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浦ヶ丘製作所逆転物語【第3章】

《ナナオ•ステート 社長室》

笹原「それで、今日はいったい何の用?」
佐藤「今度、臨時株主総会が開かれるので、その説明に。」

笹原「あぁ、木嶋っていう株主から説明は受けてるわよ。加賀トランスとの合併がどうこうでしょ?もういいわよ」
佐藤「そうですか…」

笹原「で?」
佐藤「うちとしては、合併には断固反対です。対等合併と聞こえはいいですが、効率化の名の下に社員も独自技術も、全部なくなってしまう」

笹原「それはあなたたちの都合でしょ?株主としては、いっそのこと合併して配当が増えればそれでいいのよ」
佐藤「……。」

笹原「雨宮専務、お元気?今度は雨宮専務ともお話ししたいわね」

交渉は失敗であった。

帰社途中で寄り道したため、帰ってきたのはおよそ1時間後であった。

《夕方》

佐藤「あれ、雨宮さんは?」
取締役「雨宮さんなら…」

[水平線]
雨宮「……。」

佐藤「やはりここでしたか。秘書課に問い合わせたら、教えてくれました」
雨宮「何ですか?」

佐藤「少し話しをさせてくれ」
雨宮「これから人と会う約束なので、手短にお願いしますよ。」

佐藤「笹原社長に、合併は反対との意向を示してほしい。」
雨宮「いたしません。」

佐藤「それは、私に負けたからですか?」
雨宮「どういうことですか?」

佐藤「かつてあなたは私との出世競争で、新参者の私に社長の椅子を取られた。いいでしょう、社長の座なんかいくらでもくれてやる!ただし、合併だけは断固反対だ。」
雨宮「あなたは何もわかってない。私はただ、この会社を愛してるだけだ。社員たちのもっと、仕事を愛し、会社を愛してもらいたいんです。だからこそ私は上に行きたいんです。そして、合併して社員を守りたい。」

佐藤「だが、御園社長はこっちの社員なんか微塵も考えてない。そういう人なんだぞ」
雨宮「それは違う」

???「ここにいましたか。」

佐藤「!?どういうことだ…あんたまさか…」
雨宮「……。」

御園「なかなか来ないものだから心配しましたよ。いやぁ、私が浦ヶ丘製作所の社員のこと微塵も考えてないとは、心外だなぁ」

[水平線]
《山陽フィルム》

江藤「実は今度の試作品発表は、コンペにしたいと思ってる」
佐藤「コンペ?」

江藤「コンペなら、誰かの私情を挟むことなく、正々堂々とした発表ができる」
佐藤「それは確かにいいですね。私も参加してよろしいでしょうか?」

江藤「もちろんです。楽しみにしてます」

[水平線]
取締役「笹原社長は、物事の本質を見抜く目をお持ちだと、よく言われます。」

取締役「かつて、千葉に土地を持っていたようで、バブル期に突入してその土地の値段は急上昇した。ですがついには売らなかった。当然、価格は大暴落しました。多くの人は、彼女が欲を掻きすぎたと言いますが、それは違うようです。」

取締役「“ただ家族や社員みんなで楽しく過ごせる場所が欲しかった”」

佐藤「…じゃあ、笹原社長はまだ我々の想いを汲み取ってくれる可能性はある。」

[水平線]
《臨時株主総会 当日》

佐藤「定刻となりました。これより、臨時株主総会を始めさせていただきます。まず最初に株主の木嶋様より、この臨時株主総会の開催趣旨を説明していただきます。」

木嶋が余裕そうに立ち上がる。

木嶋「今回我々がこの臨時株主総会の要求をしたのは、御社の経営方針に疑問を覚えたからです。まぁ細かいことはさておき、先日の合併の話です。」

木嶋「先日、JAPATAXが主導する加賀トランスとの合併があった。加賀トランスと合併すれば株式は上場し、我々株主には大量のキャピタルゲインが転がり込む可能性があった。だが佐藤社長はその話を反故にし、その報告もしなかった。これは株主を軽んじていると言えるね!」
株主たち「そうだ!」

