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ーαστέριー

#20

「してはいけないこと」

地下室の装置が安定して三日目のことだった。
塔の外が、騒がしくなった。
最初は噂だった。
「夜ごと光を放っている」「塔の周囲で空気が歪む」「星図が書き換わった」
やがて、それは報告になり、通達になり、そして――命令になった。
王都天文院からの公式文書。
境界研究の即時停止。
装置の解体。
観測記録の提出。
アトミスは黙って書状を机に置いた。
ジニアスが顔をしかめる。
「は?今さら?だって最初に消したの、あっちですよね?」
リトスは青ざめている。
「知ってはいけない領域、という規定が……正式に適用されました……」
扉の外では、人々のざわめきが聞こえる。
「危険だ」「星を怒らせる気か」「災厄を呼ぶ」
恐れは伝染する。メイが壁にもたれたまま言った。
「当然だね。未知は嫌われる」
ミュトスは地下室へ降りる。装置は変わらず脈打っている。
一・二秒。
向こうは一秒。
未来は、まだ並走している。
「止めますか?」
リトスの声は小さい。
止めれば、均衡は保たれる。
だが未来の崩壊は、再び進むかもしれない。
アトミスは静かに言う。
「研究は理解されるまで時間がかかる」
「でも今は、理解される前に潰されますよ?」
ジニアスの声は珍しく硬い。
地上では、役人たちが塔へ向かっている。
装置の封印、資料の押収、立ち入り禁止。
ミュトスは懐中時計を握った。
整いすぎた世界は、安全を愛する。
歪みは、許されない。
けれど。
「この研究は、危険ではありません」
彼女はゆっくり言った。
「危険なのは、半端に触れてやめることです」
未来の塔を思い出す。
ひび割れた石壁。減った影。
「私たちは、崩壊を止めました」
メイが目を細める。
「証明できる?」
「できます」
ミュトスは決断する。
「隠しません。公開します」
全員が彼女を見る。
「恐れられるのは、秘密だからです。ならば構造を示す。時間差理論も、安定化の数式も、すべて」
アトミスが低く問う。
「向こうの存在も?」
一瞬の沈黙。
ミュトスは頷く。
「未来は、恐怖ではありません。可能性です」
塔の扉が叩かれる音が響く。
役人の声。
「開けよ! 研究停止命令である!」
ジニアスが苦笑する。
「タイミング最悪ですね」
メイが小さく笑う。
「面白くなってきた」
ミュトスは階段を上る。
地下では装置が脈打ち続けている。
一・二秒。
一秒。
二つの時間は、まだ並んでいる。
扉の前に立ち、彼女は深呼吸した。
恐れは外にある。
だが退屈も、無知も、そこにある。
扉を開ける。
「研究は止めません」
静かな声だったが、揺らぎはない。
「ですが、隠しもしません」
星は沈黙している。
だが今、その沈黙の意味を巡って、地上でも議論が始まろうとしていた。

作者メッセージ

オーマイガーな状況ですね

2026/02/15 13:13

徒花
ID:≫ 5.NCXqW.yLBqg
コメント

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