アトミスは室内の灯りを少し落とし、天井近くの小窓を開けた。夜気が流れ込み、蝋燭の炎がわずかに揺れる。
「我々が見ているのは、“星”そのものではない」
その言葉に、ミュトスは瞬きをした。
「星……では、ないのですか?」
「正確には、星が沈黙する瞬間だ」
アトミスはゆっくりと望遠鏡の一つに手を置く。
「星は常に語っている。光、周期、揺らぎ……だが、ある地点を境に、それらが不自然に途絶える」
リトスが資料を差し出す。そこには、いくつもの星図が描かれていた。どれも、ある範囲だけが空白になっている。
「ここから先は、観測不能……ではなく、観測してはならないとされています」
彼女の声は小さいが、震えてはいなかった。
ミュトスは星図に顔を近づける。
「消されている、のですね」
「そう」
ジニアスがすぐさま頷く。
「最初から無かったことにされてる。でもさ、変なんですよ。軌道計算をすると、あるはずの質量がどうしても残る」
ミュトスの胸が、静かに高鳴った。
「そこには、何があるんですか?」
部屋が一瞬、静まり返る。
アトミスはミュトスをまっすぐ見つめた。
「それを知るために、君を呼んだ」
「……私を?」
「君は“整いすぎた世界”で育った」
父が、初めて口を挟む。
「だからこそ、歪みに気づける」
母は何も言わず、ただ娘を見守っていた。
アトミスは続ける。
「星の沈黙は、観測者によって意味を変える。恐怖を抱く者には、恐怖として現れる。だが――」
彼は一拍置いた。
「[太字]問いを楽しむ者[/太字]には、答えへと近づく道になる」
ミュトスは、望遠鏡へと歩み寄った。
冷たい金属に触れた瞬間、不思議と懐かしさを覚える。
「覗いても、いいですか?」
「もちろんだ」
ジニアスが嬉しそうに位置を調整する。
「今夜は条件がいい。沈黙が、よく見える」
ミュトスはゆっくりと目を当てた。
――最初は、いつもの星空だった。
だが次の瞬間、視界の奥で、何かが欠けていることに気づく。
光があるはずの場所に、深く、澄んだ闇。
闇なのに、拒絶ではない。
むしろ――待っている。
「……呼ばれている、みたい」
無意識の呟きに、研究者たちが息を呑む。
アトミスは、確信に満ちた声で言った。
「やはりだ。君には、聞こえる」
ミュトスは目を離し、胸に手を当てた。
鼓動は早い。それなのに、怖くない。
「ここから先が、あるんですね」
微笑みながら、彼女は言う。
「まだ、誰も知らない“続き”が」
星は沈黙していた。
「我々が見ているのは、“星”そのものではない」
その言葉に、ミュトスは瞬きをした。
「星……では、ないのですか?」
「正確には、星が沈黙する瞬間だ」
アトミスはゆっくりと望遠鏡の一つに手を置く。
「星は常に語っている。光、周期、揺らぎ……だが、ある地点を境に、それらが不自然に途絶える」
リトスが資料を差し出す。そこには、いくつもの星図が描かれていた。どれも、ある範囲だけが空白になっている。
「ここから先は、観測不能……ではなく、観測してはならないとされています」
彼女の声は小さいが、震えてはいなかった。
ミュトスは星図に顔を近づける。
「消されている、のですね」
「そう」
ジニアスがすぐさま頷く。
「最初から無かったことにされてる。でもさ、変なんですよ。軌道計算をすると、あるはずの質量がどうしても残る」
ミュトスの胸が、静かに高鳴った。
「そこには、何があるんですか?」
部屋が一瞬、静まり返る。
アトミスはミュトスをまっすぐ見つめた。
「それを知るために、君を呼んだ」
「……私を?」
「君は“整いすぎた世界”で育った」
父が、初めて口を挟む。
「だからこそ、歪みに気づける」
母は何も言わず、ただ娘を見守っていた。
アトミスは続ける。
「星の沈黙は、観測者によって意味を変える。恐怖を抱く者には、恐怖として現れる。だが――」
彼は一拍置いた。
「[太字]問いを楽しむ者[/太字]には、答えへと近づく道になる」
ミュトスは、望遠鏡へと歩み寄った。
冷たい金属に触れた瞬間、不思議と懐かしさを覚える。
「覗いても、いいですか?」
「もちろんだ」
ジニアスが嬉しそうに位置を調整する。
「今夜は条件がいい。沈黙が、よく見える」
ミュトスはゆっくりと目を当てた。
――最初は、いつもの星空だった。
だが次の瞬間、視界の奥で、何かが欠けていることに気づく。
光があるはずの場所に、深く、澄んだ闇。
闇なのに、拒絶ではない。
むしろ――待っている。
「……呼ばれている、みたい」
無意識の呟きに、研究者たちが息を呑む。
アトミスは、確信に満ちた声で言った。
「やはりだ。君には、聞こえる」
ミュトスは目を離し、胸に手を当てた。
鼓動は早い。それなのに、怖くない。
「ここから先が、あるんですね」
微笑みながら、彼女は言う。
「まだ、誰も知らない“続き”が」
星は沈黙していた。