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北海道急行・中部高速鉄道・新中京鉄道は架空鉄道会社です
半沢直樹風小説 -私鉄買収計画-
諸星「よぉ、青山に山部」
その声には聞き覚えがあった。この度、北海道急行には運輸部長として1人の男が赴任してきた。
青山「諸星さん…!!」
山部「新しい運輸部長って、諸星さんのことだったんですね」
諸星「名古屋にいた時以来だな、元気してたか?」
山部「はい、おかげさまで」
3人は社内に戻った。諸星はJR東海から出向してきた。この2人は中部高速鉄道の社員で、先月、北海道急行へ出向してきた。
青山「部長、支社長がお呼びです」
諸星「支社長が?あぁ、今行く」
支社長の佐伯に呼ばれた。青山と山部も付いてきた。
諸星「お呼びでしょうか?」
佐伯「いきなりすまない。」
部屋には見たことがある人物が座っていた。
千歳「単刀直入に申し上げます。我がJR北海道は、この北海道急行を買収する計画です。」
諸星「なっ…!? 買収…」
3人は驚いた。上層部は、買収計画を知っているようだ。
千歳フラノはJR北海道の総合代表だ。徹底した派閥意識、ワンマン体制を構築し、JR北海道を支配している人物だ。
諸星「なぜですか?」
白石「私から説明させていただきます。」
JR北海道の業務統括部長、白石しぐれが口を開いた。白石は、千歳と同じ派閥の部下で、千歳からもっとも可愛がられている。男で、歳は18歳。キリッとした性格で人気がある。
白石「北海道急行は、年間15億程度の赤字を計上しているようですね。」
諸星「えぇ、JR北海道も赤字がひどいですよね」
白石「たしかにJR北海道も赤字だらけです。そこで、JR北海道の傘下として協力しませんか?北海道急行は全電化区間が交流区間、それに、最高時速160km/hで走行できるレールもある。JR北海道には都合が良い路線ですよ」
諸星「そちらの都合で、北海道急行を買収するおつもりですか」
白石「とんでもない。我々はあくまでも、北海道の鉄道を改革したい」
諸星「ですが、レール幅はどうされるおつもりですか?」
白石「山形新幹線や秋田新幹線と同様です」
つまり、レールを3本にするのだ。
千歳「詳しいことはこの資料に記載されていますので、よく読んで検討していただきたい」
紐で綴じられた書類を渡した。
山部「しかしどうしましょう…」
諸星「JR北海道としては、なんとしてもうちを手に入れる気だ」
青山「買収されれば、どうなるんですか…?」
諸星「わからない。ただ、千歳のことだ、余剰人員はリストラなだけでは終わらせないし、きっと策はあるはずだ」
渡された書類を読み終わった3人は、途方に暮れていた。
青山「正直、JR北海道がうちを良くしようなんか、本当に思いますかね?」
山部「どういうこと?」
青山「JR北海道は、あの千歳フラノが総合代表に就いてから、ワンマン体制が構築されているそうじゃないですか。あの人たちは見捨てても同然ですよ。」
山部「いくらなんでも社員を捨てるのか?」
諸星「いや、その可能性は考えられる。」
山部「もしかしたら、技術を奪うため?」
諸星は何も言わなかった。山部と青山は、この買収計画の真意と、千歳たちの恐ろしさを理解した。
桜内「それでどうでしたか?」
千歳「問題なく進みそうです。しかし、諸星という運輸部長が少々厄介でして。」
桜内「あいつですか。諸星は、大西常務を降格させた男として、帝都銀行じゃ嫌われ者ですよ」
千歳「それで、東山ほのかを飛ばしましたからね」
桜内「あいつには少し黙ってもらわないとですね。だが奴は、北海道急行という赤字私鉄の人間に成り下がった。」
千歳「まなお嬢様もさすがにこれは看過できなかったみたいです。まぁ当然といえば当然です。」
桜内「組織に逆らう者は自分の身を顧みないことと一緒ですからね」
千歳「ところで…今回の買収計画は、大西さんにも話はつけてあるんですか?」
