境界が閉じたあとも、塔の空気は張り詰めたままだった。誰も動けずにいる中、屋上の扉が軋んで開く。
「……ずいぶん騒がしいね」
低く、眠たげな声。現れたのは、黒い外套を羽織った青年だった。無造作な髪、半分閉じたような目、片手には冷めかけた茶のカップ。
「メイさん...?」
リトスが安堵と困惑の入り混じった声を上げる。
「今ごろ起きたんですか!?」
ジニアスが叫ぶ。
「寝てない。目を閉じてただけ」
メイは気だるげに答え、ゆっくり屋上の縁まで歩く。アトミスが短く告げる。
「境界が開いた。向こうも七回、同期した」
「へえ」
興味があるのかないのか分からない相槌。
だが彼の視線は、正確に沈黙の中心を捉えていた。
ミュトスは初めて彼を見る。
「あなたは?」
「観測補助。たまに計算。たまに雑用」
一拍置いて、
「だいたい昼寝」
ジニアスが抗議する。
「一番やばい理論出してるくせに!」
メイは肩をすくめた。
「理論は勝手に転がる。拾うかどうかは君ら次第」
境界座標が、わずかに揺れる。
メイの目が、ほんの少しだけ開いた。
「……ああ、なるほど」
「何がですか?」
リトスが身を乗り出す。
「向こう、まだ開いてる」
三人が凍る。
「閉じたはずでは」
直ぐに確認を取る。
「表面はね。層が一枚薄くなってる」
メイは塔の石壁に指を当てる。
「今、ここ、ちょっと向こう寄り」
空気が微かに重い。
ミュトスは息を整え、尋ねる。
「それは危険ですか?」
「危険って便利な言葉だよね」
メイは空を見上げる。
「触れなきゃ何も起きない。でも触れた時点で“何か”になる」
沈黙。
ジニアスが小声で言う。
「……じゃあどうするんです」
メイはゆっくりミュトスを見る。
眠たげな瞳の奥に、わずかな鋭さ。
「君が決めるといい」
「私が?」
「昨日、境界を動かしたのは君だ」
風が吹く、星は静かだ。
ミュトスは闇を見つめる。
確かに向こうはいる。
そして、こちらも見ている。
「……触れます」
アトミスが息を呑む。
リトスが固まり、
ジニアスが目を輝かせる。
メイは小さく笑った。
「そうこなくちゃ」
境界が、かすかに波打つ。
夜はまだ、終わらない。
「……ずいぶん騒がしいね」
低く、眠たげな声。現れたのは、黒い外套を羽織った青年だった。無造作な髪、半分閉じたような目、片手には冷めかけた茶のカップ。
「メイさん...?」
リトスが安堵と困惑の入り混じった声を上げる。
「今ごろ起きたんですか!?」
ジニアスが叫ぶ。
「寝てない。目を閉じてただけ」
メイは気だるげに答え、ゆっくり屋上の縁まで歩く。アトミスが短く告げる。
「境界が開いた。向こうも七回、同期した」
「へえ」
興味があるのかないのか分からない相槌。
だが彼の視線は、正確に沈黙の中心を捉えていた。
ミュトスは初めて彼を見る。
「あなたは?」
「観測補助。たまに計算。たまに雑用」
一拍置いて、
「だいたい昼寝」
ジニアスが抗議する。
「一番やばい理論出してるくせに!」
メイは肩をすくめた。
「理論は勝手に転がる。拾うかどうかは君ら次第」
境界座標が、わずかに揺れる。
メイの目が、ほんの少しだけ開いた。
「……ああ、なるほど」
「何がですか?」
リトスが身を乗り出す。
「向こう、まだ開いてる」
三人が凍る。
「閉じたはずでは」
直ぐに確認を取る。
「表面はね。層が一枚薄くなってる」
メイは塔の石壁に指を当てる。
「今、ここ、ちょっと向こう寄り」
空気が微かに重い。
ミュトスは息を整え、尋ねる。
「それは危険ですか?」
「危険って便利な言葉だよね」
メイは空を見上げる。
「触れなきゃ何も起きない。でも触れた時点で“何か”になる」
沈黙。
ジニアスが小声で言う。
「……じゃあどうするんです」
メイはゆっくりミュトスを見る。
眠たげな瞳の奥に、わずかな鋭さ。
「君が決めるといい」
「私が?」
「昨日、境界を動かしたのは君だ」
風が吹く、星は静かだ。
ミュトスは闇を見つめる。
確かに向こうはいる。
そして、こちらも見ている。
「……触れます」
アトミスが息を呑む。
リトスが固まり、
ジニアスが目を輝かせる。
メイは小さく笑った。
「そうこなくちゃ」
境界が、かすかに波打つ。
夜はまだ、終わらない。