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これを読んでから本編をご覧ください。
本編は後ほど書きます。
敵か味方か【序章】
[中央寄せ][明朝体]序章[/明朝体][/中央寄せ]
唐木田にとって、その男は天敵であった。
大沢「多少高いことはわかっている。そこを敢えて勝負に出ようと言っているんだ」
唐木田「1000億円ですよ、大沢さん。多少なんかではありません。」
唐木田「この会社の適正価格はせいぜい800億。それでも高いくらいでしょう。」
大沢「金額の問題じゃないんだよ。ナカムラ商事を買収すれば、自動車メーカーとしての我が社の事業と大きく関連して、大きく収益に寄与する。君はその相乗効果が読めないのか!」
大沢は右手の拳をテーブルに叩きつけた。
唐木田の隣では、経営戦略室長の林野が険しい顔をして大沢を見つめている。林野と大沢は動機入社だが性格は真逆である。片や時期社長候補として出世街道をひた走る辣腕、片や“内務官僚”と揶揄されるほどの理論派である。どちらも取締役ではあるが席次では大沢のほうが格上であり、林野はただのヒラの取締役に甘んじている。
唐木田「相乗効果を評価していないわけではありません。ナカムラ商事の扱うバンカーオイルが中堅海運会社でシェアが高いのは事実です。そしてカシワ自動車が製造する自動車や、販売網で扱うエンジンオイルの供給元としての役割を果たすという理屈は理解できます。ですが、さすがに営業部の見積もりは甘すぎますよ、大沢さん。よっぽどの幸運が重ならない限り、この買収は実現するとは思えません。」
大沢「我々を愚弄するのか君は!」
大沢が鋭く切り返した。
大沢「実現するかどうかは今後の取り組み次第だ。ナカムラ商事のバンカーオイルは大手商船でも使われ始めているんだぞ」
唐木田「四葉商船との取引ですか、それは継続的な取引ではありません。将来の実績予測に組み込むのは時期尚早です。」
大沢「いや、組み込むべきだ。」
大沢「君たち経営戦略室は想像力が欠如している。ナカムラ商事は近い将来、大手海運にまで取引を広げるし、取り扱い品目には、軽油や機械オイルもあってウチの製品との親和性も高い」
唐木田「既存の取引先との関係はどうされるんです?その分野にはウチからの出資先だってある。無視できません。とても営業部が試算したほどの規模にはならないでしょう。」
大沢はため息をつき、
大沢「君は、勝手に可能性を狭めているんじゃないのか?」
たしかに、将来には様々な可能性がある。大沢が期待する結果はあるかもしれない。しかし、極めて低い可能性に大金を注ぎ込むかどうか。
[水平線]
《常務取締役 執務室》
唐木田「営業部の見解は、あくまで希望的観測に過ぎません。明確な根拠がなければ評価できませんし、根拠なしに評価すれば、経営戦略室の存在意義が問われます。」
大沢「存在意義?」
大沢「君たちが存在できるのは、我々営業部が稼いできているからだろう。なのに理屈ばかりで、事業拡大の邪魔ばかりしている。いいか、この買収は将来、必ずウチの業績に寄与する。君たちには分からなくても私にはわかるんだよ。こんなふざけた意見書は再評価の上、書き直せ。」
唐木田は黙る。
唐木田「できません。私はこの仕事に誇りを持っています。こんな暴論に屈しては、経営戦略室の審査はない方がマシです。」
大沢「君は相変わらず頑固だな。」
大沢「だがな、そんな態度だと、いずれ足元をすくわれることになるぞ。」
その意味は、今はどんな意味を持っているのかわからなかった。
その時までは。
[水平線]
唐木田が移動で呼び出されたのは、それから1週間後のことであった。
林野「湘南工場…⁉︎」
林野「すまない…私からは何度も抵抗はしたものの、力になれなかった…」
それは、明らかに左遷人事であった。
[水平線]
唐木田は、バスの窓から流れる風景をぼんやりと眺めていた。
20年以上もカシワ自動車に勤めてきた。
この間、通勤は常に殺風景だった。しかし今日からは180度景色が一転し、のんびりしたものが目に映る。
唐木田「(俺はなんでこんなとこにいるんだ…。)」
バスの窓から工場が見えてきた。
湘南工場は、カシワ自動車の小型エンジン全般の製造をする主力工場だ。
《湘南工場》
水野「いやぁ、お待ちしてました」
出てきたのは、小太りの50代半ばの男だった。
工場長の水野洋である。
唐木田「本日から着任いたしました、唐木田です。よろしくお願いします」
水野「楽しみにしてましたよ」
水野「聞きましたよ。まぁ、大沢さんでは相手が悪かった」