桜内「いえ、つけてませんよ」
千歳「…私だけですか。」
桜内忠生は、帝都銀行証券部長の44歳だ。こいつを一言で言えば、ずる賢いキレもの、だろうか。自分のためなら部下だろうが顧客だろうが徹底的に利用する。
「上司の失敗は部下の責任、部下の手柄は上司の手柄」銀行に伝わるその格言を具現化したような男だ。いや、それ以上かもしれない。
[水平線]
大西「この買収が成功すれば、私は常務の座に返り咲ける。」
桜内「はい。」
大西「次の役員会議の出席名簿に、私の名前はなかった。だが君の名前は乗っていたよ。」
桜内「そうですか。」
大西「私は君を次に、取締役に昇進させる約束をした。そして君は私を役員会議に出席させるよう、役員たちに取り計らってもらう約束だっただろ!お前まさか私を裏切ったのか!」
桜内「裏切った?何を今さら…」
桜内は、吐き捨てるよう言った。大西は眼を開いて激怒している。
桜内「あんたはJR東海への不正融資がバレて、挙げ句あの人を追い込もうとした。」
大西「なんだと!」
桜内「それを諸星とかいう奴にバレて土下座して降格しちまった。裏切られたのは、あんたの自業自得なんだよ」
大西「貴様!お前をここまで登らせたのは誰のおかげだと思ってるんだ!」
桜内「あんたが発言したら買収案件はガタつくんだからな。でもこれで俺の意見がまかり通るさ。買収成功…ありがとうございましたーーー!!」
大西「……桜内ぃ…‼︎」
これが桜内忠生だ。不敵な笑みを浮かべながら部屋を出た。大西は、1人落胆していた。
[水平線]
白石「どうも。」
諸星「これは白石部長」
白石が来ていた。
白石「紹介します。こちら、帝都銀行の桜内さんです」
桜内「証券部長の、桜内です。」
名刺を交換した。
桜内「聞きましたよ諸星さん。JR東海で不正を暴いたそうじゃないですか」
諸星「えぇ。」
桜内「まぁそんなことは置いといて。先日の役員会議で、満場一致の賛成を得ました」
諸星「そうですか。ですが我々は、買収に応じるつもりはありません」
桜内「そんなこと言われましてもねぇ…賛成を得た以上、当行からの追加支援130億は決定しているんですから」
諸星「…桜内さん、JR北海道はなぜ、我々を買収するつもりなのですか?そのあたりをお聞きしたい」
桜内「言う必要なんかないですよ。お宅らはこちらの指示に従っていればいい」
諸星「いいえ、そういうわけには参りません。買収されるとなれば我々、北海道急行の社員全員の命運が左右されます。しらがって私たちには知る権利はあるはずです。」
桜内「わかりました。JR北海道は毎年数百億もの赤字を計上している。だが、それは北海道急行も同じだ。JR北海道と北海道急行は、今すぐ一つになって新たな鉄道を展開していく計画だ。」
諸星「具体的には?」
桜内「一定数の赤字係数路線の廃止と、管轄の見直しがメインだ。他にもいろいろあるが、じきに発表されるだろう」
諸星「わかりました」
会議は1時間ほどで終わった。
山部「諸星さん、帝都銀行の大西って人、知ってます?」
諸星「もちろんだ。不正融資の元凶だったやつだよな」
大西丈治は、帝都銀行取締役の男で、以前、JR東海の東山ほのかと結託して不正融資を行った人物である。その結果、常務取締役から降格し、銀行内では勢力を落としている。
山部「はい。それで、今回の買収計画、大西取締役を始めとした派閥が、買収に反対らしいんですよ」
諸星「本当か⁉︎ どこで聞いた話だ?」
山部「…まなお嬢様す。」
諸星「まなお嬢様が!?」
山部「まなお嬢様は帝都銀行との接点があるらしく…ご存知ですか?東山まなの母親が帝都銀行名古屋支店で勤めているのを」
諸星「あぁ、聞いたことある」
山部「それで、大西取締役が名古屋支店長時代に、直属の上司だったそうです」
山部「それで、まなお嬢様とも接点があるようで。」
諸星「だけど、なんで、大西取締役と東山まなが…」