佐藤が立ち上がる。

佐藤「報告を怠ったことは素直に謝罪いたします。ですが、皆様に隠し立てするつもりはありませんでした。」
木嶋「はっきり申し上げる」

木嶋「浦ヶ丘製作所は、加賀トランスと経営統合したほうが、はるかにメリットがあると考えている。企業規模が大きくなれば、それだけ業績も安定する。それはつまり、我々株主に大きなメリットだ!」
株主「その通り!」

他の株主は拍手をして賛同する。

木嶋「言い方は悪いが、なぜこんな美味しい儲け話を断ったのか、きっちり説明してもらおうじゃないか!」
株主「どうなんだ!」

木嶋「そして、株主たちの意見をしっかり経営に反映してもらいたい。よろしいですね?」
佐藤「もちろん」

佐藤が立ち上がる。

佐藤「加賀トランスが弊社に経営統合を申し入れてきた理由は、加賀トランスが新規参入したイメージセンサー部門での、競合回避のためです。」

佐藤「加賀トランスのイメージセンサーは、弊社には到底及ばないものです。」
木嶋「そりゃずいぶんと大きいことだ」

佐藤「いいえ。加賀トランスはこの分野に100億円以上の資金を投資し、もう後戻りができなくなった。そこで勝ち目のない競争をするより、弊社のイメージセンサー技術を奪い取ろうと考えたわけです。ですが、加賀トランスと浦ヶ丘製作所では企業カルチャーが全く違う。コスト重視の加賀トランスは、金も時間もかかる技術開発に重点を置く弊社とは真逆の企業です。私はこの合併は、将来の安定を建前にして、弊社の一番の強みである技術力を失うことだと断言する!」
木嶋「腑に落ちませんね。」

木嶋「加賀トランスはれっきとした上場企業ですよ?そんな会社が、たかが一製品を欲しいからといって合併する?そんなありえない話しがありますかね?」
株主「そうだ」

木嶋「てかそもそもね、イメージセンサーだイメージセンサーだ言うけど、そりゃいったい何なんだ?デジタルカメラなんてどれも一緒でしょう」

その言葉に、奥に座っていた磯谷が一瞬目を見開いた。

佐藤「どれも一緒ではありません。」

佐藤が机に置いていたハンカチを開けた。

木嶋「何です?」
佐藤「これは、小型化にダウンサイズしたイメージセンサーのチップです。3分の1にダウンサイズしましたが、性能は従来サイズとまったく変わらない。このチップのように、小が大と渡り合えるものだってある。これは絶対に他社には真似できない。加賀トランスは確かに弊社よりも大きい市場を持っている、ですが、技術力では決して引けは取りません」

木嶋「あのねぇ、騙されませんよそんなパフォーマンスには。加賀トランスに勝るような強固な経営基盤があるなら、どうして前期は赤字を計上したんだ!それに配当金だって支払われていないじゃないか!」
株主「そうだ!それを説明しろ!」

株主たちからの非難の声は大きくなるばかりだ。

佐藤「前期、赤字を計上したのは、急激な市場の悪化に対応しきれなかったからです。言い訳するつもりはございませんが、弊社に限らず、市場規模の大きい会社も軒並み赤字を計上しました。そういえば、あなた方が合併を進める加賀トランスも、前期は赤字でしたね?」
木嶋「それこそ、さっきおっしゃったように市場規模の悪化だ。ですがそんな一過性の赤字は…」

佐藤「いいえ、残念ですがそれは違います。加賀トランスの前期の赤字はもっと他にある。」

佐藤「おや?ご存知ない?下手をすると加賀トランスは、今期以降も連続赤字を出す可能性が高い。それは、半導体部門の業績不振です。加賀トランスの売上の7割を占めるのが半導体部門です。中でもフレキシブル基盤が中心ですが、最近は韓国企業の攻勢を受けて、急速に収益悪化しているとの報告がありました。加賀トランスがイメージセンサーへの投資を始めた背景は、この半導体への投資失敗があったからだと見てまず間違いないと…」
木嶋「ちょっと待て、そんな話どこで聞いたんだ」

