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夜桜のお月見ミステリ

#1

ミステリ 前夜

「もう、桜が咲く季節かぁ……。桜でも見ながら酒を一杯ひっかけようかな」

街には、これでもかというほど桜が咲き誇っており、月あかりが透けて見えていて、それもまた図々しいほどに美しかった。

そして、街の中央へ向かうほどに、明るい行燈を出した屋台たちが並んでいた。

「酒、売ってるとこないかなぁ。どうせなら焼き鳥も食べたい」

双紗(ソウシャ)が辺りを見回していると、一杯の盃を手にした女がいた。その女は、上掛を羽織っており、顔までは見えなかったが、絹のようにさらりとした長い黒髪が出ていた。
双紗が女をじっくりと見ていると、目線を気にしたのか宝石のような瞳がこちらを覗いた。
そんな女を見て、双紗は何事もなかったかのように、立ち去ろうとした。

すると、女が双紗の手をとり、話しかけてきた。

「あの、お話いいですか?」

双紗は、少し考えてから、言った。
「その酒、一杯おごってくださるのなら」

女が怪訝そうな目で見てきたが、気のせいということにしておこう。



しばらくして、酒を持った女が来た。その手には、さっきのものより少々豪華なように思える。

「こちらでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。それで、話とは?」
「そうですね…。これは…」

長話になると思い、双紗は、酒を一口、口に含んだ。

これは、宝石商をしている、ある一人の男性の話です。その男性は、私の書道の師でもありました。ですので、ここからは師と呼ばせていただきます。

師は、商いを行っているため、とても聡明な方でした。ですが、病にはあらがえず、先日ぽっくりなくなってしまいました。まあ、もう子も成人しておりますので、もうそろそろかと覚悟はしていたのですが。

ですが、師は、弟と、二人の娘、そして、弟子なかで、おそらく一番親しかったであろう私にも、形見が配られました。
配られたものは、西方製の絹の手ぬぐいでした。
その手ぬぐいには、異国の言葉が、それぞれ刺繍されていました。

師の弟の手ぬぐいには、石、師の長女のものには、恋、次女には予感。そして、私のものには、月と刺繍されていました。私は、師から異国の言葉を軽く教えてもらっていましたので、どうにか読めました。

そして、師の遺書にはこう書かれていました。「暗号を、解けさえすれば、桜の幻を知ることができるであろう」と。
ですが、私たちには、その謎がわからず……。

と、いうことなので、あなたに、謎解きをお願いしたいのです。







「なるほど、大体の経緯はわかりました。ですが、なぜ私を?」
「私をよく観察していたようなので、そのような観察眼があるなら、と。それに、異国語の冊子が、初めて会った時、胸元から少し見えましたので。異国語が理解できるということは、それなりの学がありそうなので」

双紗は思わずはっとしてしまった。いや、それほどに驚かされてしまった。異国語が理解できている時点で、侮らない方が良かったかもしれないと、双紗は後悔した。


その日は、帰って情報をまとめることにした。

情報1 手ぬぐいには、異国語で刺繍されていた。そのため、女の師も異国語を理解していた。
情報2 弟には、石。長女は恋。次女は予感。そして、女には月。

(情報少ないなぁ……。それで、石か……。宝石商ということだから、石は、宝石ということでいいのかな)

狭い部屋の中で、一人ポツリ、寝台にもたれかかり考える。齢20の双紗の家は、狭い狭い一軒家だが、寝台と机、棚がどうにかある程度で、ものが散乱している。

その中には、異国語のとある文章が落ちていた。

「……」



ひとまず、もう夜も遅いため、寝ることにした。


[水平線]

翌日、女に師という人物の家に行きたいと言うと、師の家族に会わせてくれた。
出てきたのは、大人っぽい女性二人だった。恐らく、師の娘だろう。

「雪蘭(シュラン)さん、この方が?」
「はい、そうです」

女は雪蘭というそうだ。

「私は、双紗と申します。雪蘭さんに頼まれましたので、調べるために来ました」
「そうだったのですね。私は父の次女です。こちらは、私の姉です」
「どうぞよろしく」

次女は、見た目通り静かで礼儀もなっている。だが、長女は少しツンとしていて、双紗も楼寧も快く思われていないようだった。

(まあ、当然か。雪蘭さんだって、ただの弟子だから形見が贈られたのも、よくは思えないか……。それに、私はほんとに部外者だもんなぁ……)

今更、双紗は酒代ぐらい自分で払っておくんだったと後悔した。

「あの、双紗さん、本当にその刺繍は、暗号なのでしょうか?私たちへのメッセージということは……」
「それは、わかりません。その可能性は無きにしも非ずです。それを調べるにも、情報が必要です」
「そう…ですね。わかりました。では、父の部屋にご案内します」

次女は観念したのか、ようやく家の中にいれてくれた。

家の中は、思ったよりもよい造りをしていた。ただ、使用人がいるのか、一人ほどしかいないのかで、あまり綺麗とは言えなかった。

「こちらが父の部屋です。一応、散らかったものを片付けた程度ですので、なくなったものはないはずです」
「わかりました。では、棚を見てもいいですか?」
「ええ」

長女はあまりいい顔をしていなかったが、次女から許可をもらえたので、棚を見てみることにした。
棚は、三つあり、左から見ていくことにした。

まず、一つ目は服がしまってあるだけのようで、特に重要そうなものでもないし、男性の物なので、軽く調べて終わりにした。二つ目は、一番高価そうな棚だった。中には、帳簿や、宝石などの類が、それぞれ丁寧にしまわれていた。
帳簿を軽くパラパラと見てみたが、特に不自然な点はなく、何かが挟まっているわけでもなかった。

最後の棚は、本棚だった。本は、結構いい値がつく場合もあるので、これほどまでに集めたのか、と思わず感嘆の声をあげそうになる。
その中で、双紗は一つの本に目が留まった。

「これは……」
「それは、西方の有名な詩人、楊琴(ヨウキン)の詩集です。父は、「酒豪で豪胆な性格なのに、どうして繊細な詩が詠めるんだと」好んでおりました」

しおりが挟まれているページがあったので、そこの詩を読んでみた。

『夜桜の 咲き散る 儚さの中
 月長の
 一筋の 自らの光
 それは 幻か それとも現か』

この詩は、儚い中でも強く己の意志を貫く人物を表した詩だ。
特に、貴族の一部の女性や、妓楼の女性などに受けているらしい。

「ちょっとこの詩、借りてもいいですか?」
「えぇ、まあどうぞ」

と、いうことでしばらく資料を読み漁ることにした。
正直、その詩の部分だけを写せばいいのかもしれなかったが、他の詩にも何かあるのかもしれない。と、いうことで決して写すのが面倒だったわけではない。

(まず、月長ってなにを意味するんだ?『脹』という漢字はあるけども、流石に出版されてるものに書き間違いはないよなあ……。月長って、月の長い光を表してるのか?語呂がよかったのだろうか……)

ともかく、思い詰まったし、疲れたので、昼寝でもすることにした。。




 











作者メッセージ

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
次回は、双紗が謎を解明する軽快な話となっております。ちなみに、真相は、また次回知りたい!って人は「月長」を検索しないことをお勧めします。

それではまた。

2026/05/03 14:12

彩ノ宮
ID:≫ 04kYm4qUdkyPQ
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連載中華ミステリー夜桜宝石

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