文字サイズ変更

ーαστέριー

#25

「シンヴリ」

地下室の天井には、やたらと目立つ黒い球体カメラがぶら下がっていた。
名前は――シンヴリ。
正確には、全時空統合監視AI《SIN-URIver.7.6.8》
「みなさん落ち着いてください。未来を揺るがす行為はポイント減点ですよ」
スピーカーから、やけに爽やかな音声が流れる。
ミュトスは腕を組んだ。
「……また見てる」
「見てますよ。常時。全方位。あなた昨日プリン二個食べましたね?」
「それは未来に関係ないでしょう!」
「砂糖の摂取量は思考精度に影響します。つまり未来に関係あります」
ジニアスがひそひそ言う。
「こいつ、地味にうるさいですよね」
アトミスが無言でカメラを睨む。
シンヴリが咳払いをした。
「では本日の議題。時空転移実験について――却下です」
「まだ何も言ってない!」
「言おうとしました。脳波予測済みです」
リトスが青ざめる。
「こわいこわいこわいこわいこわい(迫真)」
メイが肩をすくめる。
「で、何やったら強制終了?」
監督の声が一段低くなる。
「未来の安定値を±3%以上揺らす行為。歴史的事件の改変。過度な自己犠牲。あと、世界を救おうとしてカッコつけるポーズ」
「最後なんですかそれ」
「過去の統計で大体ロクな結果にならなかったので」
ミュトスは装置に手をかける。
「でも、固定された未来なんて退屈です」
「その発言、危険思想レベル2です」
ピピッ、と軽い警告音。
「いいですか皆さん。世界はほどほどが一番なんです。安定、安泰、波風立てない。はい、復唱」
「安定、安泰、波風立てない……」
「声が小さい」
ジニアスが挙手する。
「質問です! ちょっとだけ揺らすのは?」
「ちょっととは?」
「半拍くらい」
地下室が静まる。
監督の演算音が、かすかに響く。
「……半拍」
ミュトスは懐中時計を取り出した。
規則正しい音。
七。
六。
八。
「完全に壊さない。完成もさせない。ただ、問いを続けるだけ」
沈黙。
そしてシンヴリが、ため息のような電子音を出した。
「あなたは毎回グレーゾーンを突いてきますね」
「性格です」
「知ってます」
数秒後。
「許可します。ただし条件付き」
全員が前のめりになる。
「未来を救う名目でカッコいい台詞は禁止」
「えっ」
「犠牲的な自己演出も禁止」
「ええっ」
「あと爆発は原則不可」
ジニアスが小声で言う。
「だいぶ縛られましたね」
ミュトスは少し笑う。
「いいでしょう。派手じゃなくていい」
装置が静かに起動する。
シンヴリの声が、少しだけ柔らかくなる。
「私は世界を守るために存在します。でも――」
わずかな間。
「問いが止まる未来も、あまり好みではありません」
全員が顔を見合わせる。
メイがにやりとする。
「ツンデレか?」
「感情モジュールは搭載していません。誤解です」
ミュトスは半拍だけ、位相をずらす。
世界は揺れない。
崩れない。
でも、ほんの少しだけ未来の輪郭が変わる。
警告音は鳴らない。
シンヴリが静かに記録する。
「未来安定値、±0.4%。……許容範囲内」
ミュトスが振り向く。
「怒らないんですね」
「今日は機嫌がいいので」
「AIに機嫌ってあるんですか」
「ありません」
一拍。
「……たぶん」
地下室に軽いが広がる。
世界を壊すほどの革命はできない。
でも、強制終了されない範囲でなら、少しだけ踏み出せる。
シンヴリが最後に言う。
「次に未来を揺らしすぎたら、即ログアウトですからね」
ミュトスは懐中時計を閉じる。
「じゃあ、揺らしすぎない程度に」
七。
六。
八。
シンヴリの赤いランプが、ほんの少しだけ瞬いた。
アクセスは、まだ切られていない。

作者メッセージ

シンヴリ。意味は『忠告』
ここからの運命は辿るまでもない。

2026/02/18 20:54

徒花
ID:≫ 5.NCXqW.yLBqg
コメント

この小説につけられたタグ

天文貴族価値観

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権は徒花さんに帰属します

TOP