山部「聞くところによると、大西取締役はJR各社を後押ししていて、まなお嬢様を始めとした代表方に気に入られているとか」
諸星「だから買収には反対しているのか…」
諸星は考えた。
諸星「青山、ちょっと来てくれ」
青山「はい部長」
諸星「明日、2人は帝都銀行へ行って、大西取締役を説得してくれ。JRへの発言力が強いあの人がこちらへつけば、買収を阻止できるかもしれない」
2人「はい!」
[水平線]
帝都銀行の本部は、東京都丸の内にある。その駐車場で、2人は大西が出てくるのを待っていた。
青山「大西取締役!」
大西「…? 君たちは確か…」
青山「北海道急行の青山です。こちらは同じ、山部です。」
大西「そうだそうだ、諸星くんの部下の人だったな。私に何か用かね?」
青山「大西取締役、北海道急行の買収計画はご存知ですよね?」
大西「…そのことか。」
青山「この買収計画は、何か裏があるはずです。」
大西「……。」
青山「我々としてこの買収計画は断固として反対です。大西取締役、ぜひ協力をしていただけませんか?」
大西「…それは無理だ。私が出たところで買収は阻止できない。悪いが帰ってくれ」
大西は車に乗り込む。
青山「…桜内はどうなりましたか?」
大西「?」
青山「聞きましたよ、あの桜内に裏切られて大西取締役はずいぶん行内で地位を落としかけていると。」
大西「何が言いたいんだ」
大西「あぁそうだ、あいつはこの私を裏切ったよ」
青山「そこで、我々と手を組んで買収を阻止すれば、桜内を失脚させることができます」
青山は、大西へ詰め寄った。
[水平線]
白石「株価取得率が3割を超えました」
千歳「これで買収は間違い無しね。」
桜内「まさかこんなに早く進むとは。」
白石「北海道急行はもう後がありません」
青山「どうなってんだいったい…‼︎」
諸星「まさか、1日で株式を3割持っていかれるとは、想定外だった」
すると、青山の携帯に電話がかかってきた。
青山「はい青山です…」
山部「どうなってんだこれは!こんなこと聞いてないぞ…帝都銀行では大騒ぎだぞこれは」
青山「はい…ですが理由がまったくわからず…」
山部「…おそらく時間外取引だな…。株式市場が開いてない時間に株式を取って、そうすると下手に動けないんだよ」
山部の予想は当たっていた。この出来事はネットニュースにもなった。
諸星「やはり買収の狙いは、北海道急行とJR北海道の合体は建前だったんですね」
桜内「なんだいきなり」
諸星「JR北海道は、北海道急行の技術力が狙いなんですね」
桜内「当たり前だろ、あんな会社は技術力しか取り柄はないんだよ。どうせ赤字ならJR北海道が買収してしまえば、JR北海道へ多額の利益は間違いないんだ。それはお前らにとってもいい話ではないか」
桜内は、勝利の目を向けていた。
諸星「何がいい話だ、俺はお前を許さない。」
桜内「フッ…w 何を言うかと思ったら負け惜しみか、みっともない。」
桜内「諸星、お前は負けたんだよ。おとなしくしてれば悪いようにはならない」
諸星「まだ決着はついてません。私は必ず、北海道急行はピンチを脱することができると確信しています」
桜内「…まぁいいだろう。明後日の役員会議でどう出るかお楽しみだな。JR各社の代表方の前で、どんな策を持ってくるか、楽しみにしているよ」
[水平線]
《役員会議》
今回の役員会議には、JR北海道の千歳を始め、JR各社の代表も出席していた。
桜内「では千歳代表から、今回の買収計画の概要をお願いします。」
フラノ「はい。今回の買収は、北海道における鉄道路線の強化を目的としたものであります。北海道急行はJR北海道と同等の線路設備を有しており、特に整備体制は非常に優秀であるといえます。また、160km運転の高規格路線や最新鋭の安全設備は、今のJR北海道に欠かせないものであり・・・」
千歳の概要説明は淡々としていた。
桜内「ただいまの概要設備を聞いて、納得できたと思われる方は挙手願います」
