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#今、新たな美酒を
美酒
あなたに出逢えた瞬間
あなたと幸せそうに笑えた瞬間
あなたが照れてうつ向いた瞬間
彼処へ向かう道すがら、あなたの色んな表情をぼんやり思い出す。
私がなんであの場所へまた向かっているのか、理由は自分でもよく分かってるのだが…きっと、後で後悔するんだろう。
自分の行動の意味を意識のすみに追いやると、あの場所へやっと着いた。やっと、と言っても意外に駅から然程遠くなかった。いつも駅からは真反対の方向にしか行ったことがなかったから、自分の店のアクセスの良さを今更分かった。
此処で出会った愛しい人達が何度も開けたこの古い木の扉、私は今その扉の前へと立っている。歓迎するようにふんわりとした春風が髪とじゃれ合う。
未だ新入居者が見つからない、〝元〟私の居場所。不法侵入のようだが、一応工事業者には承諾を入れている。
私が此処を去ってから、早くも1ヶ月。もう店は取り壊されていると思ったが、新入居者が見つからないのに壊すと景観がどうたら…と工事を1時中断した、と聞いた。
そっと扉を開くと、私が居なくなった日そのままの景色が広がった。木製のテーブル、少し革の剥がれたカウンターの椅子。細かなメンテナンスを行わなかったので、少し傷んでるカウンターの埃をはらう。
少しだけ椅子を撫でると、そのまま落ちるように座った。
思い出すのは笑顔や楽しそうな場面ばかり。その思い出に後悔なんて1ミリもなかった。
唯一後悔してるのは、あなたとの別れ。なんであんなに酷い別れをしてしまったのか。私はどうしたらこの後悔から抜け出せるのか。
もう…いっそ、このままお店と消えてしまいたい。
私がここに来た理由は、後悔を消したかったから。
突然泣きそうになってカウンターに伏せた瞬間、ドアベルが鳴った。
私が店へ入っていくのを見て開いてると勘違いしたお客さんだろうか。そう思い振り向くと、
[下線]音戯 青藍[/下線]
「 …すみません、もうお店はっ…___。 」
思わず、言葉が詰まった。
[中央寄せ][明朝体]そこには、もう私を思い出さない筈の
世界で一番愛しい人が立っていた。[/明朝体][/中央寄せ]
息が荒くなっていて、走って追いかけてきたのかもしれない。
突然の出来事の衝撃と、何をしていいか分からない戸惑いから少しだけ目を伏せる。双人の間に少しばかりの沈黙が流れた。
その空気に耐えられず、この場から去ろうと最低限の荷物を纏め、彼女の横を通ろうとする。
だが、小さく弱い力で___でも、確かな力で服の裾を引っ張られた。どうやら、帰す気は無さそうだ。
仕方なく自分の元いた場所に戻り、彼女は店へと足を踏み入れた。
彼女が私の隣に座るとまた辛い沈黙が流れる。
重たい空気の中、勇気を出して少しでも、と言葉を紡いだ。
[下線]音戯 青藍[/下線]
「 …ごめん、なさい…。 」
酷く勇気が必要だった割には、情けなく小さい声がでた。でも、相手には聞こえているようでじっと此方を見つめている。
今まで押さえてた分、一言発すると止まらなくなる。ぽろぽろと出たのはどれも懺悔の言葉ばかりだった。
あの別れ方をしてからずっと後悔してたこと。
その後悔を消す為に此処へ来たこと。
そして、こんな再会の仕方したこと。
途中途中で声をくぐもらせながら、なんとか今までの全てを話せた。
話している時も、彼女は肯定も否定もせずにじっと私を見つめていた。こういうところが本当に…本当に優しい。
そっと彼女の背に手を回すと、彼女も頭を撫でてくれた。だめだ、本当に泣きそう。
自分で離れたと決めたはずなのに、もう貴方から離れたくない。いつも私は自分勝手だ。
貴方の気持ちをしるために、少しだけ口を開いた。
[下線]音戯 青藍[/下線]
「 …私の事、すき…、? 」
いつの日か、もう毎日に疲れていた私がそう聞いた時は、即答で「大好きだよ」と帰ってきた。そこからは何も聞かずに、貴方の事だけを信じていた。
今だって貴方の事は信じている。でも、今だから。
少しだけ驚いたような、困ったような笑顔を浮かべて、こう言った。
[下線]滴跡 流緋[/下線]
「 大好き、じゃない…。 」
それが彼女の答えだった。
当たり前のように傷つく。でも、納得はできた。
