「……動けない」
心底だるそうに呟く。
テーブルの向こうでコップを片付けていた夏紀が、すぐに返した。
「食べすぎ」
床では弦音がごろりと転がっている。
「満腹最高……」
佳世は座布団の上で両手をお腹に当て、満足そうな顔をしていた。
『おいしかったです』
その様子をしばらく見ていた晴馿が、静かに腕を組む。
「運動するか」
一瞬、居間の空気が止まった。
弦音がゆっくり顔を上げる。
「……今?」
「食後は軽く動いた方がいい」
落ち着いた声で言う。
理屈としては正しい。
だが、今この空間にいる全員の気持ちは一致していた。
動きたくない。
スペルがソファの背に頭を預けたまま言う。
「理屈はわかる」
少し間を置いて、
「でも嫌だ」
弦音がむくりと起き上がった。
「じゃあゲーム!」
夏紀が少し警戒した目を向ける。
「ゲーム?」
「運動ゲーム!」
そして弦音はにやりと笑った。
「負けた人が皿洗い」
その一言で空気が変わった。
スペルがすっと立ち上がる。
「やる」
あまりにも早い決断だった。
夏紀が苦笑する。
「単純すぎる……」
こうして結局、全員で庭に出ることになった。
外は穏やかな春の空気だった。
日差しはやわらかく、風が気持ちいい。
弦音が腕をぶんぶん回しながら言う。
「まず準備運動!」
「速い速い」
夏紀が笑う。
佳世は真剣な顔でそれを真似していた。
『こうですか?』
少しぎこちない動きだ。
晴馿が横から見て首を振る。
「違う」
スペルは軽く屈伸をするだけで終わった。
弦音がそれを見て言う。
「神は省エネ」
「ただのサボり」
夏紀が即座に突っ込む。
準備運動が終わると、弦音が元気よく手を叩いた。
「よし、走る!」
言うが早いか、弦音は庭の端へ向かってダッシュした。
「はやっ」
夏紀も笑いながら走り出す。
佳世も小さな足で一生懸命追いかける。
『まってください!』
その後ろで、スペルはゆっくり歩いていた。
晴馿がちらりと見る。
「走れ」
「本気出したら終わる」
スペルは気のない声で言う。
「いいから」
晴馿に言われ、仕方なくスペルも軽く走り出した。
その瞬間、距離が一気に縮まる。
弦音が振り向いた。
「ちょっ——」
ぽん。
肩に手が置かれる。
「捕まえた」
「はやすぎ!」
弦音が叫ぶ。
「神だからな」
スペルは平然としていた。
今度は弦音が鬼になり、再び走り回る。
「待てー!」
全力で追いかけるが、なかなか捕まらない。
夏紀は軽やかに方向を変え、
晴馿は無駄のない動きで距離を保つ。
佳世は必死だった。
『つかまえます……!』
小さな体で全力疾走する。
だが足がもつれ、前につんのめりそうになった。
その瞬間、腕を掴まれる。
スペルだった。
「危ない」
佳世は少し驚いてから、小さく頭を下げる。
『ありがとうございます』
しばらく走り回ったあと、全員が芝生に座り込んだ。
弦音はそのまま仰向けに倒れる。
「つかれた……」
夏紀は空を見上げて笑う。
「でも気持ちいいね」
佳世はまだ少し元気そうだ。
『たのしいです』
スペルはそれを見て、少しだけ笑った。
すると弦音がむくっと起き上がる。
「最後!」
まだやる気らしい。
「競争!」
晴馿が聞く。
「どこまで」
弦音は庭の門を指さした。
「門まで!」
「短い」
晴馿がぼそっと言う。
全員が並んだ。
弦音が手を上げる。
「よーい」
風が少し吹く。
「どん!」
一斉に走り出した。
弦音は全力。
夏紀は安定した速さ。
佳世は必死に腕を振る。
晴馿は静かに速い。
スペルだけ、少し遅れて動いた。
しかし、あっという間に全員を追い抜く。門に手をついたのは、スペルだった。
「はい勝ち」
弦音が遅れてゴールし、叫ぶ。
「ずる!」
スペルは肩をすくめる。
「神だから」
心底だるそうに呟く。
テーブルの向こうでコップを片付けていた夏紀が、すぐに返した。
「食べすぎ」
床では弦音がごろりと転がっている。
「満腹最高……」
佳世は座布団の上で両手をお腹に当て、満足そうな顔をしていた。
『おいしかったです』
その様子をしばらく見ていた晴馿が、静かに腕を組む。
「運動するか」
一瞬、居間の空気が止まった。
弦音がゆっくり顔を上げる。
「……今?」