ほとんどの全員が挙手、つまり賛成だ。JR東海の東山まな、JR東日本の新在家しおり、JR西日本の花園かなえ、JR四国の琴平ゆき、JR九州の国分和奏、お嬢様方は全員だった。
桜内「では、多数決により賛成ということで。」
諸星「お待ちください」
北海道急行側から、諸星が立ち上がった。
桜内「なんだ、何か不満でもあるのか」
全員がザワザワしだし、不満の声も出た。だが…
新在家「いいじゃありませんか。」
JR東日本の総合代表、新在家しおりが助け舟を出した。
新在家「買収は両者があるものです。北海道急行側としての意見を聞いてもいいでしょう」
花園「私も話が聞きたいですね」
諸星「ありがとうございます。」
諸星「この買収計画には、我々、北海道急行は断固として反対いたします」
その一言に、全員が動揺した。
諸星「先ほどの千歳代表の説明は全て嘘、JR北海道は北海道急行が持つ鉄道路線を奪うつもりなのです」
桜内「デタラメ言ってんじゃねえぞっ!」
諸星「実際に両社内へのヒアリングもせず、利益のためなら鉄道会社の存在意義を軽視し、そこで働く全社員の意向を無視している」
桜内「それが買収なんだよ、お前!それに、株価は取得率の5割を超えた。今さら遅いんだよ!」
諸星「では、詳しい説明をする者をお呼びします。」
諸星がドアを開けた。
桜内「…‼︎ お前…」
諸星「大西取締役から説明させていただきます」
大西「残念ながらこの会議に主要メンバーとしては参加できませんでしたが、関係者ということで許可をいただきました。」
大西「諸星の今の言葉は、真実です」
桜内「!?」
大西「JR北海道は利益だけを求めています。なぜならJR北海道には、2年前から粉飾が存在していて財源が底をついているからです」
諸星「青山、山部、資料をお渡ししてくれ」
2人「はい!」
大西は続ける。
大西「JR北海道の記載された路線の総赤字額は約465億円とされているが、実際には500億円を超えている。これ以上赤字が増えれば千歳代表は更迭されるからだ。そこで競合の北海道急行に目を付け、今回の買収を提案した。北海道急行はグループ内では赤字がたびたび指摘されるが、唯一鉄道事業では黒字を5年続けて達成している。だがJR北海道は鉄道事業は赤字でも、他の事業では全て黒字を達成している。互いにとって都合は良いが、JR北海道はこの買収を機に全関連会社を買収するつもりだ!」
千歳「さっきから言葉を並べているが、そうである証拠はどこなの!」
大西「証拠ならある。青山!」
青山が1つのファイルを寄越した。
大西「このファイルには、JR北海道の財務状況が記載されています。千歳、この数字はなんだ、以前報告された数字と異なっているぞ。つまりJR北海道は、銀行からの追加資金130億円を騙し取った!どう説明するつもりだ!」
千歳「それは…その…」
諸星「どうなんだ千歳!」
千歳「私は知らない、知らないわそんなこと!我々が130億を騙し取っただなんてそんな…」
諸星「見苦しいですよ千歳代表」
千歳「…‼︎」
諸星「そしてそれを知りながら買収計画を進めようとした白石、お前もだ。」
白石「……。」
会議がそれ以上進ことはなかった。
諸星「それでは最後に、多数決を取ります。買収計画に賛成の者は?」
当然、手を挙げる者はいなかった。JR北海道側は、全員がすぐに会議場を後にした。
諸星「ご協力、感謝申し上げます」
大西「俺は桜内を返り討ちにできた。これも、君たちのおかげだ。」
諸星「青山、大西取締役を説得してくれてありがとう。君のおかげで大逆転できたからな」
青山「はい」
山部「大西取締役、これで行内では指示がこちらへ傾きましたね」
大西「いや、もういいよ。私は帝都銀行を退職する」
3人「えっ!?」
諸星「大西取締役…」
大西「最後に君たちと戦えて、本当に良かった。」
大西は、歩き出した。
諸星「大西取締役!」
大西「(振り返る)」
3人「お疲れ様です!」
大西は微笑んだ。
