四葉商船に提出した報告書には、『問題なし』となっていた。その後、三船教授はゴルフ場建設反対運動から身を引いた。偶然にしては出来すぎている」
上原「そんなこと言われても…」
唐木田「私は、あなた方ナカムラ商事が三船教授と裏工作をしたと疑っています。違いますか?」
上原はついに黙ってしまった。
唐木田「どのように関与したのかわかりませんが、結果としてバンカーオイルの検証結果が歪められた。あなた方はそれによって損害賠償の責任から逃れ、同時に弊社による企業精査を乗り切ったわけだ。ですが、」
ここからが肝心だ。
唐木田「四葉商船は今のところ、ナカムラ商事は事故と無関係であると判断しています。ですが、多額の損害賠償を抱えた四葉商船は今後も事故について追求し続け、近い将来に真実が明かされる。」
唐木田「なんなら、今から私が四葉商船にこのことを話しましょうか?四葉商船はどう思うでしょうね」
上原「ちょっと待ってくださいよ‼︎」
唐木田「もし弊社とナカムラのM&Aが成立した後にそのことが発覚したら、うちは800億もの大金を失うどころか、途方もない損失を抱える可能性がある」
唐木田「上原さん、真実を話すなら今のうちです。今ならまだ間に合う」
上原「……。」
上原「ご迷惑を、おかけしました…。」
やがて、上原の口が真実が明かされた。
[水平線]
《取締役会》
藤間「それでは最後の議案だな。大沢くん、頼むぞ。」
大沢「はい」
大沢が立ち上がった。
大沢「ナカムラ商事との買収合意以来、弊社によるデューデリチームによる企業精査を終え、先方代理人を務める東京セントラルキャピタルと最終的な売買価格を行いました。売買価格は、790億円です」
議場の気配が張り詰めた。
大沢「この買収により、我が社が製造する乗用車、トラック、小型船舶などのオイル燃料の供給元を抱えることになります。さらに、販売網で扱うメンテナンスオイルでもビジネスチャンスを得ることになり、買収によって大きな相乗効果が期待できます。」
大沢「それだけでなく、ナカムラ商事の社会的信用が補完され、新たなビジネスチャンスの獲得に繋がり、今後はエネルギー分野で事業拡大によって将来の収益部門へと成長していくと確信します。」
大沢「この買収事案は我が社にとって新たな未来を切り拓く一歩になると断言します。これは、営業部が威信をかけて挑む事業です。必ずや成功させてみせます」
大沢の発言に、取締役たちから称賛が湧いた。
いずれ大沢は、この会社のトップに上り詰めるだろう。
藤間「何か意見のあるものは?」
唐木田「よろしいでしょうか?」
発言の許可を求める声があり、全員の視線が一点に集中する。
唐木田「ナカムラ商事について営業部が行った企業精査ですが、特に問題がないようでしたが、本当に間違いはないのでしょうか?」
大沢「どういう意味だ」
この期に及んでまだ反対するのか。
唐木田「経営戦略室は企業精査には関与していませんが、営業部の企業精査には重大な見落としがあるのではないかと考えています。」
藤間「唐木田くん、もう少し具体的に説明してくれないか?」
唐木田は、持参にた資料を取締役たちに配布した。
唐木田「私ども経営戦略室でナカムラ商事に関する重要な情報を得ましたので、報告させていただきます。」
唐木田「最初のページに。2年前に四葉商船のタンカーがペルシャ湾で座礁した事故の記事を詳細にまとめております。このタンカーはペルシャ湾で何らかの理由によりエンジンが停止し、強風に流されてペルシャ湾で座礁。27万キロリットルという大量の原油が流出し、深刻な環境汚染を招き、さらに巨額の損害賠償を求められて極めて大きな問題となりました。」
いったいその事故が、この買収案件とどう結びつくのか。
唐木田「問題は、なぜエンジントラブルが起きたのか。」
唐木田「このタンカーは、ナカムラ商事から納品されたものでした。」
取締役たちの間でどよめきが起きた。
大沢「君はもしかして、ナカムラ商事のバンカーオイルがエンジントラブルを起こした原因だと言いたいのか?であれば、企業精査の段階で、この座礁事故とバンカーオイルについては無関係だという四葉商船の意見書を確認している。」
唐木田「もちろん知っています。」
唐木田「私が問題にしたいのは、その四葉商船の意見書がどういう根拠で提出されたのか、ということです。私どもの調査によると、四葉商船はナカムラ商事が納品したバンカーオイルのサンプルをとある大学の研究室に持ち込み、エンジントラブルとの因果関係について検証しました。川崎工業大学の三船教授です。」
藤間「で、結果はどうだったんだ?」
唐木田「因果関係はないとの結論がでました。」
まったく話に先が見えない。
大沢「何が言いたいんだ。君はこの取締役会を混乱させる気か?」