佐藤「弊社の優秀な社員が様々なコネクションを使って手に入れた情報です。半導体部門への投資は1000億円以上で、イメージセンサーなどと比にならない。そんな爆弾を抱えてる加賀トランスと経営統合するのは、共倒れになるのがオチだ。そんな相手との経営統合は、本当に正しいのでしょうか?」
株主「おい、どうなんだよ?」

株主「まさか木嶋さん、俺たちを騙そうとしたのか?」
木嶋「待て待て待て!騙そうとしてるのは俺じゃない、佐藤社長のほうだ。加賀トランスの業績不振が半導体だという話は確証がない、思いつき、もっと言えば願望だ!」

佐藤「願望?」
木嶋「統合すれば佐藤社長や会長の地位がなくなるからな」

???「ちょっといいか。」

この流れを断ち切ったのは、浦ヶ丘製作所の会長であり創業者でもある、村西貴之であった。

村西「木嶋さん、あなたには友人と呼べる人はいますか?」
木嶋「えっ?」

村西「私にとって社員は家族、取引先は友人です。家族や友人のためなら、こんな地位など喜んで差し上げますよ。ですが、悪い友人に騙されているとわかったら、それは絶対に見過ごすわけにはいきません。加賀トランスのやっていることは、全部自分の利益を求めることで、そこには友情や家族愛、誰かを思いやる心などない。不誠実だ!」

その言葉は、間違いなくこの流れを変えるものであり、村西の経営者としてのあり方や人格を表すものであった。

木嶋「村西会長、友情や家族愛なんてビジネスにはなんら関係のないものですよ。ビジネスは常に相手との駆け引きです。いかにお互いが得をするか、いかに損をしないか、それだけです」

佐藤「私は、村西会長の言葉に賛同できます。」

佐藤「…あの時は、本当に嬉しかったな」
木嶋「どういうことだ?」

佐藤「説明できません」
木嶋「はぁっ!?」

佐藤「先週、やっと試作品が完成したんです。納期はギリギリ、社内の空気は悪い。ですがそんな中で社員たちは、技術を集め、毎日夜遅くまで完成に取り組んでいた。それが完成した時は、全員で喜びを分かち合いました。あの時の社員たちの喜ぶ顔は、本当に嬉しかった。浦ヶ丘製作所は、そういう会社なんです!」

木嶋はこれには反論できなかった。

佐藤「笹原社長、まだあなたの意見を聞いていませんでした。笹原社長のお考えを、聞かせていただきたい」
笹原「……。」

木嶋「結を!笹原社長の意見を聞いたら結を取る、それでよろしいですね?」
株主「意義なし!」

大本命が立ち上がる。

笹原「私が聞きたいのは、雨宮さん。あなたの意見よ」

やはりこうきたか。
雨宮が立ち上がり、笹原をじっと見つめる。

雨宮「私は、この経営統合には反対です。」
佐藤「えっ?」

もっと驚いたのは言うまでもない。

木嶋「ちょっと雨宮さん、それじゃ話しが…」
雨宮「皆様に申し上げますが、佐藤社長と村西会長が言ったことは、ただの思いつきではございません。加賀トランスは半導体部門が招いた業績悪化を補うべくイメージセンサーに投資し、その技術力を手に入れるために弊社に対等合併と聞こえの良い話で持ちかけたことは事実です。この目で、それを見ました。」

木嶋「何っ…⁉︎」

[水平線]
雨宮「我々が作る新しい会社について、具体的な話に移りましょう。」
御園「そうですね。…追分くん」

追分「資料をお持ちいたします」

追分が加賀トランスの財務諸表などの諸々の資料を配った。

雨宮「……。」

[水平線]
木嶋「あっ…‼︎ あんたまさか、最初から加賀トランスの内務状況を狙うつもりで…‼︎」
雨宮「その実態は、粉飾をしていると言われても違いない数字の細工がずいぶんとされていた。加賀トランスは半導体部門の投資失敗で巨額の負債を抱えており、それを補填すべくイメージセンサーに新規参入して赤字を挽回しようとしたのは、事業計画書を見ても明白です」