その声には聞き覚えがあった。この度、北海道急行には運輸部長として1人の男が赴任してきた。
青山「諸星さん…!!」
山部「新しい運輸部長って、諸星さんのことだったんですね」
諸星「名古屋にいた時以来だな、元気してたか?」
山部「はい、おかげさまで」
3人は社内に戻った。諸星はJR東海から出向してきた。この2人は中部高速鉄道の社員で、先月、北海道急行へ出向してきた。
青山「部長、支社長がお呼びです」
諸星「支社長が?あぁ、今行く」
支社長の佐伯に呼ばれた。青山と山部も付いてきた。
諸星「お呼びでしょうか?」
佐伯「いきなりすまない。」
部屋には見たことがある人物が座っていた。
千歳「単刀直入に申し上げます。我がJR北海道は、この北海道急行を買収する計画です。」
諸星「なっ…!? 買収…」
3人は驚いた。上層部は、買収計画を知っているようだ。
千歳フラノはJR北海道の総合代表だ。徹底した派閥意識、ワンマン体制を構築し、JR北海道を支配している人物だ。
諸星「なぜですか?」
白石「私から説明させていただきます。」
JR北海道の業務統括部長、白石しぐれが口を開いた。白石は、千歳と同じ派閥の部下で、千歳からもっとも可愛がられている。男で、歳は18歳。キリッとした性格で人気がある。
白石「北海道急行は、年間15億程度の赤字を計上しているようですね。」
諸星「えぇ、JR北海道も赤字がひどいですよね」
白石「たしかにJR北海道も赤字だらけです。そこで、JR北海道の傘下として協力しませんか?北海道急行は全電化区間が交流区間、それに、最高時速160km/hで走行できるレールもある。JR北海道には都合が良い路線ですよ」
諸星「そちらの都合で、北海道急行を買収するおつもりですか」
白石「とんでもない。我々はあくまでも、北海道の鉄道を改革したい」
諸星「ですが、レール幅はどうされるおつもりですか?」
白石「山形新幹線や秋田新幹線と同様です」
つまり、レールを3本にするのだ。
千歳「詳しいことはこの資料に記載されていますので、よく読んで検討していただきたい」
紐で綴じられた書類を渡した。
山部「しかしどうしましょう…」
諸星「JR北海道としては、なんとしてもうちを手に入れる気だ」
青山「買収されれば、どうなるんですか…?」
諸星「わからない。ただ、千歳のことだ、余剰人員はリストラなだけでは終わらせないし、きっと策はあるはずだ」
渡された書類を読み終わった3人は、途方に暮れていた。
青山「正直、JR北海道がうちを良くしようなんか、本当に思いますかね?」
山部「どういうこと?」
青山「JR北海道は、あの千歳フラノが総合代表に就いてから、ワンマン体制が構築されているそうじゃないですか。あの人たちは見捨てても同然ですよ。」
山部「いくらなんでも社員を捨てるのか?」
諸星「いや、その可能性は考えられる。」
山部「もしかしたら、技術を奪うため?」
諸星は何も言わなかった。山部と青山は、この買収計画の真意と、千歳たちの恐ろしさを理解した。
桜内「それでどうでしたか?」
千歳「問題なく進みそうです。しかし、諸星という運輸部長が少々厄介でして。」
桜内「あいつですか。諸星は、大西常務を降格させた男として、帝都銀行じゃ嫌われ者ですよ」
千歳「それで、東山ほのかを飛ばしましたからね」
桜内「あいつには少し黙ってもらわないとですね。だが奴は、北海道急行という赤字私鉄の人間に成り下がった。」
千歳「まなお嬢様もさすがにこれは看過できなかったみたいです。まぁ当然といえば当然です。」
桜内「組織に逆らう者は自分の身を顧みないことと一緒ですからね」
千歳「ところで…今回の買収計画は、大西さんにも話はつけてあるんですか?」
桜内「いえ、つけてませんよ」
千歳「…私だけですか。」
桜内忠生は、帝都銀行証券部長の44歳だ。こいつを一言で言えば、ずる賢いキレもの、だろうか。自分のためなら部下だろうが顧客だろうが徹底的に利用する。
