文字サイズ変更

ー人生ー

#35

「戦の予兆」

円卓を囲む神々の気配は、先ほどまでの緊張とは違い、少しずつ落ち着きを取り戻していた。
ゼウスが腕を組む。
「では結論は同じだ」
低く、しかし確かな声。
「人の戦に神は干渉しない」
ガイアがゆっくり頷く。
「大地はまだ崩れていない。恐れはあるけれど、希望もある」
シヴァは椅子の背にもたれながら、軽く笑った。
「珍しく意見が揃った...草なんだが!!(?)」
円卓の空気が少し緩む。
長い議論の末、神々はひとつの答えにたどり着いていた。
——人間に任せる。
その時だった。
カチ。
屋根裏の古い時計が、妙に大きく鳴った。
カチ、カチ……。
ゼウスの眉がわずかに動く。
「……?」
ガイアが床に触れたまま、顔を上げる。
「待って」
空気が変わった。大地を通して伝わる振動が、突然強くなる。
「これは……」
シヴァがゆっくり体を起こした。
「いやいやいやいやいやぁぁぁ」
次の瞬間。
バキッ。
屋根裏の空間が、まるでガラスのように裂けた。
赤黒い亀裂。そこから、重い足音が響く。
ドン。
ドン。
現れたのは、巨大な鎧の神。
血の色を思わせるマントがゆっくり揺れている。戦の匂いが空間に広がった。
ゼウスが低く言う。
「……アレス」
戦争の神は、ゆっくりと円卓を見渡した。
「随分静かな会議だな」
声は落ち着いている。
だが、その背後には無数の戦場の幻影が揺れていた。
燃える街、折れた槍、倒れる兵。
ガイアが冷たく言う。
「ここはあなたの来る場所じゃない」
アレスはわずかに笑う。
「そうか?」
円卓に一歩近づく。
その一歩だけで、床が震えた。
「戦の匂いがした」
シヴァが腕を組む。
「まだ始まってない」
「始まる」
アレスの答えは迷いがない。
ゼウスの声が鋭くなる。
「我らは干渉しないと決めた」
「知っている」
アレスは軽く肩をすくめた。
「だから来た」
神々の間に、短い沈黙が落ちる。アレスは円卓の中央を指でなぞる。
すると、そこに幻影が浮かんだ。
都市、軍隊、怒りに満ちた人の群れ。
「見ろ」
声が低く響く。
「火はもう灯っている」
ガイアが目を細める。
「まだ消せる」
「そうか?」
アレスの視線が鋭くなる。
「人が自分で消すならな」
シヴァが小さく笑う。

「戦を始める...脳筋すぎるだろ」
アレスは少しだけ考えるように黙り、そして言った。
「ならば」
背後の戦場の幻影が膨れ上がる。
「合図だけはしておく」
ゼウスが睨む。
「何をするつもりだ」
アレスは振り返らない。ただ、言葉だけを落とした。
「戦は突然始まらない」
亀裂の中へ戻りながら、最後の声が響く。
「必ず“前触れ”がある」
バキン。
空間が閉じる。時計の音だけが戻る。
カチ。カチ。
ガイアが静かに呟く。
「……始まる」
ゼウスは窓のない空間を見つめる。
「いや」
短く言った。
「まだ始まっていない」
シヴァが肩をすくめる。
「戦争なんてやめようぜ」
遠く地上では、まだ誰もその音に気づいていない。
だが確かに、
戦の前触れは世界に落とされたのだった。

作者メッセージ

感想コメントお願いします!

2026/03/10 22:25

徒花
ID:≫ 5.NCXqW.yLBqg
コメント

この小説につけられたタグ

創作長期ファンタジー天文

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権は徒花さんに帰属します

TOP