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ーαστέριー

#15

「パン」

塔の屋上は相変わらず冷たい風が吹き抜ける。ミュトスが指をかざすと、かすかに向こうの塔の輪郭が揺れた。
「また来た…?」
リトスが手を震わせる。
「うん。でも今回は…ちょっと面倒くさそうな気配がする」
ミュトスは冷静だ。ジニアスは望遠鏡を覗きながら、真剣な顔で言った。
「よーし! 次は僕たちも一歩攻めるぞ。素数に、円周率に…僕の最近覚えたジョークも送ろう!」
「ジョーク? 宇宙に?」
アトミスは眉をひそめる。
「だって、向こうも退屈かもしれないじゃないですか!“どうして宇宙人はパンを食べないの?”とか」
「意味不明だ」
リトスが目を丸くする。
ミュトスは笑みをこらえ、装置の前に立つ。
「やめてください。ジョークは無意味。今回は“時間同期”だけに集中します」
ジニアスは肩をすくめる。
「わかりました…でも、せめてパンだけは食べさせてくれ!」
リトスは机に突っ伏し、涙目で呟く。
「…宇宙相手にパン食べてどうするんですか…」
そのとき、境界がわずかに光った。向こうも準備している。
「…一巡目、七回」ミュトスが指示を出す。
屋上から光が放たれる。
「一、二、三、四、五、六、七…休止…再び七」
向こうも同じリズムで応答。完全同期。
ジニアスは小声で呟く。
「…すごい…でも、まさか光でパンの感想は送れませんよね」
「送らなくていい」アトミスが即答する。
二巡目、わずかにズレる。0.2秒。空間が揺れ、境界がかすかに二重写しになる。
リトスが目を丸くして叫ぶ。
「またズレた!」
ジニアスは笑いながらも計器を握る。
「いや、ズレるのも味がある…なんか恋愛ゲームみたいですね!」
アトミスが冷たい視線を送る。
「宇宙規模の恋愛ゲームって…何だその比喩」
その瞬間、向こう側の塔に光が一度、二度、三度…と瞬く。
「三回?」
リトスが青ざめる。
「出席確認かもしれん」
アトミスが呟く。
ジニアスが目を輝かせる。
「宇宙規模の点呼、面白すぎる!」
リトスが机を叩き、悲鳴を上げる。
「やめてください、ほんとに怖いんですけど!」
ミュトスは冷静に、光を七回送る。
「素数。独立。交渉の宣言」
向こうも七回で応答。
「…なんか、また数字でマウント取ってる…?」
ジニアスが笑う。
「メイさんも入れれば勝てますよ」
アトミスは無表情だが、わずかに口元が緩む。
夜空は再び沈黙した。だが、塔の上には笑いあり、恐怖あり、そして不思議な連帯感が漂っていた。
向こうにも誰かが見ている――ただし、どうやら数学好きでユーモアセンスは未確認だ。
ミュトスは小さく笑みを浮かべる。
「次は、ズレをなくす方法を考えましょう」
ジニアスは小さく呟く。
「…パンは送らなくていいんですね?」
ミュトスは即答した。
「…ええ。食べ物は相互観測の対象外です」
塔の夜はまだ長い。だが、少なくとも今は、怖いけど笑える。宇宙とのゲームの最初の一歩が踏み出されたのだった。

作者メッセージ

宇宙規模の恋愛ゲーム...ちょっとやってみたいかもしれません

2026/02/14 13:34

徒花
ID:≫ 5.NCXqW.yLBqg
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