「食後は軽く動いた方がいい」
落ち着いた声で言う。
理屈としては正しい。
だが、今この空間にいる全員の気持ちは一致していた。
動きたくない。
スペルがソファの背に頭を預けたまま言う。
「理屈はわかる」
少し間を置いて、
「でも嫌だ」
弦音がむくりと起き上がった。
「じゃあゲーム!」
夏紀が少し警戒した目を向ける。
「ゲーム?」
「運動ゲーム!」
そして弦音はにやりと笑った。
「負けた人が皿洗い」
その一言で空気が変わった。
スペルがすっと立ち上がる。
「やる」
あまりにも早い決断だった。
夏紀が苦笑する。
「単純すぎる……」
こうして結局、全員で庭に出ることになった。
外は穏やかな春の空気だった。
日差しはやわらかく、風が気持ちいい。
弦音が腕をぶんぶん回しながら言う。
「まず準備運動!」
「速い速い」
夏紀が笑う。
佳世は真剣な顔でそれを真似していた。
『こうですか?』
少しぎこちない動きだ。
晴馿が横から見て首を振る。
「違う」
スペルは軽く屈伸をするだけで終わった。
弦音がそれを見て言う。
「神は省エネ」
「ただのサボり」
夏紀が即座に突っ込む。
準備運動が終わると、弦音が元気よく手を叩いた。
「よし、走る!」
言うが早いか、弦音は庭の端へ向かってダッシュした。
「はやっ」
夏紀も笑いながら走り出す。
佳世も小さな足で一生懸命追いかける。
『まってください!』
その後ろで、スペルはゆっくり歩いていた。
晴馿がちらりと見る。
「走れ」
「本気出したら終わる」
スペルは気のない声で言う。
「いいから」
晴馿に言われ、仕方なくスペルも軽く走り出した。
その瞬間、距離が一気に縮まる。
弦音が振り向いた。
「ちょっ——」
ぽん。
肩に手が置かれる。
「捕まえた」
「はやすぎ!」
弦音が叫ぶ。
「神だからな」
スペルは平然としていた。
今度は弦音が鬼になり、再び走り回る。
「待てー!」
全力で追いかけるが、なかなか捕まらない。
夏紀は軽やかに方向を変え、
晴馿は無駄のない動きで距離を保つ。
佳世は必死だった。
『つかまえます……!』
小さな体で全力疾走する。
だが足がもつれ、前につんのめりそうになった。
その瞬間、腕を掴まれる。
スペルだった。
「危ない」
佳世は少し驚いてから、小さく頭を下げる。
『ありがとうございます』
しばらく走り回ったあと、全員が芝生に座り込んだ。
弦音はそのまま仰向けに倒れる。
「つかれた……」
夏紀は空を見上げて笑う。
「でも気持ちいいね」
佳世はまだ少し元気そうだ。
『たのしいです』
スペルはそれを見て、少しだけ笑った。
すると弦音がむくっと起き上がる。
「最後!」
まだやる気らしい。
「競争!」
晴馿が聞く。
「どこまで」
弦音は庭の門を指さした。
「門まで!」
「短い」
晴馿がぼそっと言う。
全員が並んだ。
弦音が手を上げる。
「よーい」
風が少し吹く。
「どん!」
一斉に走り出した。
弦音は全力。
夏紀は安定した速さ。
佳世は必死に腕を振る。
晴馿は静かに速い。
スペルだけ、少し遅れて動いた。
しかし、あっという間に全員を追い抜く。門に手をついたのは、スペルだった。
「はい勝ち」
弦音が遅れてゴールし、叫ぶ。
「ずる!」
スペルは肩をすくめる。
「神だから」
- 1.「人生」
- 2.「奇跡の星」
- 3.「夏紀」
- 4.「とある隣人は」
- 5.「立場」
- 6.徒花の行方
- 7.「幼女は」
- 8.「笑顔」
- 9.「軸柊奏」
- 10.徒花の行方
- 11.「居場所」
- 12.「弦の音」
- 13.「答え」
- 14.「日常編」
- 15.「悩むものか」
- 16.「歪み」
- 17.「信頼」
- 18.「余命」
- 19.「時歌」
- 20.「日常編」
- 21.「神として」
- 22.「忘却列車」
- 23.「微熱」
- 24.「クリスマス」
- 25.「プレゼント」
- 26.「鳴っている」
- 27.「バレンタイン」
- 28.「日常」
- 29.「誰」
- 30.「戦場」
- 31.「アレス」
- 32.「日常編」
- 33.「破会議壊」
- 34.「徒花の行方」
- 35.「戦の予兆」
- 36.「日常編」