そうだよな。自分勝手な別れ方をして、それで偶然に会ったからって寄りを戻したいなんて、私はどれだけ傲慢なのか。ふっと、諦めたような笑みを浮かべる。もう離れよう、諦めよう。
幸せになってね、そう言おうと席を立つと、突然手首を掴まれた。
[下線]滴跡 流緋[/下線]
「 そんな訳…ないっ…! 」
必死な顔をしてそう言われた。
私が少しだけ難解な顔をして座ると、彼女は続けてこう言った。
[下線]滴跡 流緋[/下線]
「 …本当は、嫌いになろうと思ってた…。
でも…青藍といた毎日が心地よくって、忘れられなくって…。
それでも、後悔が残って…気付いたら此処の近くに来てて。 」
途中で言葉を詰まらせながらも、彼女の今までを話していた。
まるで、先程までの私だ。似た者同士、ということなんだろうか。
[下線]滴跡 流緋[/下線]
「 それで、気付いたら此処に来てて…
お店に入っていく青藍が見えて、走って…
…っごめんなさい、謝るのはわたしの方…。 」
恋人が泣くのを見たくなくて、全て言い終わる前に抱き締めた。私も実のところ泣きそうだった。でも我慢した。我慢するしかなかった。
でも、最終的には彼女が泣くのを見て、釣られて泣いてしまった。二人して泣きじゃくる姿は、端から見れば恥ずかしいだろうが、これも一種の愛情表現だと感じていた。きっと、わたしだけじゃなくて、彼女も。
気付けば日はとっくに暮れていて、急ぎ足で帰路に向かう大人達が窓から見えた。
散々泣いて泣いて疲れた後で二人して顔を見合うと、双方力なく笑った。
その夜、私達は何かを取り戻せた。
後悔は消えない、この先もきっとずっと。
でもその後悔はいつか薄れていくと思う。
そう思いながら、今夜再オープンする為に色んな物がひしめく木のカウンターをそっと撫でる。
空が茜色に染まる頃、店の明かりをつけて人が来るまで雑務をこなす。
前と違う事はあんまりない。あるとすれば、もう独りじゃないって事。
カラン、とドアのベルが鳴る。今日も此処へと酔いに来たお客さんが来たようだ。
私は、向日葵のような笑顔でこう言った。
[斜体][明朝体]いらっしゃいませ、今夜はどんな御酒がお望みでしょうか____。[/明朝体][/斜体]
あなたと幸せそうに笑えた瞬間
あなたが照れてうつ向いた瞬間
彼処へ向かう道すがら、あなたの色んな表情をぼんやり思い出す。
私がなんであの場所へまた向かっているのか、理由は自分でもよく分かってるのだが…きっと、後で後悔するんだろう。
自分の行動の意味を意識のすみに追いやると、あの場所へやっと着いた。やっと、と言っても意外に駅から然程遠くなかった。いつも駅からは真反対の方向にしか行ったことがなかったから、自分の店のアクセスの良さを今更分かった。
此処で出会った愛しい人達が何度も開けたこの古い木の扉、私は今その扉の前へと立っている。歓迎するようにふんわりとした春風が髪とじゃれ合う。
未だ新入居者が見つからない、〝元〟私の居場所。不法侵入のようだが、一応工事業者には承諾を入れている。
私が此処を去ってから、早くも1ヶ月。もう店は取り壊されていると思ったが、新入居者が見つからないのに壊すと景観がどうたら…と工事を1時中断した、と聞いた。
そっと扉を開くと、私が居なくなった日そのままの景色が広がった。木製のテーブル、少し革の剥がれたカウンターの椅子。細かなメンテナンスを行わなかったので、少し傷んでるカウンターの埃をはらう。
少しだけ椅子を撫でると、そのまま落ちるように座った。
思い出すのは笑顔や楽しそうな場面ばかり。その思い出に後悔なんて1ミリもなかった。
唯一後悔してるのは、あなたとの別れ。なんであんなに酷い別れをしてしまったのか。私はどうしたらこの後悔から抜け出せるのか。
もう…いっそ、このままお店と消えてしまいたい。
私がここに来た理由は、後悔を消したかったから。
突然泣きそうになってカウンターに伏せた瞬間、ドアベルが鳴った。
私が店へ入っていくのを見て開いてると勘違いしたお客さんだろうか。そう思い振り向くと、
[下線]音戯 青藍[/下線]
「 …すみません、もうお店はっ…___。 」
思わず、言葉が詰まった。
[中央寄せ][明朝体]そこには、もう私を思い出さない筈の
世界で一番愛しい人が立っていた。[/明朝体][/中央寄せ]
息が荒くなっていて、走って追いかけてきたのかもしれない。
