その日の夕刻。三人は真面目な顔で円卓を囲んでいた。
……五分前までは。
「で、結局のところ」
ジニアスが真剣な顔で切り出す。
「向こうにいるのって、宇宙人なんですか?」
リトスがびくっと肩を震わせた。
「い、いきなり核心を……!」
アトミスは静かに腕を組む。
「まず定義からだ。“宇宙人”とは何を指す?」
「え、緑色で目が大きくて、ちょっとぬめっとしてる感じの……」
「それは君の偏見だ」
「夢があるじゃないですか」
「不要な夢だ」
リトスが恐る恐る手を挙げる。
「で、でも……もし本当に生物なら、身体を持っているはずで……その……酸素とか……重力とか……」
「向こうが我々と同じ物理法則とは限らん」
アトミスの一言で、リトスはさらに青くなる。
ジニアスが顎に手を当てた。
「じゃあ何です? エネルギー生命体?」
「可能性の一つだ」
「じゃあ食事いらないんですかね」
「そこ気にするのか?」
「交流するなら重要ですよ? 歓迎会とか」
「歓迎会を前提にするな」
リトスが小さく呟く。
「で、でも……素数を返してきたということは、少なくとも数学を理解している知性……ですよね」
その言葉で、空気が少しだけ引き締まる。
アトミスが頷く。
「知性である可能性は高い。だが“生物”とは限らん」
「え?」
「高度な自動観測装置かもしれん」
ジニアスが目を丸くする。
「え、つまり……宇宙の向こう側の監視カメラ?」
「比喩としては近い」
「やばい、めちゃくちゃ見られてるじゃないですか」
「昨日から言っているだろう」
リトスが机に突っ伏した。
「ど、どうしましょう……相手が本体でなく端末だったら……本体が来たら……」
「落ち着け」
アトミスは淡々としている。
「仮に知的生命体だとしてもだ」
「はい」
「こちらを即座に侵略しない程度には理性的だ」
ジニアスが指を立てる。
「つまり三択ですね」
「三択?」
「①宇宙人
②超高度AI
③宇宙そのものが意思を持ってる」
リトスが顔を上げる。
「さ、最後急に規模が……!」
アトミスは少し考え、低く言った。
「④我々の観測が生んだ“何か”」
二人が固まる。
「え?」
「観測によって境界が動いた。ならば、向こうは元から存在していたのではなく――」
ジニアスがゆっくり言う。
「俺たちがピンポン押しちゃった的な?」
「……近い」
室内が静まり返る。
リトスが震える声で。
「じゃ、じゃあ……宇宙人というより……ご近所トラブル……?」
ジニアスが吹き出した。
「“すみませーん、夜中に光らせないでもらえます?”って?」
アトミスは額を押さえた。
「頼むから宇宙規模の苦情にするな」
そのとき。
カチ、と計器が鳴る。
三人が凍りつく。
境界、微弱発光。
一回。
間。
もう一回。
そして――
もう一回。
三回。
「……また三回」
ジニアスが小声で言う。
沈黙。
リトスがごくりと唾を飲む。
「や、やっぱり出席確認……?」
アトミスはゆっくり息を吐いた。
「……返すぞ」
「四回ですね?」
「いや」
二人が見る。
アトミスはわずかに口元を上げた。
「五回だ」
「えっ!?」
「ミュトスを入れて四人。そして――」
彼は小さく空を指した。
「向こうも一つとは限らん」
ジニアスがにやりと笑う。
「交渉上、人数は多く見せろってやつですね」
「そういうことにしておこう」
反射装置が点滅する。
一、二、三、四、五。
塔の屋上から、光が放たれる。
数秒の静寂。
そして――
向こうの闇が、ゆっくりと。
六回、瞬いた。
三人、完全に固まる。
ジニアスが震える声で言う。
「……増えてません?」
リトスが半泣きになる。
「む、向こうも人数盛ってきました……!」
アトミスは深く息を吸い、そして静かに言った。
「どうやら――」
わずかな沈黙。
「交渉は、長くなりそうだな」
宇宙人かどうかは、まだ分からない。だが少なくとも。向こうも、こちらと同じくらい、
