___という夢を見た。
湿気を孕んだ部屋にアラーム音がうるさく鳴り響く。
夢オチか、そう残念そうに思いながらスマホのアラームを止めた。
淡い水色のカーテンを勢いよく開けると、雨粒が勢いよく窓越しに打ち付けてくる。
あぁ、今日は雨なんだ。別に雨だからといって日常が何か変わる訳ではないが、こう気分が下がるものがある。
ため息を1つ付いて、まだ眠気が残る頬を軽く叩いた。
今日も何も変わらない日々の始まりだ。
私が働いている会社は都心の方にある小さなデザイン会社、「[漢字]橄欖[/漢字][ふりがな]かんらん[/ふりがな]」。
何かの宝石がモチーフになったとか言っていたような気がしたが、どうでもいい。
私の仕事は基本イラストのデザイン。イラストレーターと自信を持って名乗れる程の物ではないが、多少なりとも仕事の依頼は舞い込んでくる。
たまに小説執筆なども手掛けており、私の書籍は本屋の隅に置かれている。
売れてはないが、お金はある。そんな人生だ。
そんな人生で充分なはずだった。
[水平線]
[水平線]
[水平線]
一通り仕事を終わらせ一息付くと、いつの間にか定時になっていた。急いでタイムカードを切って会社を飛び出ると、人混みがぞろぞろと道を埋め尽くす。
朝降っていたはずの雨はもう止んでいて、道行く人はどこか嬉しそうな顔をしながら皆同じ方向へ歩いていた。中には可愛い浴衣姿の人も何人か居て、そこで花火大会があるのを思い出す。
相変わらず世界というのはイベント事が大好きだな。
そう思いながら人混みを掻き分けて、皆とは真反対の方角へ向かう。
人が嫌で無意識に路地へ逃げ込む。狭く細く曲がりくねった路地を駆け抜けると、気が付くと見知らぬ海岸へと着いていた。
…戻ろうか。
そう思ったが、狂ったように走り続けたあの路地を戻れる気がしないし、何よりもあの人混みにまた突っ込んでいくのはかなり嫌だ。
仕方なく砂浜を歩いていると、誰かが空を見上げているのが見えた。
顔はかなりの美形。中性的な体型なのでよく分からないが、多分男性だろう。黒髪の短髪はふわりと吹いた涼しい夏の風にじゃれつく。
彼の紺色の瞳が捉えるのは、空のもっと向こうの……、……星?
その視線が指す向こうには、炎のように煌めく無数の青い星が見えた。
少し寂しそうに星を見つめるその姿に私も見惚れる。
これが…〝一目惚れ〟…、というやつなのだろうか。
いやいや、と独り頭を横に振ると、消え入りそうな程に小さい笑い声が聞こえた。
まさか見られてた…?、そう思い顔を上げるといつの間にか近くまで来ていた男の人と目があった。
遠くで見てると中性的に感じていた顔も、近くで見るとしっかりと男の人だ。年相応は私と同じ20代だろうか。
綺麗なその顔にじっと見つめられて、顔が赤くなるのを感じる。吐息に鼓動が早くなる。
恥ずかしくてうつ向いていると、彼は口を開けてこう呟いた。
「 ……もうそろそろですね、花火。 」
花火のお客さんか、なら空を見上げていたのも納得だ。でも、花火大会って普通ソロで参加するようなものか…?
「 そ、そうですね…。 」
自分の辞書に恋という物が何もない私はよく分からないので、取り敢えず賛同しておいた。
すると、私の気持ちを見透かしたように彼はふっと不敵に笑う。
「 独りで参加するのは、そんなに珍しいんですか…? 」
心の内を当てられあわあわと焦る私を楽しそうに眺める彼は、急に少し照れたような顔をして小さい声でこう言った。
「 …良ければ、花火一緒に見ませんか…。 」
知らない人と花火を見る。一瞬躊躇ったが、不思議と嫌ではなかった。
まるで昔会っていたような、そんな気がするから。
私が了承すると彼は少しだけはしゃいだ。そんなところが可愛いと思ってしまう私は、変なのかな。
「 そう言えば名前…。 」
そう私が呟くと、彼は待ってましたと言わんばかりに自らの情報を打ち明けた。
「 僕は、[漢字]幾夜 藍玉[/漢字][ふりがな]いくよ らんぎょく[/ふりがな]と言います。 」
貴方の名前は…?と聞かれ、私も彼に釣られ自分の名前を明かす。
「 あ…、私は[漢字]海原 酌朧[/漢字][ふりがな]うなば しゃお[/ふりがな]って言います…。 」
そう言い頭を深々と下げると、藍玉は噛み締めるように私の名前を何度も呼んだ。
その姿がおかしくて、私はお腹を抱えて笑った。
笑い終わった後、2人で砂浜に座りまもなく花火が上がった。
まるでそれは空に咲き乱れる星のように綺麗で、きらきらと散っていくのが少しだけ寂しくもあった。
花火に夢中で手元を見ておらず、途中に彼と手が触れた。でも嫌じゃない、何故か嫌じゃなかった。
この時間が愛おしくて、でも限られてて、そして無情に終わる。
でも、今だけは何も考えずに触れていたい。そう思っていた。
[中央寄せ][明朝体]「 __咲き乱れる海岸にて。 」[/明朝体][/中央寄せ]
