マンサクの花が咲く
この薄暗い街に、
愛を知らない女がいた。
[水平線]
薄暗い街。橙色の街灯と、満月の明かりが街を照らす。
そこに、コツコツと、歩く女がいた。
その女は、ベージュのトレンチコートに、赤いつるんと輝くハイヒールを履いていた。
とても、美しく、淑女だった。
女が、街を歩いていると、ふいにポツポツと雨が降ってきた。
「あ、傘持ってなかった……」
女は、バッグをがさごそ探ってみたものの、傘が見つからず、立ち止まり、雨に濡れていると、1人の男が現れた。
その男は、女を見ると言った。
「あの、傘をお持ちでないようですが……。よろしければ、僕の傘に入っていきませんか。僕は⬜︎⬜︎駅に行くところなんですけど」
「ありがとうございます。私もちょうどその駅に行くところだったんです」
こうして2人は同じ傘の下、駅まで一緒に行くことにした。
そして、駅に着くと、男は言った。
「あの、もしよかったら連絡先交換しませんか?一度だけで終わらせたくないんです……」
そんな男の言葉を聞いて、女はびっくりした表情から、落ち着いた表情に戻って言った。
「ぜひ、よろしくです」
こうして、2人はちょくちょく連絡を取り合うようになり、たまに会うようにもなった。
最初は、名前も知らなかった関係から、とうとう交際も初めることになった。
とある日、女の部屋に男が遊びに来た。
そして、2人は愛の言葉を囁き合った。
愛を知らなかった女が、ついにここまで来た。
なぜなら、愛を知らなかっただけだから。
「〇〇君、私ね、あなたのお陰で愛を知ることができたの」
「それは良かったよ」
女は男に抱きついて、さらに語った。
「だって〇〇君はいっぱい私に尽くしてくれてるから。だからさ、来年の〇〇君の誕生日、すっごいこと考えてるの。だからさ、綺麗なドレス買って欲しいな。△△ブランドのやつ。せっかくだから〇〇君とお揃いがいいなぁ。お願い」
上目遣いの女に男が言った。
「しょうがないなぁ。また次会う時買ってあげるよ」
「やったぁ。ありがと。いつかじゃあ、マイホームで暮らせるようお仕事頑張ってね?」
女は、愛を知った。
この女の唯一の愛を。
この部屋に飾られているのは、マンサクという花。マンサクの花言葉は「呪文」。
この女にとって、愛と呪文は紙一重なのかもしれない。
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