「上司の失敗は部下の責任、部下の手柄は上司の手柄」銀行に伝わるその格言を具現化したような男だ。いや、それ以上かもしれない。
[水平線]
大西「この買収が成功すれば、私は常務の座に返り咲ける。」
桜内「はい。」
大西「次の役員会議の出席名簿に、私の名前はなかった。だが君の名前は乗っていたよ。」
桜内「そうですか。」
大西「私は君を次に、取締役に昇進させる約束をした。そして君は私を役員会議に出席させるよう、役員たちに取り計らってもらう約束だっただろ!お前まさか私を裏切ったのか!」
桜内「裏切った?何を今さら…」
桜内は、吐き捨てるよう言った。大西は眼を開いて激怒している。
桜内「あんたはJR東海への不正融資がバレて、挙げ句あの人を追い込もうとした。」
大西「なんだと!」
桜内「それを諸星とかいう奴にバレて土下座して降格しちまった。裏切られたのは、あんたの自業自得なんだよ」
大西「貴様!お前をここまで登らせたのは誰のおかげだと思ってるんだ!」
桜内「あんたが発言したら買収案件はガタつくんだからな。でもこれで俺の意見がまかり通るさ。買収成功…ありがとうございましたーーー!!」
大西「……桜内ぃ…‼︎」
これが桜内忠生だ。不敵な笑みを浮かべながら部屋を出た。大西は、1人落胆していた。
[水平線]
白石「どうも。」
諸星「これは白石部長」
白石が来ていた。
白石「紹介します。こちら、帝都銀行の桜内さんです」
桜内「証券部長の、桜内です。」
名刺を交換した。
桜内「聞きましたよ諸星さん。JR東海で不正を暴いたそうじゃないですか」
諸星「えぇ。」
桜内「まぁそんなことは置いといて。先日の役員会議で、満場一致の賛成を得ました」
諸星「そうですか。ですが我々は、買収に応じるつもりはありません」
桜内「そんなこと言われましてもねぇ…賛成を得た以上、当行からの追加支援130億は決定しているんですから」
諸星「…桜内さん、JR北海道はなぜ、我々を買収するつもりなのですか?そのあたりをお聞きしたい」
桜内「言う必要なんかないですよ。お宅らはこちらの指示に従っていればいい」
諸星「いいえ、そういうわけには参りません。買収されるとなれば我々、北海道急行の社員全員の命運が左右されます。しらがって私たちには知る権利はあるはずです。」
桜内「わかりました。JR北海道は毎年数百億もの赤字を計上している。だが、それは北海道急行も同じだ。JR北海道と北海道急行は、今すぐ一つになって新たな鉄道を展開していく計画だ。」
諸星「具体的には?」
桜内「一定数の赤字係数路線の廃止と、管轄の見直しがメインだ。他にもいろいろあるが、じきに発表されるだろう」
諸星「わかりました」
会議は1時間ほどで終わった。
山部「諸星さん、帝都銀行の大西って人、知ってます?」
諸星「もちろんだ。不正融資の元凶だったやつだよな」
大西丈治は、帝都銀行取締役の男で、以前、JR東海の東山ほのかと結託して不正融資を行った人物である。その結果、常務取締役から降格し、銀行内では勢力を落としている。
山部「はい。それで、今回の買収計画、大西取締役を始めとした派閥が、買収に反対らしいんですよ」
諸星「本当か⁉︎ どこで聞いた話だ?」
山部「…まなお嬢様す。」
諸星「まなお嬢様が!?」
山部「まなお嬢様は帝都銀行との接点があるらしく…ご存知ですか?東山まなの母親が帝都銀行名古屋支店で勤めているのを」
諸星「あぁ、聞いたことある」
山部「それで、大西取締役が名古屋支店長時代に、直属の上司だったそうです」
山部「それで、まなお嬢様とも接点があるようで。」
諸星「だけど、なんで、大西取締役と東山まなが…」
山部「聞くところによると、大西取締役はJR各社を後押ししていて、まなお嬢様を始めとした代表方に気に入られているとか」
諸星「だから買収には反対しているのか…」
諸星は考えた。
諸星「青山、ちょっと来てくれ」
青山「はい部長」