突然の出来事の衝撃と、何をしていいか分からない戸惑いから少しだけ目を伏せる。双人の間に少しばかりの沈黙が流れた。
その空気に耐えられず、この場から去ろうと最低限の荷物を纏め、彼女の横を通ろうとする。
だが、小さく弱い力で___でも、確かな力で服の裾を引っ張られた。どうやら、帰す気は無さそうだ。
仕方なく自分の元いた場所に戻り、彼女は店へと足を踏み入れた。
彼女が私の隣に座るとまた辛い沈黙が流れる。
重たい空気の中、勇気を出して少しでも、と言葉を紡いだ。
[下線]音戯 青藍[/下線]
「 …ごめん、なさい…。 」
酷く勇気が必要だった割には、情けなく小さい声がでた。でも、相手には聞こえているようでじっと此方を見つめている。
今まで押さえてた分、一言発すると止まらなくなる。ぽろぽろと出たのはどれも懺悔の言葉ばかりだった。
あの別れ方をしてからずっと後悔してたこと。
その後悔を消す為に此処へ来たこと。
そして、こんな再会の仕方したこと。
途中途中で声をくぐもらせながら、なんとか今までの全てを話せた。
話している時も、彼女は肯定も否定もせずにじっと私を見つめていた。こういうところが本当に…本当に優しい。
そっと彼女の背に手を回すと、彼女も頭を撫でてくれた。だめだ、本当に泣きそう。
自分で離れたと決めたはずなのに、もう貴方から離れたくない。いつも私は自分勝手だ。
貴方の気持ちをしるために、少しだけ口を開いた。
[下線]音戯 青藍[/下線]
「 …私の事、すき…、? 」
いつの日か、もう毎日に疲れていた私がそう聞いた時は、即答で「大好きだよ」と帰ってきた。そこからは何も聞かずに、貴方の事だけを信じていた。
今だって貴方の事は信じている。でも、今だから。
少しだけ驚いたような、困ったような笑顔を浮かべて、こう言った。
[下線]滴跡 流緋[/下線]
「 大好き、じゃない…。 」
それが彼女の答えだった。
当たり前のように傷つく。でも、納得はできた。
そうだよな。自分勝手な別れ方をして、それで偶然に会ったからって寄りを戻したいなんて、私はどれだけ傲慢なのか。ふっと、諦めたような笑みを浮かべる。もう離れよう、諦めよう。
幸せになってね、そう言おうと席を立つと、突然手首を掴まれた。
[下線]滴跡 流緋[/下線]
「 そんな訳…ないっ…! 」
必死な顔をしてそう言われた。
私が少しだけ難解な顔をして座ると、彼女は続けてこう言った。
[下線]滴跡 流緋[/下線]
「 …本当は、嫌いになろうと思ってた…。
でも…青藍といた毎日が心地よくって、忘れられなくって…。
それでも、後悔が残って…気付いたら此処の近くに来てて。 」
途中で言葉を詰まらせながらも、彼女の今までを話していた。
まるで、先程までの私だ。似た者同士、ということなんだろうか。
[下線]滴跡 流緋[/下線]
「 それで、気付いたら此処に来てて…
お店に入っていく青藍が見えて、走って…
…っごめんなさい、謝るのはわたしの方…。 」
恋人が泣くのを見たくなくて、全て言い終わる前に抱き締めた。私も実のところ泣きそうだった。でも我慢した。我慢するしかなかった。
でも、最終的には彼女が泣くのを見て、釣られて泣いてしまった。二人して泣きじゃくる姿は、端から見れば恥ずかしいだろうが、これも一種の愛情表現だと感じていた。きっと、わたしだけじゃなくて、彼女も。
気付けば日はとっくに暮れていて、急ぎ足で帰路に向かう大人達が窓から見えた。
散々泣いて泣いて疲れた後で二人して顔を見合うと、双方力なく笑った。
その夜、私達は何かを取り戻せた。
後悔は消えない、この先もきっとずっと。
でもその後悔はいつか薄れていくと思う。
そう思いながら、今夜再オープンする為に色んな物がひしめく木のカウンターをそっと撫でる。
空が茜色に染まる頃、店の明かりをつけて人が来るまで雑務をこなす。
前と違う事はあんまりない。あるとすれば、もう独りじゃないって事。
カラン、とドアのベルが鳴る。今日も此処へと酔いに来たお客さんが来たようだ。
私は、向日葵のような笑顔でこう言った。
[斜体][明朝体]いらっしゃいませ、今夜はどんな御酒がお望みでしょうか____。[/明朝体][/斜体]
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