六回の点滅。
塔の屋上は凍りついていた。
「……増えてる」
ジニアスが震える声で言う。
「落ち着いてください……これはブラフかもしれません……」
リトスは落ち着いていない。
アトミスは腕を組んだまま、空を睨む。
「こちらが五回。向こうが六回。つまり“我々より多い”と示している可能性が高い」
「マウント取りにきてますよこれ」
ジニアスが真顔で言う。
そのとき。
屋上の扉が静かに開いた。
「状況は?」
ミュトスだった。
三人が一斉に振り向く。
「ちょうど今、宇宙と人数交渉してました」
ジニアス。
「意味が分かりません」
ミュトスは冷静だった。
アトミスが簡潔に説明する。
五回送信。
六回返信。
彼女は数秒だけ夜空を見上げる。
そして、静かに言った。
「なるほど。対称性を崩してきましたね」
「対称性?」
リトスが瞬く。
「昨日までは“理解可能な数学”で応答していました。今日は“優位性の誇示”です」
ジニアスが手を叩く。
「やっぱりマウント!」
「感情というより、ゲーム理論的な揺さぶりです」
ミュトスは装置の前に立つ。
「送ります」
「いくつだ?」
アトミス。
ミュトスは一瞬考えた。
「七」
三人が固まる。
「増やすんですか!?」
リトス。
「数の競争は不毛です」
ミュトスは首を振る。
「七は素数。意味は“独立”」
ジニアスがにやりと笑う。
「かっこいい」
反射装置が光る。
一、二、三、四、五、六、七。
沈黙。
風だけが屋上を撫でる。
そして――
向こうの闇が光る。
一回。
間。
二回。
間。
三回。
……止まる。
三人が固まる。
「三?」
リトスが問う。さらに、ゆっくりと三回。
合計六。
だが、リズムが違う。
「……分割」
アトミスが低く言う。
ミュトスは目を細める。
「六を、三と三に分けた」
ジニアスがぽつりと呟く。
「“二つのグループ”?」
次の瞬間。
闇の中心が、これまでよりはっきりと形を持つ。
円環のような構造。
その内側に――
塔と酷似した構造体。
「……鏡像」
リトスの声がかすれる。
ミュトスの呼吸がわずかに止まる。
向こうにも塔がある。
向こうにも観測者がいる。
そして――
向こうも今、光を送っている。
その瞬間。
塔の内部で、懐中時計が激しく鳴り始めた。
カチ、カチ、カチカチカチカチ――
「時計が!」
ジニアス。
ミュトスははっとする。
「時間……」
アトミスが理解する。
「観測は空間だけではない」
闇が、ゆっくりと“揺れる”。境界が、薄くなる。塔の空気がわずかに歪む。そして。
望遠鏡のレンズの奥に――一瞬だけ。
“目”が見えた。
人間でも、怪物でもない。ただ、観測している視線。完全な対称。
ミュトスは、逸らさなかった。
恐怖はあった。だが、同時に理解があった。
これは侵略ではない。
これは――
[太字]「接続だ」[/太字]
光が同時に弾ける。
塔の屋上と、向こう側の塔。
双方から七回の点滅。
完全同期。
その瞬間、境界が一瞬だけ消えた。
互いの星空が、重なる。
二つの宇宙が、ほんの刹那、交差する。
そして――
すべてが元に戻った。
静寂。
誰も動かない。
やがてジニアスが震える声で言った。
「……今の、録画できてます?」
リトスが涙目で頷く。
「た、多分……」
アトミスは深く息を吐いた。
「……交渉は成立した」
ミュトスは夜空を見上げたまま、静かに言う。
「いいえ」
三人が見る。
「始まったんです」
塔の屋上は凍りついていた。
「……増えてる」
ジニアスが震える声で言う。
「落ち着いてください……これはブラフかもしれません……」
リトスは落ち着いていない。
アトミスは腕を組んだまま、空を睨む。
「こちらが五回。向こうが六回。つまり“我々より多い”と示している可能性が高い」
「マウント取りにきてますよこれ」
ジニアスが真顔で言う。
そのとき。
屋上の扉が静かに開いた。
「状況は?」
ミュトスだった。
三人が一斉に振り向く。
「ちょうど今、宇宙と人数交渉してました」
ジニアス。
「意味が分かりません」
ミュトスは冷静だった。
アトミスが簡潔に説明する。
五回送信。
六回返信。
彼女は数秒だけ夜空を見上げる。
そして、静かに言った。
「なるほど。対称性を崩してきましたね」
「対称性?」
リトスが瞬く。
「昨日までは“理解可能な数学”で応答していました。今日は“優位性の誇示”です」
ジニアスが手を叩く。
「やっぱりマウント!」
「感情というより、ゲーム理論的な揺さぶりです」
ミュトスは装置の前に立つ。
「送ります」
「いくつだ?」
アトミス。
ミュトスは一瞬考えた。
「七」
三人が固まる。
「増やすんですか!?」
リトス。
「数の競争は不毛です」
ミュトスは首を振る。
「七は素数。意味は“独立”」
ジニアスがにやりと笑う。
「かっこいい」
反射装置が光る。
一、二、三、四、五、六、七。
沈黙。
風だけが屋上を撫でる。
そして――
向こうの闇が光る。
一回。
間。
二回。
間。
三回。
……止まる。
三人が固まる。
「三?」
リトスが問う。さらに、ゆっくりと三回。
合計六。
だが、リズムが違う。
「……分割」
アトミスが低く言う。
ミュトスは目を細める。
「六を、三と三に分けた」
ジニアスがぽつりと呟く。
「“二つのグループ”?」
次の瞬間。
闇の中心が、これまでよりはっきりと形を持つ。
円環のような構造。
その内側に――
塔と酷似した構造体。
「……鏡像」
リトスの声がかすれる。
ミュトスの呼吸がわずかに止まる。
向こうにも塔がある。
向こうにも観測者がいる。
そして――
向こうも今、光を送っている。
その瞬間。
塔の内部で、懐中時計が激しく鳴り始めた。
カチ、カチ、カチカチカチカチ――
「時計が!」
ジニアス。
ミュトスははっとする。
「時間……」
アトミスが理解する。
「観測は空間だけではない」
闇が、ゆっくりと“揺れる”。境界が、薄くなる。塔の空気がわずかに歪む。そして。
望遠鏡のレンズの奥に――一瞬だけ。
“目”が見えた。
人間でも、怪物でもない。ただ、観測している視線。完全な対称。
ミュトスは、逸らさなかった。
恐怖はあった。だが、同時に理解があった。
これは侵略ではない。
これは――
[太字]「接続だ」[/太字]
光が同時に弾ける。
塔の屋上と、向こう側の塔。
双方から七回の点滅。
完全同期。
その瞬間、境界が一瞬だけ消えた。
互いの星空が、重なる。
二つの宇宙が、ほんの刹那、交差する。
そして――
すべてが元に戻った。
静寂。
誰も動かない。
やがてジニアスが震える声で言った。
「……今の、録画できてます?」
リトスが涙目で頷く。
「た、多分……」
アトミスは深く息を吐いた。
「……交渉は成立した」
ミュトスは夜空を見上げたまま、静かに言う。
「いいえ」
三人が見る。
「始まったんです」