諸星「明日、2人は帝都銀行へ行って、大西取締役を説得してくれ。JRへの発言力が強いあの人がこちらへつけば、買収を阻止できるかもしれない」
2人「はい!」
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帝都銀行の本部は、東京都丸の内にある。その駐車場で、2人は大西が出てくるのを待っていた。
青山「大西取締役!」
大西「…? 君たちは確か…」
青山「北海道急行の青山です。こちらは同じ、山部です。」
大西「そうだそうだ、諸星くんの部下の人だったな。私に何か用かね?」
青山「大西取締役、北海道急行の買収計画はご存知ですよね?」
大西「…そのことか。」
青山「この買収計画は、何か裏があるはずです。」
大西「……。」
青山「我々としてこの買収計画は断固として反対です。大西取締役、ぜひ協力をしていただけませんか?」
大西「…それは無理だ。私が出たところで買収は阻止できない。悪いが帰ってくれ」
大西は車に乗り込む。
青山「…桜内はどうなりましたか?」
大西「?」
青山「聞きましたよ、あの桜内に裏切られて大西取締役はずいぶん行内で地位を落としかけていると。」
大西「何が言いたいんだ」
大西「あぁそうだ、あいつはこの私を裏切ったよ」
青山「そこで、我々と手を組んで買収を阻止すれば、桜内を失脚させることができます」
青山は、大西へ詰め寄った。
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白石「株価取得率が3割を超えました」
千歳「これで買収は間違い無しね。」
桜内「まさかこんなに早く進むとは。」
白石「北海道急行はもう後がありません」
青山「どうなってんだいったい…‼︎」
諸星「まさか、1日で株式を3割持っていかれるとは、想定外だった」
すると、青山の携帯に電話がかかってきた。
青山「はい青山です…」
山部「どうなってんだこれは!こんなこと聞いてないぞ…帝都銀行では大騒ぎだぞこれは」
青山「はい…ですが理由がまったくわからず…」
山部「…おそらく時間外取引だな…。株式市場が開いてない時間に株式を取って、そうすると下手に動けないんだよ」
山部の予想は当たっていた。この出来事はネットニュースにもなった。
諸星「やはり買収の狙いは、北海道急行とJR北海道の合体は建前だったんですね」
桜内「なんだいきなり」
諸星「JR北海道は、北海道急行の技術力が狙いなんですね」
桜内「当たり前だろ、あんな会社は技術力しか取り柄はないんだよ。どうせ赤字ならJR北海道が買収してしまえば、JR北海道へ多額の利益は間違いないんだ。それはお前らにとってもいい話ではないか」
桜内は、勝利の目を向けていた。
諸星「何がいい話だ、俺はお前を許さない。」
桜内「フッ…w 何を言うかと思ったら負け惜しみか、みっともない。」
桜内「諸星、お前は負けたんだよ。おとなしくしてれば悪いようにはならない」
諸星「まだ決着はついてません。私は必ず、北海道急行はピンチを脱することができると確信しています」
桜内「…まぁいいだろう。明後日の役員会議でどう出るかお楽しみだな。JR各社の代表方の前で、どんな策を持ってくるか、楽しみにしているよ」
[水平線]
《役員会議》
今回の役員会議には、JR北海道の千歳を始め、JR各社の代表も出席していた。
桜内「では千歳代表から、今回の買収計画の概要をお願いします。」
フラノ「はい。今回の買収は、北海道における鉄道路線の強化を目的としたものであります。北海道急行はJR北海道と同等の線路設備を有しており、特に整備体制は非常に優秀であるといえます。また、160km運転の高規格路線や最新鋭の安全設備は、今のJR北海道に欠かせないものであり・・・」
千歳の概要説明は淡々としていた。
桜内「ただいまの概要設備を聞いて、納得できたと思われる方は挙手願います」
ほとんどの全員が挙手、つまり賛成だ。JR東海の東山まな、JR東日本の新在家しおり、JR西日本の花園かなえ、JR四国の琴平ゆき、JR九州の国分和奏、お嬢様方は全員だった。