唐木田「いいえ。ナカムラ商事は、三船教授が四葉商船から検証を依頼されたことを、事前に察知していんです。」
それがどうしたのか。
唐木田「ナカムラ商事は三船教授に働きかけ、検証データを偽装し、結論の書き換えを要求しました。そのためにナカムラ商事は、三船教授に3億円を支払っています」
会議室が一気にどよめいた。
唐木田「粗悪なバンカーオイルが事故の原因だったとすれば、桁違いの損害賠償を要求されます。それを逃れるためなら3億円など大したことはありません。」
大沢「何の根拠があってそんなことを言うんだ。だいたい、そんな金が動けば企業精査の時点で問題になっただろう」
唐木田「会社から支払われていれば、です。」
唐木田「ところがその金は中村社長の個人口座から引き出され、現金で支払われました。」
大沢「フッフッフ…みんな君の想像じゃないかw」
大沢「そういうのなら、物証があるんだろうな?」
唐木田「根拠も無しにこんなことを申し上げません。」
唐木田「中村社長の指示により三船教授に現金を運んだのは、藤沢カントリーの責任者である上原氏です。お手元の資料に、彼の直筆の供述書が添付されております。」
唐木田「これが三船教授による3億円の受領書のコピーです。」
唐木田が大沢のもとへ叩き置いた。
唐木田「そして現金を引き出した中村社長の通帳のコピー。東京中央銀行、関東シティ銀行、帝都銀行の3つの口座から、それぞれ1億円ずつ引き出されいます。」
大沢の手が震えていく。
大沢「……認めない…私は認めないぞ…」
唐木田「ナカムラ商事を買収すれば、我が社は巨額の訴訟リスクを負うことになります。大沢さん、あなたは先ほど、営業部が威信をかけて挑む事業で、必ずや成功させてみせると言いましたね。ですが私に言わせれば、そんなものは見通しの甘い夢物語です。実際のナカムラ商事は、とんでもない爆弾をひた隠しにして売り急いでいるジョーカーそのものです!ウチがそのババを引くんですか?」
大沢が資料をテーブルに叩きつけ、
[大文字]大沢「唐木田ー!」[/大文字]
藤間「もういい。この件は、見送るのが正解だ。」
こうして、稀に見る大型案件は、幕を閉じたのであった。
上原は口をつぐんだ。
唐木田「宮野さんは、三船教授からナカムラ商事のバンカーオイルのことを聞かされていて、うっかりそれをあなたに話したと、そうおっしゃっています。」
上原「すみません…なんのことか私には…」
唐木田「三船教授はウチの研究所にバンカーオイルの分析を依頼していました。分析結果は『問題あり』なのに、三船教授が四葉商船に提出した報告書には、『問題なし』となっていた。その後、三船教授はゴルフ場建設反対運動から身を引いた。偶然にしては出来すぎている」
上原「そんなこと言われても…」
唐木田「私は、あなた方ナカムラ商事が三船教授と裏工作をしたと疑っています。違いますか?」
上原はついに黙ってしまった。
唐木田「どのように関与したのかわかりませんが、結果としてバンカーオイルの検証結果が歪められた。あなた方はそれによって損害賠償の責任から逃れ、同時に弊社による企業精査を乗り切ったわけだ。ですが、」
ここからが肝心だ。
唐木田「四葉商船は今のところ、ナカムラ商事は事故と無関係であると判断しています。ですが、多額の損害賠償を抱えた四葉商船は今後も事故について追求し続け、近い将来に真実が明かされる。」
唐木田「なんなら、今から私が四葉商船にこのことを話しましょうか?四葉商船はどう思うでしょうね」
上原「ちょっと待ってくださいよ‼︎」
唐木田「もし弊社とナカムラのM&Aが成立した後にそのことが発覚したら、うちは800億もの大金を失うどころか、途方もない損失を抱える可能性がある」
唐木田「上原さん、真実を話すなら今のうちです。今ならまだ間に合う」
上原「……。」
上原「ご迷惑を、おかけしました…。」
やがて、上原の口が真実が明かされた。
[水平線]
《取締役会》
藤間「それでは最後の議案だな。大沢くん、頼むぞ。」
大沢「はい」
大沢が立ち上がった。
大沢「ナカムラ商事との買収合意以来、弊社によるデューデリチームによる企業精査を終え、先方代理人を務める東京セントラルキャピタルと最終的な売買価格を行いました。売買価格は、790億円です」
議場の気配が張り詰めた。
大沢「この買収により、我が社が製造する乗用車、トラック、小型船舶などのオイル燃料の供給元を抱えることになります。さらに、販売網で扱うメンテナンスオイルでもビジネスチャンスを得ることになり、買収によって大きな相乗効果が期待できます。」
大沢「それだけでなく、ナカムラ商事の社会的信用が補完され、新たなビジネスチャンスの獲得に繋がり、今後はエネルギー分野で事業拡大によって将来の収益部門へと成長していくと確信します。」