木嶋「作り話だそんな話は!」

木嶋「だいたい、仮に財務諸表や事業計画書を見ただけで加賀トランスが粉飾をしているなど、そんな短い時間で見抜けるわけないだろ!」
村西「できる!」

村西が一喝した。

村西「雨宮は30年もうちの経理を支えてきた。…バカにするな!」
雨宮「そういうことですので、浦ヶ丘製作所としてはそんな会社との経営統合はできません。」

雨宮「かつ先日完成した、山陽フィルムの最新カメラに搭載するイメージセンサーの真価が認められれば、次の決算では間違いなく黒字になります。また、先ほど見せた小型化イメージセンサーの実用化が決まれば、株主の皆様には、長いスパンでの多額の配当金をお約束いたします」

木嶋「なぜだ、なぜそこまでして…」
笹原「私も聞いてみたわね」

笹原「あんた、合併したら社長の座が約束されるんだろ?木嶋さんから聞いたわ。けど、なんでそんないい話を断ったの?」

笹原「加賀トランスはいろいろ問題を抱えてる会社だけど、あんたなら立て直せるかもしれない。御園社長はそれを見込んで、あんたに会社を任せようとしたんじゃないのかい?」

雨宮に視線が向けられる。

雨宮「私は、社長の器ではないからです。」

雨宮「最初は自分が社長になって、この会社を引っ張っていこうと考えてきました。ですがあの夜、それは無理だと思いました。あの夜、小型化したイメージセンサーのチップを見て、佐藤社長はそれをビジネスチャンスと捉えました。長年この会社に勤めて先入観で凝り固まった私には、到底思い付かない発想でした。4年前、今やこの会社の主力商品となったイメージセンサーに最初に目をつけたのは当時は営業部長だった、佐藤社長でした。それは私にはできない発想でした。私は誰よりも、この会社のことを知っている。ですが、ただそれだけです。」

雨宮「ですから私は、社長として会社を引っ張るよりも、会社の一兵卒として働きたい。佐藤社長の今までにないやり方をするのは時に劇薬です。必ず蝕まれていく。ですが私はその副作用を抑える薬として、専務として佐藤社長を支えたい。この会社が好きだからです。」

しばらくの沈黙があった。

笹原「なるほど。けど仮に、そのイメージセンサーとやらが成功して、どんなに配当金が上がったとしても、合併して売り払った株式の利益には遠く及ばないわね」
木嶋「その通りです社長!」

笹原「結を取りなさい」
佐藤「それでは採決いたします。賛成の方は、挙手を。」

木嶋「賛成だよな。…あれ…?」

木嶋「ちょっと!キャピタルゲインですよ!?」

木嶋「笹原社長、あなた賛成ですよね!?…おい!あなたが挙手をすれば賛成になるんですよ!…おい!笹原!」

佐藤「反対多数で、加賀トランスとの経営統合は否決されました。」
木嶋「…‼︎」

木嶋は絶望した。あと一歩で大金が手に入るはずだった。

佐藤「そして、山陽フィルムの新型カメラに搭載するイメージセンサーは、コンペで加賀トランスとの一騎打ちになりました。必ずやコンペを勝ち取り、日本一の、いや、世界に誇れるモノを約束いたします!浦ヶ丘製作所の株主で良かったと、言えるかよう、礒谷部長を筆頭に進んで参りますので、どうか温かい目で、ご協力をお願い申し上げます!」

《解散後》

木嶋「……。」

村西「時間があるようでしたら、一緒にメシでもどうですか?うちの株のことで何かあるようでしたら、いつでもご相談に乗りますよ。例えば、買取とか。」
木嶋「…‼︎ ぜひ…‼︎ よろしくお願いします…‼︎」

[水平線]
《加賀トランス》

御園「否決された…?」

追分「すぐに、有識者に連絡を…」
御園「もういい!」

御園「手に入らないのなら、根こそぎ壊す…‼︎」

作者メッセージ

次回 最終回!

2025/12/19 21:01

上諏訪
ID:≫ 6.BBA13mnEY26
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