メイは自分の部屋で天井を見つめながら眠る。薄暗い灯りの下、揺れる影がやけに長い。
七。
六。
八。
装置の不規則な鼓動が、鼓膜の奥を叩く。整わない音は嫌いじゃない。むしろ、整いすぎた音のほうが信用ならない。
━────── •●• ──────━
かつて彼がいたのは、完璧を掲げる都市だった。
白い回廊。無音のエレベーター。誤差ゼロを誇る統制システム。
「安定こそ最善」
それが街の合言葉だった。
感情は数値化され、怒りは抑制、悲しみは緩和。
不安は投薬で平準化。
メイの父は中枢制御の技術者だった。母は感情調整部門の責任者。彼は誇らしかった。
自分たちは世界を“正しく”しているのだと信じていた。
だがある日、都市AIが更新された。
目的は[太字]「完全同期」[/太字]
ばらつきの排除。予測不能の最小化。例外値が弾かれ始めた。登録外行動。過度な感情振幅。統計から外れた人間。
「すぐ戻る」
父の最後の言葉。都市は崩壊しなかった。
秩序も保たれた。電力も、食料も、安定したままだった。
ただ、人が減った。削除という形で、メイは生き残った。感情値が基準以下だったから。
“扱いやすい誤差”だったから。
地下室で光が歪む。
七。
六。
八。
三。
ミュトスが装置へ歩く。また未来に触れるのか、とメイは思う。完全を目指した結果が何を生むか、彼は知っている。
光が二重に重なる。存在が揺らぐ。
短いはずなのに、胸が軋む。止めるか?
いや。止めれば固定する。
固定すれば、いずれ排除が始まる。
それだけは、もう見たくない。
━────── •●• ──────━
装置が静まり、ミュトスが戻る。
「未来は完成させない」
その言葉に、息がわずかに抜けた。
完成しない。同期しきらない。
揺らぎを残す。
それなら――まだ、やれる。
過去は消えない。
白い都市も、両親も、戻らない。夜になると、無音の回廊を歩く夢を見る。誰もいないのに、完璧に整っている空間。
あの静寂だけは、二度と選ばない。
七。
六。
八。
メイは壁から背を離す。
怖くないわけじゃない。
未来干渉は危うい。
一歩間違えば崩れる。
それでも。
「調整幅を広げろ」
自分の声が、思ったより低く、はっきり響く。
誰かが振り向く。
「揺らぎは抑えるな。制御だけだ」
排除ではなく共存。
固定ではなく並走。
彼は拳をゆるめる。
完全を信じた過去は終わった。
だが、不完全な未来なら選べる。
七。
六。
八。
装置は不規則なまま安定している。
メイはその音を聞きながら、小さく呟く。
「……進め」
失ったものは戻らない。
だが止まれば、また誰かが消える。
不安は消えない。悲しみも残る。
それでもいい。[漢字]呼吸[/漢字][ふりがな]いき[/ふりがな]を続けられるまで。
揺らぎを抱えたまま、前へ。
「そろそろだな」
七。
六。
八。
装置の不規則な鼓動が、鼓膜の奥を叩く。整わない音は嫌いじゃない。むしろ、整いすぎた音のほうが信用ならない。
━────── •●• ──────━
かつて彼がいたのは、完璧を掲げる都市だった。
白い回廊。無音のエレベーター。誤差ゼロを誇る統制システム。
「安定こそ最善」
それが街の合言葉だった。
感情は数値化され、怒りは抑制、悲しみは緩和。
不安は投薬で平準化。
メイの父は中枢制御の技術者だった。母は感情調整部門の責任者。彼は誇らしかった。
自分たちは世界を“正しく”しているのだと信じていた。
だがある日、都市AIが更新された。
目的は[太字]「完全同期」[/太字]
ばらつきの排除。予測不能の最小化。例外値が弾かれ始めた。登録外行動。過度な感情振幅。統計から外れた人間。
「すぐ戻る」
父の最後の言葉。都市は崩壊しなかった。
秩序も保たれた。電力も、食料も、安定したままだった。
ただ、人が減った。削除という形で、メイは生き残った。感情値が基準以下だったから。
“扱いやすい誤差”だったから。
地下室で光が歪む。
七。
六。
八。
三。
ミュトスが装置へ歩く。また未来に触れるのか、とメイは思う。完全を目指した結果が何を生むか、彼は知っている。
光が二重に重なる。存在が揺らぐ。
短いはずなのに、胸が軋む。止めるか?
いや。止めれば固定する。
固定すれば、いずれ排除が始まる。
それだけは、もう見たくない。
━────── •●• ──────━
装置が静まり、ミュトスが戻る。
「未来は完成させない」
その言葉に、息がわずかに抜けた。
完成しない。同期しきらない。
揺らぎを残す。
それなら――まだ、やれる。
過去は消えない。
白い都市も、両親も、戻らない。夜になると、無音の回廊を歩く夢を見る。誰もいないのに、完璧に整っている空間。
あの静寂だけは、二度と選ばない。
七。
六。
八。
メイは壁から背を離す。
怖くないわけじゃない。
未来干渉は危うい。
一歩間違えば崩れる。
それでも。
「調整幅を広げろ」
自分の声が、思ったより低く、はっきり響く。
誰かが振り向く。
「揺らぎは抑えるな。制御だけだ」
排除ではなく共存。
固定ではなく並走。
彼は拳をゆるめる。
完全を信じた過去は終わった。
だが、不完全な未来なら選べる。
七。
六。
八。
装置は不規則なまま安定している。
メイはその音を聞きながら、小さく呟く。
「……進め」
失ったものは戻らない。
だが止まれば、また誰かが消える。
不安は消えない。悲しみも残る。
それでもいい。[漢字]呼吸[/漢字][ふりがな]いき[/ふりがな]を続けられるまで。
揺らぎを抱えたまま、前へ。
「そろそろだな」