湿気を孕んだ部屋にアラーム音がうるさく鳴り響く。
夢オチか、そう残念そうに思いながらスマホのアラームを止めた。
淡い水色のカーテンを勢いよく開けると、雨粒が勢いよく窓越しに打ち付けてくる。
あぁ、今日は雨なんだ。別に雨だからといって日常が何か変わる訳ではないが、こう気分が下がるものがある。
ため息を1つ付いて、まだ眠気が残る頬を軽く叩いた。
今日も何も変わらない日々の始まりだ。
私が働いている会社は都心の方にある小さなデザイン会社、「[漢字]橄欖[/漢字][ふりがな]かんらん[/ふりがな]」。
何かの宝石がモチーフになったとか言っていたような気がしたが、どうでもいい。
私の仕事は基本イラストのデザイン。イラストレーターと自信を持って名乗れる程の物ではないが、多少なりとも仕事の依頼は舞い込んでくる。
たまに小説執筆なども手掛けており、私の書籍は本屋の隅に置かれている。
売れてはないが、お金はある。そんな人生だ。
そんな人生で充分なはずだった。
[水平線]
[水平線]
[水平線]
一通り仕事を終わらせ一息付くと、いつの間にか定時になっていた。急いでタイムカードを切って会社を飛び出ると、人混みがぞろぞろと道を埋め尽くす。
朝降っていたはずの雨はもう止んでいて、道行く人はどこか嬉しそうな顔をしながら皆同じ方向へ歩いていた。中には可愛い浴衣姿の人も何人か居て、そこで花火大会があるのを思い出す。
相変わらず世界というのはイベント事が大好きだな。
そう思いながら人混みを掻き分けて、皆とは真反対の方角へ向かう。
人が嫌で無意識に路地へ逃げ込む。狭く細く曲がりくねった路地を駆け抜けると、気が付くと見知らぬ海岸へと着いていた。
…戻ろうか。
そう思ったが、狂ったように走り続けたあの路地を戻れる気がしないし、何よりもあの人混みにまた突っ込んでいくのはかなり嫌だ。
仕方なく砂浜を歩いていると、誰かが空を見上げているのが見えた。
顔はかなりの美形。中性的な体型なのでよく分からないが、多分男性だろう。黒髪の短髪はふわりと吹いた涼しい夏の風にじゃれつく。
彼の紺色の瞳が捉えるのは、空のもっと向こうの……、……星?
その視線が指す向こうには、炎のように煌めく無数の青い星が見えた。
少し寂しそうに星を見つめるその姿に私も見惚れる。
これが…〝一目惚れ〟…、というやつなのだろうか。
いやいや、と独り頭を横に振ると、消え入りそうな程に小さい笑い声が聞こえた。
まさか見られてた…?、そう思い顔を上げるといつの間にか近くまで来ていた男の人と目があった。
遠くで見てると中性的に感じていた顔も、近くで見るとしっかりと男の人だ。年相応は私と同じ20代だろうか。
綺麗なその顔にじっと見つめられて、顔が赤くなるのを感じる。吐息に鼓動が早くなる。
恥ずかしくてうつ向いていると、彼は口を開けてこう呟いた。
「 ……もうそろそろですね、花火。 」
花火のお客さんか、なら空を見上げていたのも納得だ。でも、花火大会って普通ソロで参加するようなものか…?
「 そ、そうですね…。 」
自分の辞書に恋という物が何もない私はよく分からないので、取り敢えず賛同しておいた。
すると、私の気持ちを見透かしたように彼はふっと不敵に笑う。
「 独りで参加するのは、そんなに珍しいんですか…? 」
心の内を当てられあわあわと焦る私を楽しそうに眺める彼は、急に少し照れたような顔をして小さい声でこう言った。
「 …良ければ、花火一緒に見ませんか…。 」
知らない人と花火を見る。一瞬躊躇ったが、不思議と嫌ではなかった。
まるで昔会っていたような、そんな気がするから。
私が了承すると彼は少しだけはしゃいだ。そんなところが可愛いと思ってしまう私は、変なのかな。
「 そう言えば名前…。 」
そう私が呟くと、彼は待ってましたと言わんばかりに自らの情報を打ち明けた。
「 僕は、[漢字]幾夜 藍玉[/漢字][ふりがな]いくよ らんぎょく[/ふりがな]と言います。 」
貴方の名前は…?と聞かれ、私も彼に釣られ自分の名前を明かす。
「 あ…、私は[漢字]海原 酌朧[/漢字][ふりがな]うなば しゃお[/ふりがな]って言います…。 」
そう言い頭を深々と下げると、藍玉は噛み締めるように私の名前を何度も呼んだ。
その姿がおかしくて、私はお腹を抱えて笑った。
笑い終わった後、2人で砂浜に座りまもなく花火が上がった。
まるでそれは空に咲き乱れる星のように綺麗で、きらきらと散っていくのが少しだけ寂しくもあった。
花火に夢中で手元を見ておらず、途中に彼と手が触れた。でも嫌じゃない、何故か嫌じゃなかった。
この時間が愛おしくて、でも限られてて、そして無情に終わる。
でも、今だけは何も考えずに触れていたい。そう思っていた。
[中央寄せ][明朝体]「 __咲き乱れる海岸にて。 」[/明朝体][/中央寄せ]