桜内「では、多数決により賛成ということで。」
諸星「お待ちください」
北海道急行側から、諸星が立ち上がった。
桜内「なんだ、何か不満でもあるのか」
全員がザワザワしだし、不満の声も出た。だが…
新在家「いいじゃありませんか。」
JR東日本の総合代表、新在家しおりが助け舟を出した。
新在家「買収は両者があるものです。北海道急行側としての意見を聞いてもいいでしょう」
花園「私も話が聞きたいですね」
諸星「ありがとうございます。」
諸星「この買収計画には、我々、北海道急行は断固として反対いたします」
その一言に、全員が動揺した。
諸星「先ほどの千歳代表の説明は全て嘘、JR北海道は北海道急行が持つ鉄道路線を奪うつもりなのです」
桜内「デタラメ言ってんじゃねえぞっ!」
諸星「実際に両社内へのヒアリングもせず、利益のためなら鉄道会社の存在意義を軽視し、そこで働く全社員の意向を無視している」
桜内「それが買収なんだよ、お前!それに、株価は取得率の5割を超えた。今さら遅いんだよ!」
諸星「では、詳しい説明をする者をお呼びします。」
諸星がドアを開けた。
桜内「…‼︎ お前…」
諸星「大西取締役から説明させていただきます」
大西「残念ながらこの会議に主要メンバーとしては参加できませんでしたが、関係者ということで許可をいただきました。」
大西「諸星の今の言葉は、真実です」
桜内「!?」
大西「JR北海道は利益だけを求めています。なぜならJR北海道には、2年前から粉飾が存在していて財源が底をついているからです」
諸星「青山、山部、資料をお渡ししてくれ」
2人「はい!」
大西は続ける。
大西「JR北海道の記載された路線の総赤字額は約465億円とされているが、実際には500億円を超えている。これ以上赤字が増えれば千歳代表は更迭されるからだ。そこで競合の北海道急行に目を付け、今回の買収を提案した。北海道急行はグループ内では赤字がたびたび指摘されるが、唯一鉄道事業では黒字を5年続けて達成している。だがJR北海道は鉄道事業は赤字でも、他の事業では全て黒字を達成している。互いにとって都合は良いが、JR北海道はこの買収を機に全関連会社を買収するつもりだ!」
千歳「さっきから言葉を並べているが、そうである証拠はどこなの!」
大西「証拠ならある。青山!」
青山が1つのファイルを寄越した。
大西「このファイルには、JR北海道の財務状況が記載されています。千歳、この数字はなんだ、以前報告された数字と異なっているぞ。つまりJR北海道は、銀行からの追加資金130億円を騙し取った!どう説明するつもりだ!」
千歳「それは…その…」
諸星「どうなんだ千歳!」
千歳「私は知らない、知らないわそんなこと!我々が130億を騙し取っただなんてそんな…」
諸星「見苦しいですよ千歳代表」
千歳「…‼︎」
諸星「そしてそれを知りながら買収計画を進めようとした白石、お前もだ。」
白石「……。」
会議がそれ以上進ことはなかった。
諸星「それでは最後に、多数決を取ります。買収計画に賛成の者は?」
当然、手を挙げる者はいなかった。JR北海道側は、全員がすぐに会議場を後にした。
諸星「ご協力、感謝申し上げます」
大西「俺は桜内を返り討ちにできた。これも、君たちのおかげだ。」
諸星「青山、大西取締役を説得してくれてありがとう。君のおかげで大逆転できたからな」
青山「はい」
山部「大西取締役、これで行内では指示がこちらへ傾きましたね」
大西「いや、もういいよ。私は帝都銀行を退職する」
3人「えっ!?」
諸星「大西取締役…」
大西「最後に君たちと戦えて、本当に良かった。」
大西は、歩き出した。
諸星「大西取締役!」
大西「(振り返る)」
3人「お疲れ様です!」
大西は微笑んだ。
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