[中央寄せ]ー いずれ足元をすくわれることになるぞ ー[/中央寄せ]
その一言が脳裏をよぎる。
唐木田にとって、その男は天敵であった。
大沢「多少高いことはわかっている。そこを敢えて勝負に出ようと言っているんだ」
唐木田「1000億円ですよ、大沢さん。多少なんかではありません。」
唐木田「この会社の適正価格はせいぜい800億。それでも高いくらいでしょう。」
大沢「金額の問題じゃないんだよ。ナカムラ商事を買収すれば、自動車メーカーとしての我が社の事業と大きく関連して、大きく収益に寄与する。君はその相乗効果が読めないのか!」
大沢は右手の拳をテーブルに叩きつけた。
唐木田の隣では、経営戦略室長の林野が険しい顔をして大沢を見つめている。林野と大沢は動機入社だが性格は真逆である。片や時期社長候補として出世街道をひた走る辣腕、片や“内務官僚”と揶揄されるほどの理論派である。どちらも取締役ではあるが席次では大沢のほうが格上であり、林野はただのヒラの取締役に甘んじている。
唐木田「相乗効果を評価していないわけではありません。ナカムラ商事の扱うバンカーオイルが中堅海運会社でシェアが高いのは事実です。そしてカシワ自動車が製造する自動車や、販売網で扱うエンジンオイルの供給元としての役割を果たすという理屈は理解できます。ですが、さすがに営業部の見積もりは甘すぎますよ、大沢さん。よっぽどの幸運が重ならない限り、この買収は実現するとは思えません。」
大沢「我々を愚弄するのか君は!」
大沢が鋭く切り返した。
大沢「実現するかどうかは今後の取り組み次第だ。ナカムラ商事のバンカーオイルは大手商船でも使われ始めているんだぞ」
唐木田「四葉商船との取引ですか、それは継続的な取引ではありません。将来の実績予測に組み込むのは時期尚早です。」
大沢「いや、組み込むべきだ。」
大沢「君たち経営戦略室は想像力が欠如している。ナカムラ商事は近い将来、大手海運にまで取引を広げるし、取り扱い品目には、軽油や機械オイルもあってウチの製品との親和性も高い」
唐木田「既存の取引先との関係はどうされるんです?その分野にはウチからの出資先だってある。無視できません。とても営業部が試算したほどの規模にはならないでしょう。」
大沢はため息をつき、
大沢「君は、勝手に可能性を狭めているんじゃないのか?」
たしかに、将来には様々な可能性がある。大沢が期待する結果はあるかもしれない。しかし、極めて低い可能性に大金を注ぎ込むかどうか。
[水平線]
《常務取締役 執務室》
唐木田「営業部の見解は、あくまで希望的観測に過ぎません。明確な根拠がなければ評価できませんし、根拠なしに評価すれば、経営戦略室の存在意義が問われます。」
大沢「存在意義?」
大沢「君たちが存在できるのは、我々営業部が稼いできているからだろう。なのに理屈ばかりで、事業拡大の邪魔ばかりしている。いいか、この買収は将来、必ずウチの業績に寄与する。君たちには分からなくても私にはわかるんだよ。こんなふざけた意見書は再評価の上、書き直せ。」
唐木田は黙る。
唐木田「できません。私はこの仕事に誇りを持っています。こんな暴論に屈しては、経営戦略室の審査はない方がマシです。」
大沢「君は相変わらず頑固だな。」
大沢「だがな、そんな態度だと、いずれ足元をすくわれることになるぞ。」
その意味は、今はどんな意味を持っているのかわからなかった。
その時までは。
[水平線]
唐木田が移動で呼び出されたのは、それから1週間後のことであった。
林野「湘南工場…⁉︎」
林野「すまない…私からは何度も抵抗はしたものの、力になれなかった…」
それは、明らかに左遷人事であった。
[水平線]
唐木田は、バスの窓から流れる風景をぼんやりと眺めていた。
20年以上もカシワ自動車に勤めてきた。
この間、通勤は常に殺風景だった。しかし今日からは180度景色が一転し、のんびりしたものが目に映る。
唐木田「(俺はなんでこんなとこにいるんだ…。)」
バスの窓から工場が見えてきた。
湘南工場は、カシワ自動車の小型エンジン全般の製造をする主力工場だ。
《湘南工場》
水野「いやぁ、お待ちしてました」
出てきたのは、小太りの50代半ばの男だった。
工場長の水野洋である。
唐木田「本日から着任いたしました、唐木田です。よろしくお願いします」
水野「楽しみにしてましたよ」
水野「聞きましたよ。まぁ、大沢さんでは相手が悪かった」
[中央寄せ]ー いずれ足元をすくわれることになるぞ ー[/中央寄せ]
その一言が脳裏をよぎる。
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