大沢「この買収事案は我が社にとって新たな未来を切り拓く一歩になると断言します。これは、営業部が威信をかけて挑む事業です。必ずや成功させてみせます」
大沢の発言に、取締役たちから称賛が湧いた。
いずれ大沢は、この会社のトップに上り詰めるだろう。
藤間「何か意見のあるものは?」
唐木田「よろしいでしょうか?」
発言の許可を求める声があり、全員の視線が一点に集中する。
唐木田「ナカムラ商事について営業部が行った企業精査ですが、特に問題がないようでしたが、本当に間違いはないのでしょうか?」
大沢「どういう意味だ」
この期に及んでまだ反対するのか。
唐木田「経営戦略室は企業精査には関与していませんが、営業部の企業精査には重大な見落としがあるのではないかと考えています。」
藤間「唐木田くん、もう少し具体的に説明してくれないか?」
唐木田は、持参にた資料を取締役たちに配布した。
唐木田「私ども経営戦略室でナカムラ商事に関する重要な情報を得ましたので、報告させていただきます。」
唐木田「最初のページに。2年前に四葉商船のタンカーがペルシャ湾で座礁した事故の記事を詳細にまとめております。このタンカーはペルシャ湾で何らかの理由によりエンジンが停止し、強風に流されてペルシャ湾で座礁。27万キロリットルという大量の原油が流出し、深刻な環境汚染を招き、さらに巨額の損害賠償を求められて極めて大きな問題となりました。」
いったいその事故が、この買収案件とどう結びつくのか。
唐木田「問題は、なぜエンジントラブルが起きたのか。」
唐木田「このタンカーは、ナカムラ商事から納品されたものでした。」
取締役たちの間でどよめきが起きた。
大沢「君はもしかして、ナカムラ商事のバンカーオイルがエンジントラブルを起こした原因だと言いたいのか?であれば、企業精査の段階で、この座礁事故とバンカーオイルについては無関係だという四葉商船の意見書を確認している。」
唐木田「もちろん知っています。」
唐木田「私が問題にしたいのは、その四葉商船の意見書がどういう根拠で提出されたのか、ということです。私どもの調査によると、四葉商船はナカムラ商事が納品したバンカーオイルのサンプルをとある大学の研究室に持ち込み、エンジントラブルとの因果関係について検証しました。川崎工業大学の三船教授です。」
藤間「で、結果はどうだったんだ?」
唐木田「因果関係はないとの結論がでました。」
まったく話に先が見えない。
大沢「何が言いたいんだ。君はこの取締役会を混乱させる気か?」
唐木田「いいえ。ナカムラ商事は、三船教授が四葉商船から検証を依頼されたことを、事前に察知していんです。」
それがどうしたのか。
唐木田「ナカムラ商事は三船教授に働きかけ、検証データを偽装し、結論の書き換えを要求しました。そのためにナカムラ商事は、三船教授に3億円を支払っています」
会議室が一気にどよめいた。
唐木田「粗悪なバンカーオイルが事故の原因だったとすれば、桁違いの損害賠償を要求されます。それを逃れるためなら3億円など大したことはありません。」
大沢「何の根拠があってそんなことを言うんだ。だいたい、そんな金が動けば企業精査の時点で問題になっただろう」
唐木田「会社から支払われていれば、です。」
唐木田「ところがその金は中村社長の個人口座から引き出され、現金で支払われました。」
大沢「フッフッフ…みんな君の想像じゃないかw」
大沢「そういうのなら、物証があるんだろうな?」
唐木田「根拠も無しにこんなことを申し上げません。」
唐木田「中村社長の指示により三船教授に現金を運んだのは、藤沢カントリーの責任者である上原氏です。お手元の資料に、彼の直筆の供述書が添付されております。」
唐木田「これが三船教授による3億円の受領書のコピーです。」
唐木田が大沢のもとへ叩き置いた。
唐木田「そして現金を引き出した中村社長の通帳のコピー。東京中央銀行、関東シティ銀行、帝都銀行の3つの口座から、それぞれ1億円ずつ引き出されいます。」
大沢の手が震えていく。
大沢「……認めない…私は認めないぞ…」
唐木田「ナカムラ商事を買収すれば、我が社は巨額の訴訟リスクを負うことになります。大沢さん、あなたは先ほど、営業部が威信をかけて挑む事業で、必ずや成功させてみせると言いましたね。ですが私に言わせれば、そんなものは見通しの甘い夢物語です。実際のナカムラ商事は、とんでもない爆弾をひた隠しにして売り急いでいるジョーカーそのものです!ウチがそのババを引くんですか?」
大沢が資料をテーブルに叩きつけ、
[大文字]大沢「唐木田ー!」[/大文字]
藤間「もういい。この件は、見送るのが正解だ。」
こうして、稀に見る大型案件は、幕を閉じたのであった。
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