長官たちが帰ったあと、塔の中は妙に静かだった。
「つまり……公認されたってことですよね?」
ジニアスが小声で確認する。
「監督付きでね」
メイが肩をすくめる。
「研究というより、公開処刑に近いけど」
「やめてください縁起でもない……」
リトスが記録板を抱きしめる。
地下では装置が規則正しく唸っている。
一・二秒。こちら。
一秒。向こう。
半拍の差は、きれいに保たれていた。
「結局さ」
ジニアスが装置を見ながら言う。
「これって何なんです? 未来の自分と文通してるってことで合ってます?」
「雑すぎる」
アトミスが即座に切る。
ミュトスは少し考えてから、わかりやすく言った。
「いいえ。文通ではありません」
「じゃあ何です?」
「川です」
全員が固まる。
「川?」
リトスが瞬きをする。
「はい。時間は流れています。私たちは上流。向こうは下流。でも、川をせき止めたり逆流させたりすると氾濫します」
ジニアスがぽんと手を打つ。
「未来の洪水!」
「そう」
ミュトスは頷く。
「向こうの塔が崩れたのは、無理に重なろうとしたからです。上流と下流を無理やり一つにした」
メイが小さく笑う。
「だから今は、堤防を作って“横に並べてる”わけだ」
「並走、ですね」
アトミスが補足する。
そのとき、計器が小さく鳴った。
七。
休止。
七。
三。
「三になりました」
リトスが震える声で言う。
ジニアスが眉をひそめる。
「向こう、人数増えました?」
「多分ね」
メイが即答する。
「軽いな!?」
ミュトスは静かに説明する。
「七は基準。三は追加情報。未来側の観測点が増えています」
「つまり」
ジニアスが指を折る。
「未来の俺たちが“やっぱ研究やめない”って決めた可能性?」
「その可能性が高いです」
一瞬、全員が黙る。
未来の塔。
ひび割れた石壁。
減った人数。
でも今は、増えている。
「未来は固定じゃない」
ミュトスははっきり言う。
「私たちがどう選ぶかで、向こうも変わります」
アトミスが低く問う。
「では核心は何だ?」
ミュトスは装置に手を置いた。
「未来を知ることではありません」
「え?」
リトスが首を傾げる。
「未来を“完成させない”ことです」
ジニアスがぽかんとする。
「完成しちゃダメなんですか?」
「完成すると止まります」
メイが代わりに答える。
「止まった未来は、脆い」
ミュトスは続ける。
「未来の塔は、“これが正解だ”と固定しようとした。でも正解を決めた瞬間、他の可能性が消え、歪みが集中した」
七。
七。
三。
向こうの信号は安定している。
「だから私たちは、完成しません」
ミュトスは微笑む。
「研究も、未来も、途中のまま進み続ける」
ジニアスが腕を組む。
「つまり、“永遠に開発中”ってことですか」
「身も蓋もない言い方をするな」
アトミスがため息をつく。
メイはくつりと笑った。
「でも正しい」
地上では監督官がうろうろし、書類が山積みになっている。
塔は秘密ではなくなった。
けれど地下では、二つの時間が静かに並んでいる。ミュトスは懐中時計を開いた。
規則正しい音。
「未来は答えじゃない」
彼女は静かに言う。
「問いの続きです」
七。
七。
三。
星は沈黙している。
でも今、その沈黙は怖くない。
だって向こう側でも――
きっと同じように、
誰かが頭を抱えているのだから。
「つまり……公認されたってことですよね?」
ジニアスが小声で確認する。
「監督付きでね」
メイが肩をすくめる。
「研究というより、公開処刑に近いけど」
「やめてください縁起でもない……」
リトスが記録板を抱きしめる。
地下では装置が規則正しく唸っている。
一・二秒。こちら。
一秒。向こう。
半拍の差は、きれいに保たれていた。
「結局さ」
ジニアスが装置を見ながら言う。
「これって何なんです? 未来の自分と文通してるってことで合ってます?」
「雑すぎる」
アトミスが即座に切る。
ミュトスは少し考えてから、わかりやすく言った。
「いいえ。文通ではありません」
「じゃあ何です?」
「川です」
全員が固まる。
「川?」
リトスが瞬きをする。
「はい。時間は流れています。私たちは上流。向こうは下流。でも、川をせき止めたり逆流させたりすると氾濫します」
ジニアスがぽんと手を打つ。
「未来の洪水!」
「そう」
ミュトスは頷く。
「向こうの塔が崩れたのは、無理に重なろうとしたからです。上流と下流を無理やり一つにした」
メイが小さく笑う。
「だから今は、堤防を作って“横に並べてる”わけだ」
「並走、ですね」
アトミスが補足する。
そのとき、計器が小さく鳴った。
七。
休止。
七。
三。
「三になりました」
リトスが震える声で言う。
ジニアスが眉をひそめる。
「向こう、人数増えました?」
「多分ね」
メイが即答する。
「軽いな!?」
ミュトスは静かに説明する。
「七は基準。三は追加情報。未来側の観測点が増えています」
「つまり」
ジニアスが指を折る。
「未来の俺たちが“やっぱ研究やめない”って決めた可能性?」
「その可能性が高いです」
一瞬、全員が黙る。
未来の塔。
ひび割れた石壁。
減った人数。
でも今は、増えている。
「未来は固定じゃない」
ミュトスははっきり言う。
「私たちがどう選ぶかで、向こうも変わります」
アトミスが低く問う。
「では核心は何だ?」
ミュトスは装置に手を置いた。
「未来を知ることではありません」
「え?」
リトスが首を傾げる。
「未来を“完成させない”ことです」
ジニアスがぽかんとする。
「完成しちゃダメなんですか?」
「完成すると止まります」
メイが代わりに答える。
「止まった未来は、脆い」
ミュトスは続ける。
「未来の塔は、“これが正解だ”と固定しようとした。でも正解を決めた瞬間、他の可能性が消え、歪みが集中した」
七。
七。
三。
向こうの信号は安定している。
「だから私たちは、完成しません」
ミュトスは微笑む。
「研究も、未来も、途中のまま進み続ける」
ジニアスが腕を組む。
「つまり、“永遠に開発中”ってことですか」
「身も蓋もない言い方をするな」
アトミスがため息をつく。
メイはくつりと笑った。
「でも正しい」
地上では監督官がうろうろし、書類が山積みになっている。
塔は秘密ではなくなった。
けれど地下では、二つの時間が静かに並んでいる。ミュトスは懐中時計を開いた。
規則正しい音。
「未来は答えじゃない」
彼女は静かに言う。
「問いの続きです」
七。
七。
三。
星は沈黙している。
でも今、その沈黙は怖くない。
だって向こう側でも――
きっと同じように、
誰かが頭を抱えているのだから。