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ー人生ー

#30

「戦場」

屋根裏の空気が、重く沈んだ。
弦音の弦が、触れていないのに震える。
——ギィン。
空間が裂け、そこから現れた存在は、人の形をしているのに、男でも女でもなかった。輪郭は曖昧で、声は低くも高くもない。金属と息が混じったような響き。
「名を呼べ」
「……アレス」
その瞬間、床板がひび割れる。
「我は戦争。暴力。戦闘の意志そのもの」
背後に無数の影が揺らぐ。剣、銃、炎、瓦礫。誰かが正義を掲げ、誰かが恐怖に震え、誰かが引き金を引く瞬間。
「感情を肯定したな、スペル」
「した」
「ならば衝突は不可避だ」
空間が反転する。屋根裏は戦場に変わる。焦土の匂い、爆ぜる音、遠くの叫び。アレスが腕を振るだけで、空が裂ける。
スペルは観測領域を展開し、時間を歪める。斬撃を逸らすが、逸れた衝撃が地平を崩す幻影を生む。
「守るとは、奪うことだ」
拳が迫る。受け止める。骨が軋む感覚が走る。
「それでも守る」
「ならば戦え」
黒い刃が顕現する。スペルはそれを見つめ、やがて自らの武器を消す。
「戦わない」
一瞬の静止。
「愚かだ」
【[漢字]戦紅血葬[/漢字][ふりがな]ハイマタフォス[/ふりがな]】
刃が振り下ろされる。光が裂け、痛みが走る。それでもスペルは退かない。
「暴力を消せないことは知ってる」
一歩、前へ。
「でも、選ばないことはできる」
アレスの輪郭が揺らぐ。背後の兵士の影が薄れていく。
「衝突は続く」
「うん」
「戦争は終わらない」
その瞳に写るのは平和を擬態するオリーブの葉だった。
「それでも」
スペルは血ではなく光を流しながら立つ。
「私は戦争の神にならない」
【[漢字]疑星帝戒[/漢字][ふりがな]ノモスバシレウス[/ふりがな]】
水を得た超新星は大地を軽々と蹴飛ばした。
焦土が崩れ、屋根裏が戻る。折れた柱、割れた時計。アレスは最後に告げる。
「人が再び望めば、我は立つ」
「知ってる」
存在は霧のように散った。
弦音が震える指で弦を弾く。
——ン。
かすれた音が、静寂に溶ける。
スペルは息を吐く。
戦争は消えない。暴力も消えない。
         けれど
選ばないという選択は、今ここにある。砕けた時計の針が床に転がる。
時間は進む。
戦場ではなく、今日へ。

作者メッセージ

☺︎

2026/02/23 13:40

徒花
ID:≫ 5.NCXqW.yLBqg
コメント

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創作長期ファンタジー天文

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