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また会う日までさようなら

ボクには、最愛の彼がいた
まだ小さかったボクたちは、よく“将来結婚しようね”なんて、笑いながら約束していた
幼稚園の頃のこと
折り紙で作った指輪をくれて、「これはボクからの婚約指輪ね!」なんて言って、笑ってた
その指輪、今も大事に引き出しの奥にしまってある
でも、小学三年生のある日、突然彼はいなくなった
家に行っても、おじさんは「ごめんね、○○とは会えないの」って優しく言うだけで、何も教えてくれなかった
それにいつもいるおばさんがいなかったことに違和感を持ってたけど
“何があったのか”なんて、子どものボクにはわからなかったし、訊く勇気もなかった
気づいたら、毎日彼のことを考えていた
彼の姿を思い出さない日は、なかったと思う
中学生になったころ、周りの友達はみんな“恋愛”に夢中になっていた
「ねえ、あの人カッコよくない?ナンパしてこようかな!」
なんて、楽しそうに話す友達に、ボクは笑ってうなずくだけだった
本当は、よくわからなかった
“カッコいい”とか“イケメン”とか、そういう感覚も
どうしてそんなに簡単に好きになれるのかも
ボクにとって、“好き”って、そんな簡単なものじゃなかったから


中学三年の春。
駅の改札を出たところで、信じられないものを見た
あの日と同じ、優しい横顔。
少し背が伸びてたけど、目の奥にある光は、あの頃のままだった
「……○○?」
彼もボクに気づいて、少し驚いたように笑った
「久しぶり」
再会は、本当に突然だった
ボクはうまく言葉が出せなかった
彼が転校していたこと
両親が離婚して、名字が変わったこと
新しい街で、不安の中で暮らしていたこと
それでも、ボクのことはずっと覚えていてくれた。
今日は久しぶりに、おじさんに会いに来たのだと言っていた
彼は聞いた
「紙の指輪、まだ持ってる?」
ボクがうなずくと、彼は少し照れくさそうに笑って、
「……うれしい」って、ぽつりと言った
その声を聞いた瞬間、ボクはもう涙を止められなかった
だけど、時間はいつだって残酷だ
彼は、春から遠くの高校に進学するという
「もうすぐ、この街を離れる」
再会できたことが奇跡なら、また離れ離れになることは運命だったのかもしれない
その日は連絡先だけを交換して、別れた
「その高校、共学なんだ」って言ってた
だったら、ボクも、その高校に行けばいい
せっかく手に入れた“奇跡”を、今度は絶対に手放さない
そう決めた瞬間から、死に物狂いで勉強した
手にはタコができて、鉛筆の芯で指が黒くなって
何度も泣いて、時々笑って、でも進んだ
それだけ彼のことが好きだったんだと思う
合格を伝えたとき、彼は本当にうれしそうに笑ってくれた
その笑顔が、全部報われたような気がして、涙が出た
入学式の日
彼と並んで登校した
その感覚が、懐かしくて、嬉しくて
目頭が熱くなったのを隠すと、彼はあわあわして笑っていた
だけど
次の月、彼には彼女ができた
ボクは、彼の隣にいられるのは自分だけだと思ってた
そう信じてた
紙の指輪を覚えていてくれたこと、
同じ学校を目指したこと、
その全部を“特別”だと思っていたのに
現実は、そうじゃなかった
彼にとって、ボクはただの“懐かしい友達”だったんだ
恋愛対象なんかじゃなかった
それに気づいたとき、ボクの中で、何かが崩れた
彼とは、それから話さなくなった
どうしても、無理だった
もう、こんな苦い恋なんて、二度としたくない
もう期待したくない
裏切られた気分になりたくない
だからこれで、
ボクの最初で、最後の恋

あの日から一言も話してない

同じクラスなのに、同じ時間を過ごしているのに
目が合っても、お互い目を逸らすようになった
彼女がいるのはわかってる
その子はすごく優しそうで、かわいくて、
ボクなんかより、ずっと彼に似合ってる
でも、心はそう簡単に切り替えられない
教室の後ろで笑ってる声を聞くたびに、胸が締めつけられる
一瞬でも視界に入ると、呼吸が浅くなる
見ないふり、聞こえないふり、慣れたはずなのに

高校二年生

文化祭準備で、班分けされた。
まさかの、彼と同じ班。
二人きりになることはなかったけど、
ボクは久しぶりに彼の「名前」を口にした。
「……○○、この装飾手伝ってくれる?」
その一瞬、彼は少し驚いた顔をして、でも
「うん」って笑った。
あのときの笑顔と、同じだった。
だけどボクは、もう信じないと決めていた。
この笑顔に期待なんて、してはいけないって

そして三年生の春

彼は彼女と別れていた
理由は、わからない
でも、もう付き合っていないという噂は、すぐに広まった
でもだからって、ボクにチャンスが回ってくるわけじゃない
そんな都合よく、恋が戻るなんて、思ってない
ただひとつ、変わったことがあるとすれば
彼が、少しずつ話しかけてくるようになったこと
「最近どう? 勉強、大変そうだね」
「この前、偶然あの駅前通ったら思い出したよ」
他愛ない話ばかり
でも、ボクの心は、少しずつ揺れ始めていた

卒業まであと半年

「ねえ、また一緒に、あの駅まで歩かない?」
彼が、ふとそんなことを言った。
「なんで?」って聞いたら、
「理由なんて、なくてもいいでしょ」って。
その日、ボクたちは昔みたいに並んで歩いた
手はつながなかったけど、心の距離は少しだけ、近づいた気がした
そして、改札の前で立ち止まったとき
「あのとき、好きだったよ。ちゃんと、言えなかったけど」
彼がそう言った
ボクの目から、また涙がこぼれた
「遅いよ」って思ったけど、
「それでも、ありがとう」って笑った

でも、ごめんね
ボクは、彼と一緒にはいられない
本当はその気持ちを受け取りたい
そのまま彼を私のものにしたい
けど
彼は知らない
ボクの家系の女の子が、あの町の神様に“差し出される”ことを
十八歳の誕生日、祀られた社で静かに消えることを
代々、それがこの町を守る“役目”だったことを
あと数日で、その日が来る
だから、もう一度好きになったら、ボクは壊れてしまう
この役目から、逃げ出してしまうかもしれない
町を守れなくなる
だから、これでいいんだ
涙も鼻水もぐちゃぐちゃだけど、ちゃんと顔を上げて、目を合わせて
「ごめんね」って言ってた
きっと、これで正しかった
私なりの覚悟だった

けれど、一つだけ、
一つだけ祈らせてほしい
どうか、幸せでいてほしい
どうか、 前を持って生きていてほしい
どうか、どうか、
私の分まで生きていてほしい


あぁ、
この恋は、やっぱり


「最初で、最後」

2025/11/30 22:52

しろうさぎ
ID:≫ 71hp2G1uLljkU
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