「向こうは未来だと思います」
円卓を囲んだまま、ミュトスは静かに言った。
アトミスが目を細める。
「根拠は」
「時間同期のズレ。常に半拍遅れていた。けれど、向こうの“私”の目は、知っていた顔をしていた」
ジニアスが身を乗り出す。「未来の自分ってこと?」
「可能性が高いです」
メイが壁にもたれたまま呟く。
「観測で未来を固定した、と」
ミュトスは頷いた。
「私たちが境界を叩いた瞬間、枝分かれした時間の先に“向こう”がある。だから、あちらは一歩先を歩いている」
リトスが震える声で言う。
「で、でも……それなら、あちらは私たちの結果を知っている……?」
⋆⋅⋅⋅⊱∘──────────∘⊰⋅⋅⋅⋆
その夜、七回の周期を再び送った。
今度は一巡だけ。返答は、即座だった。
七回。
休止。
七回。
そして――
一回だけ、強く。
ミュトスは息を呑む。
「違う合図です」
光が揺らぐ。
境界が、薄く開く。
向こうの塔が現れる。
こちらより古び、石壁に亀裂が走っている。空の色も、わずかに暗い。
屋上に立つ四つの影。
その中央――未来のミュトス。
彼女は、こちらより少し大人びていた。
だが、その目には疲労がある。
唇が動く。
音は届かない。だが、意味は読めた。
こちらのミュトスは、首を横に振る。
未来の彼女が、苦く笑う。
その背後で、塔の一部が歪む。
境界が裂け、空間がわずかに欠け落ちる。
「……崩壊している」
アトミスの声が低い。
未来のミュトスが、胸元から懐中時計を取り出す。
それはひび割れていた。
彼女は七回、光らせる。
そして、六回。
減っている。
ジニアスが青ざめる。
「人数が……」
未来の塔の影は、三つしかない。
未来のミュトスが、まっすぐこちらを見る。
――それでも。
唇が、そう形作る。
次の瞬間、境界が大きく揺れる。
未来の空が崩れ、星が線のように流れる。メイが低く言う。
「時間圧が限界だ」
未来のミュトスが、最後に手を伸ばす。その目にあるのは、後悔ではない。
選択の顔だ。
境界が閉じる直前、彼女は微笑んだ。
――知りたいでしょう?
闇が完全に戻る。
夜は何事もなかったように静まる。
塔の屋上で、誰も動かない。
やがてミュトスが、小さく息を吐いた。
「未来は、壊れかけています」
リトスがかすれ声で言う。
「なら……やめるべきでは」
ミュトスは空を見上げた。
「いいえ」
その声は静かで、揺らがない。
「未来が崩れるのは、接続したからではない。中途半端に止めたからです」
アトミスが目を見開く。
「向こうは、怖くなった。でも完全には断てなかった。だから不安定になった」
メイがわずかに笑う。「徹底しろ、と」
ミュトスは頷く。
「未来を救う方法は一つだけ」
夜風が吹く。
「こちらが、先に完成することです」
星は沈黙している。
だがその沈黙の奥に、崩れかけた未来があると知ってしまった。
ならば。
「私たちは、未来より先へ行く」
整いすぎた世界の外へ。
崩れかけた未来の、そのさらに先へ。
物語は、時間を追い越そうとしていた。
円卓を囲んだまま、ミュトスは静かに言った。
アトミスが目を細める。
「根拠は」
「時間同期のズレ。常に半拍遅れていた。けれど、向こうの“私”の目は、知っていた顔をしていた」
ジニアスが身を乗り出す。「未来の自分ってこと?」
「可能性が高いです」
メイが壁にもたれたまま呟く。
「観測で未来を固定した、と」
ミュトスは頷いた。
「私たちが境界を叩いた瞬間、枝分かれした時間の先に“向こう”がある。だから、あちらは一歩先を歩いている」
リトスが震える声で言う。
「で、でも……それなら、あちらは私たちの結果を知っている……?」
⋆⋅⋅⋅⊱∘──────────∘⊰⋅⋅⋅⋆
その夜、七回の周期を再び送った。
今度は一巡だけ。返答は、即座だった。
七回。
休止。
七回。
そして――
一回だけ、強く。
ミュトスは息を呑む。
「違う合図です」
光が揺らぐ。
境界が、薄く開く。
向こうの塔が現れる。
こちらより古び、石壁に亀裂が走っている。空の色も、わずかに暗い。
屋上に立つ四つの影。
その中央――未来のミュトス。
彼女は、こちらより少し大人びていた。
だが、その目には疲労がある。
唇が動く。
音は届かない。だが、意味は読めた。
こちらのミュトスは、首を横に振る。
未来の彼女が、苦く笑う。
その背後で、塔の一部が歪む。
境界が裂け、空間がわずかに欠け落ちる。
「……崩壊している」
アトミスの声が低い。
未来のミュトスが、胸元から懐中時計を取り出す。
それはひび割れていた。
彼女は七回、光らせる。
そして、六回。
減っている。
ジニアスが青ざめる。
「人数が……」
未来の塔の影は、三つしかない。
未来のミュトスが、まっすぐこちらを見る。
――それでも。
唇が、そう形作る。
次の瞬間、境界が大きく揺れる。
未来の空が崩れ、星が線のように流れる。メイが低く言う。
「時間圧が限界だ」
未来のミュトスが、最後に手を伸ばす。その目にあるのは、後悔ではない。
選択の顔だ。
境界が閉じる直前、彼女は微笑んだ。
――知りたいでしょう?
闇が完全に戻る。
夜は何事もなかったように静まる。
塔の屋上で、誰も動かない。
やがてミュトスが、小さく息を吐いた。
「未来は、壊れかけています」
リトスがかすれ声で言う。
「なら……やめるべきでは」
ミュトスは空を見上げた。
「いいえ」
その声は静かで、揺らがない。
「未来が崩れるのは、接続したからではない。中途半端に止めたからです」
アトミスが目を見開く。
「向こうは、怖くなった。でも完全には断てなかった。だから不安定になった」
メイがわずかに笑う。「徹底しろ、と」
ミュトスは頷く。
「未来を救う方法は一つだけ」
夜風が吹く。
「こちらが、先に完成することです」
星は沈黙している。
だがその沈黙の奥に、崩れかけた未来があると知ってしまった。
ならば。
「私たちは、未来より先へ行く」
整いすぎた世界の外へ。
崩れかけた未来の、そのさらに先へ。
物語は、時間を追い越そうとしていた。