そんな[漢字]音楽の頂点[/漢字][ふりがな]ベータ=アッディーオ[/ふりがな]を、誰よりも――
[太字]超えてみたい。[/太字]
トラステ=バッドイードは客席で静かに立ち上がった。翡翠の瞳が舞台をまっすぐ見つめる。その視線の先では、ベータがチェロケースを開いていた。
舞台袖でアメスティが身を乗り出す。
「ベータ、次あんただよ」
「ええ」
「緊張とか、しないの?」
ベータは少し考え、短く答える。
「しないよ」
「えっ!? しないの!?」
「だから経験を開花させて、演奏する」
アメスティは数秒黙ったあと、思わず吹き出した。
「なにそれ、真面目すぎ!」
アナウンスが静かに響く。
「出場番号三番。ベータ=アッディーオ」
ざわめきが落ち着き、会場がゆっくりと静まっていく。水色の天才。帰ってきたのだ数年前から姿を消していたはずの獣が。その噂だけが、空気を満たしていた。ベータは舞台中央に歩き出る。
チェロを構え、弓を静かに持ち上げた。
一音。
――ドゥン。
低く深い響きが床を震わせる。
その音はまるで重力のように会場全体を引き寄せた。続く旋律は静かだった。
水色の光が舞台に滲み、ゆっくりと広がる。雨ではない。湖でもない。
深く沈んだ海のような音だった。
アメスティが思わず呟く。
「……うそ」
メロディアの蒼い瞳が細くなる。
トラステの内部演算が走る。
だが旋律は数式に収まらない。雨に濡れてしまった機械は作動しない。
低音がゆっくりと浮かび上がり、高音へと変わる。
音が泡のように舞い、天井へ消えていく。
最後の一音。
弓が静かに離れる。完全な静寂が落ちた。
誰も拍手できない。余韻が深すぎて、動けない。
やがて――
パチ。
最初の拍手はアメスティだった。
「……ずるい」
その一言で会場が一斉に沸く。
嵐のような拍手。
スクリーンが点灯した。
【98.8】
会場がどよめく。
大会初の九十点台。暫定一位。
アメスティが拳を振り上げた。
「出たぁぁ!」
メロディアは小さく呟く。
「……修正が必要ね」
ルヴィアは微笑んだまま言う。
「やっぱり、壊れそう」
そしてトラステ。
翡翠の瞳がゆっくり細くなり、口元がわずかに歪む。
「なるほど」
彼は静かに立ち上がった。
「ようやく見つけた」
演算を越える音。
完成を揺らす存在。
「君が、更新対象だ」
舞台中央でベータはチェロを下ろす。
そして小さく呟いた。
「……まだ足りない」
蒼、赤、緑、水色。
四つの旋律が、コンコルディアで交差する。
音律祭はまだ――
第一楽章に過ぎなかった。
[太字]超えてみたい。[/太字]
トラステ=バッドイードは客席で静かに立ち上がった。翡翠の瞳が舞台をまっすぐ見つめる。その視線の先では、ベータがチェロケースを開いていた。
舞台袖でアメスティが身を乗り出す。
「ベータ、次あんただよ」
「ええ」
「緊張とか、しないの?」
ベータは少し考え、短く答える。
「しないよ」
「えっ!? しないの!?」
「だから経験を開花させて、演奏する」
アメスティは数秒黙ったあと、思わず吹き出した。
「なにそれ、真面目すぎ!」
アナウンスが静かに響く。
「出場番号三番。ベータ=アッディーオ」
ざわめきが落ち着き、会場がゆっくりと静まっていく。水色の天才。帰ってきたのだ数年前から姿を消していたはずの獣が。その噂だけが、空気を満たしていた。ベータは舞台中央に歩き出る。
チェロを構え、弓を静かに持ち上げた。
一音。
――ドゥン。
低く深い響きが床を震わせる。
その音はまるで重力のように会場全体を引き寄せた。続く旋律は静かだった。
水色の光が舞台に滲み、ゆっくりと広がる。雨ではない。湖でもない。
深く沈んだ海のような音だった。
アメスティが思わず呟く。
「……うそ」
メロディアの蒼い瞳が細くなる。
トラステの内部演算が走る。
だが旋律は数式に収まらない。雨に濡れてしまった機械は作動しない。
低音がゆっくりと浮かび上がり、高音へと変わる。
音が泡のように舞い、天井へ消えていく。
最後の一音。
弓が静かに離れる。完全な静寂が落ちた。
誰も拍手できない。余韻が深すぎて、動けない。
やがて――
パチ。
最初の拍手はアメスティだった。
「……ずるい」
その一言で会場が一斉に沸く。
嵐のような拍手。
スクリーンが点灯した。
【98.8】
会場がどよめく。
大会初の九十点台。暫定一位。
アメスティが拳を振り上げた。
「出たぁぁ!」
メロディアは小さく呟く。
「……修正が必要ね」
ルヴィアは微笑んだまま言う。
「やっぱり、壊れそう」
そしてトラステ。
翡翠の瞳がゆっくり細くなり、口元がわずかに歪む。
「なるほど」
彼は静かに立ち上がった。
「ようやく見つけた」
演算を越える音。
完成を揺らす存在。
「君が、更新対象だ」
舞台中央でベータはチェロを下ろす。
そして小さく呟いた。
「……まだ足りない」
蒼、赤、緑、水色。
四つの旋律が、コンコルディアで交差する。
音律祭はまだ――
第一楽章に過ぎなかった。