ちょっと面倒くさそうだった。
……五分前までは。
「で、結局のところ」
ジニアスが真剣な顔で切り出す。
「向こうにいるのって、宇宙人なんですか?」
リトスがびくっと肩を震わせた。
「い、いきなり核心を……!」
アトミスは静かに腕を組む。
「まず定義からだ。“宇宙人”とは何を指す?」
「え、緑色で目が大きくて、ちょっとぬめっとしてる感じの……」
「それは君の偏見だ」
「夢があるじゃないですか」
「不要な夢だ」
リトスが恐る恐る手を挙げる。
「で、でも……もし本当に生物なら、身体を持っているはずで……その……酸素とか……重力とか……」
「向こうが我々と同じ物理法則とは限らん」
アトミスの一言で、リトスはさらに青くなる。
ジニアスが顎に手を当てた。
「じゃあ何です? エネルギー生命体?」
「可能性の一つだ」
「じゃあ食事いらないんですかね」
「そこ気にするのか?」
「交流するなら重要ですよ? 歓迎会とか」
「歓迎会を前提にするな」
リトスが小さく呟く。
「で、でも……素数を返してきたということは、少なくとも数学を理解している知性……ですよね」
その言葉で、空気が少しだけ引き締まる。
アトミスが頷く。
「知性である可能性は高い。だが“生物”とは限らん」
「え?」
「高度な自動観測装置かもしれん」
ジニアスが目を丸くする。
「え、つまり……宇宙の向こう側の監視カメラ?」
「比喩としては近い」
「やばい、めちゃくちゃ見られてるじゃないですか」
「昨日から言っているだろう」
リトスが机に突っ伏した。
「ど、どうしましょう……相手が本体でなく端末だったら……本体が来たら……」
「落ち着け」
アトミスは淡々としている。
「仮に知的生命体だとしてもだ」
「はい」
「こちらを即座に侵略しない程度には理性的だ」
ジニアスが指を立てる。
「つまり三択ですね」
「三択?」
「①宇宙人
②超高度AI
③宇宙そのものが意思を持ってる」
リトスが顔を上げる。
「さ、最後急に規模が……!」
アトミスは少し考え、低く言った。
「④我々の観測が生んだ“何か”」
二人が固まる。
「え?」
「観測によって境界が動いた。ならば、向こうは元から存在していたのではなく――」
ジニアスがゆっくり言う。
「俺たちがピンポン押しちゃった的な?」
「……近い」
室内が静まり返る。
リトスが震える声で。
「じゃ、じゃあ……宇宙人というより……ご近所トラブル……?」
ジニアスが吹き出した。
「“すみませーん、夜中に光らせないでもらえます?”って?」
アトミスは額を押さえた。
「頼むから宇宙規模の苦情にするな」
そのとき。
カチ、と計器が鳴る。
三人が凍りつく。
境界、微弱発光。
一回。
間。
もう一回。
そして――
もう一回。
三回。
「……また三回」
ジニアスが小声で言う。
沈黙。
リトスがごくりと唾を飲む。
「や、やっぱり出席確認……?」
アトミスはゆっくり息を吐いた。
「……返すぞ」
「四回ですね?」
「いや」
二人が見る。
アトミスはわずかに口元を上げた。
「五回だ」
「えっ!?」
「ミュトスを入れて四人。そして――」
彼は小さく空を指した。
「向こうも一つとは限らん」
ジニアスがにやりと笑う。
「交渉上、人数は多く見せろってやつですね」
「そういうことにしておこう」
反射装置が点滅する。
一、二、三、四、五。
塔の屋上から、光が放たれる。
数秒の静寂。
そして――
向こうの闇が、ゆっくりと。
六回、瞬いた。
三人、完全に固まる。
ジニアスが震える声で言う。
「……増えてません?」
リトスが半泣きになる。
「む、向こうも人数盛ってきました……!」
アトミスは深く息を吸い、そして静かに言った。
「どうやら――」
わずかな沈黙。
「交渉は、長くなりそうだな」
宇宙人かどうかは、まだ分からない。だが少なくとも。向こうも、こちらと同じくらい、
ちょっと面倒くさそうだった。