地下室の装置が、初めて悲鳴のような音を立てた。
七。七。三。二。
その規則が、唐突に崩れる。
七。
七。
――零。
「止まった……?」
リトスの声が凍る。
違う。止まっていない。
“吸われている”。
ミュトスは瞬時に理解する。
未来側からの信号が、こちらの周期を引き込もうとしている。
壁に薄い光の亀裂が走る。
境界が、開きかけている。
「揺らぎが共振したんだ」
ジニアスが叫ぶ。
「二系統が同期しすぎてる!」
未来の塔が視界に重なる。
以前より鮮明だ。
空は暗い。
塔の上部に、黒い環のような歪みが浮かんでいる。
向こうのミュトスが、必死に何かを操作している。
未来のメイがこちらを見た。
口が動く。
――切れ。
アトミスが即座に判断する。
「遮断だ」
「だめ」
ミュトスは首を振る。
「今切れば、向こうが崩れる」
未来側の装置は、こちらの微細な揺らぎを前提に安定している。
片側を断てば、均衡は壊れる。
七。七。零。零。
脈動が歪む。
地下室の床がわずかに浮く。
リトスが叫ぶ。
「位相が反転します!」
未来の黒い環が拡大する。塔の石が剥がれ落ちる。
未来のミュトスがこちらを見る。
その目は、覚悟の色をしている。ミュトスは胸が締めつけられる。理解してしまう。
向こうは、切るつもりだ。
「やめて!」
声は届かない。けれど未来のメイが、ゆっくりと首を振る。
そして二本の指を立てる。
二。
差。
「……差を拡大する」
ミュトスは呟く。
「同期が原因なら、ずらせばいい」
ジニアスがはっとする。
「位相を意図的に崩す?」
「七を、六・九に。三を三・一に」
アトミスが即座に装置に手を伸ばす。
「振り切るぞ」
ミュトスが懐中時計を外し、装置に接続する。
自分の鼓動を基準にする。
規則ではなく、生体。
七。七。三。二。
それを、崩す。
六・九。
七・二。
三・一。
一・八。
不規則。
だが意志のある揺らぎ。地下室が強く震える。
黒い環がさらに拡大――
そして、裂ける。
未来の塔の歪みが、内側から崩壊する。
吸引が止まる。
七。
間。
三。
二。
再構成。
だが今度は、完全な一致ではない。
わずかに、常にずれている。未来の空が静かに晴れていく。
向こうのミュトスが、深く息を吐いた。
未来のメイが、親指を立てる。
映像が急速に薄れる。境界が閉じる。
地下室に重い静寂。装置は動いている。
だがもう、同じ規則ではない。
ミュトスは膝をつく。
鼓動が早い。
「未来は……固定じゃない」
息を整えながら言う。
「でも、融合でもない」
並走でも、完全な同期でもない。
必要なのは、常に残る[太字]“差”[/太字]
ジニアスが記録板を見つめる。
「このずれ、維持できますか」
ミュトスはゆっくり立ち上がる。
「維持しない」
皆が顔を上げる。
「次は、こちらから行く」
地下室に、重い沈黙が落ちる。
未来は崩壊を免れた。だが黒い環は消えていない。
向こうに、まだ歪みは残っている。
今度は救われる側ではなく、踏み込む側。
ミュトスは装置に手を置く。七でも三でもない。
未知の周期へ。
「境界を越える準備をする」
クライマックスは、救済ではない。接触だ。
未来と現在が、初めて同じ場所に立つその瞬間へ。
装置が、低く鳴る。物語は、収束を始めていた。
七。七。三。二。
その規則が、唐突に崩れる。
七。
七。
――零。
「止まった……?」
リトスの声が凍る。
違う。止まっていない。
“吸われている”。
ミュトスは瞬時に理解する。
未来側からの信号が、こちらの周期を引き込もうとしている。
壁に薄い光の亀裂が走る。
境界が、開きかけている。
「揺らぎが共振したんだ」
ジニアスが叫ぶ。
「二系統が同期しすぎてる!」
未来の塔が視界に重なる。
以前より鮮明だ。
空は暗い。
塔の上部に、黒い環のような歪みが浮かんでいる。
向こうのミュトスが、必死に何かを操作している。
未来のメイがこちらを見た。
口が動く。
――切れ。
アトミスが即座に判断する。
「遮断だ」
「だめ」
ミュトスは首を振る。
「今切れば、向こうが崩れる」
未来側の装置は、こちらの微細な揺らぎを前提に安定している。
片側を断てば、均衡は壊れる。
七。七。零。零。
脈動が歪む。
地下室の床がわずかに浮く。
リトスが叫ぶ。
「位相が反転します!」
未来の黒い環が拡大する。塔の石が剥がれ落ちる。
未来のミュトスがこちらを見る。
その目は、覚悟の色をしている。ミュトスは胸が締めつけられる。理解してしまう。
向こうは、切るつもりだ。
「やめて!」
声は届かない。けれど未来のメイが、ゆっくりと首を振る。
そして二本の指を立てる。
二。
差。
「……差を拡大する」
ミュトスは呟く。
「同期が原因なら、ずらせばいい」
ジニアスがはっとする。
「位相を意図的に崩す?」
「七を、六・九に。三を三・一に」
アトミスが即座に装置に手を伸ばす。
「振り切るぞ」
ミュトスが懐中時計を外し、装置に接続する。
自分の鼓動を基準にする。
規則ではなく、生体。
七。七。三。二。
それを、崩す。
六・九。
七・二。
三・一。
一・八。
不規則。
だが意志のある揺らぎ。地下室が強く震える。
黒い環がさらに拡大――
そして、裂ける。
未来の塔の歪みが、内側から崩壊する。
吸引が止まる。
七。
間。
三。
二。
再構成。
だが今度は、完全な一致ではない。
わずかに、常にずれている。未来の空が静かに晴れていく。
向こうのミュトスが、深く息を吐いた。
未来のメイが、親指を立てる。
映像が急速に薄れる。境界が閉じる。
地下室に重い静寂。装置は動いている。
だがもう、同じ規則ではない。
ミュトスは膝をつく。
鼓動が早い。
「未来は……固定じゃない」
息を整えながら言う。
「でも、融合でもない」
並走でも、完全な同期でもない。
必要なのは、常に残る[太字]“差”[/太字]
ジニアスが記録板を見つめる。
「このずれ、維持できますか」
ミュトスはゆっくり立ち上がる。
「維持しない」
皆が顔を上げる。
「次は、こちらから行く」
地下室に、重い沈黙が落ちる。
未来は崩壊を免れた。だが黒い環は消えていない。
向こうに、まだ歪みは残っている。
今度は救われる側ではなく、踏み込む側。
ミュトスは装置に手を置く。七でも三でもない。
未知の周期へ。
「境界を越える準備をする」
クライマックスは、救済ではない。接触だ。
未来と現在が、初めて同じ場所に立つその瞬間へ。
装置が、低く鳴る。物語は、収束を始めていた。