軸柊奏に、季節外れの冷気が入り込んだのは、朝だった。窓の外に広がる白い息と、曇った空。カレンダーの端に、赤い文字で書かれた日付がある。
「……クリスマス、か」
スペルは呟く。神にとっては意味の薄い記号。だが、この家では違う。
「今日はね、ケーキを作る日なんだよ」
夏紀が、まだ完全ではない声で言った。熱は下がったが、無理はできない。それでも目だけは、妙に楽しそうだった。
「……作る、の?」
佳世が恐る恐る聞く。弦音はソファの背から顔を出し、
「そう! 生きてる人間の重要イベントその①だよ!」
「適当言うな」
晴馿が即座に遮る。台所は、いつもより少し賑やかだった。泡立て器、ボウル、粉糖。甘い匂いが、家の中に広がる。佳世は、卵を割る係だった。
小さな手で、慎重に。
「……できました」
殻は入っていない。それだけで、全員が少し驚く。
「上手じゃん」
スペルが言うと、佳世は耳まで赤くなった。
「……ありがとう、ございます」
混ぜる、焼く、冷ます。
完成したケーキは、少し歪だった。
だが、誰も笑わない。
「……ろうそく、立てよう」
夏紀が言い、火を灯す。
揺れる光。白いクリームに映る、小さな炎。
「願い事、していい?」
佳世が聞く。
「いいよ」
「……じゃあ」
佳世は目を閉じる。
火を吹き消す音。
その瞬間、スペルの胸の奥で、何かが小さく鳴った。止まらない時計の中で、
確かに、今が刻まれた気がした。
「……クリスマス、か」
スペルは呟く。神にとっては意味の薄い記号。だが、この家では違う。
「今日はね、ケーキを作る日なんだよ」
夏紀が、まだ完全ではない声で言った。熱は下がったが、無理はできない。それでも目だけは、妙に楽しそうだった。
「……作る、の?」
佳世が恐る恐る聞く。弦音はソファの背から顔を出し、
「そう! 生きてる人間の重要イベントその①だよ!」
「適当言うな」
晴馿が即座に遮る。台所は、いつもより少し賑やかだった。泡立て器、ボウル、粉糖。甘い匂いが、家の中に広がる。佳世は、卵を割る係だった。
小さな手で、慎重に。
「……できました」
殻は入っていない。それだけで、全員が少し驚く。
「上手じゃん」
スペルが言うと、佳世は耳まで赤くなった。
「……ありがとう、ございます」
混ぜる、焼く、冷ます。
完成したケーキは、少し歪だった。
だが、誰も笑わない。
「……ろうそく、立てよう」
夏紀が言い、火を灯す。
揺れる光。白いクリームに映る、小さな炎。
「願い事、していい?」
佳世が聞く。
「いいよ」
「……じゃあ」
佳世は目を閉じる。
火を吹き消す音。
その瞬間、スペルの胸の奥で、何かが小さく鳴った。止まらない時計の中で、
確かに、今が刻まれた気がした。
- 1.「人生」
- 2.「奇跡の星」
- 3.「夏紀」
- 4.「とある隣人は」
- 5.「立場」
- 6.徒花の行方
- 7.「幼女は」
- 8.「笑顔」
- 9.「軸柊奏」
- 10.徒花の行方
- 11.「居場所」
- 12.「弦の音」
- 13.「答え」
- 14.「日常編」
- 15.「悩むものか」
- 16.「歪み」
- 17.「信頼」
- 18.「余命」
- 19.「時歌」
- 20.「日常編」
- 21.「神として」
- 22.「忘却列車」
- 23.「微熱」
- 24.「クリスマス」
- 25.「プレゼント」
- 26.「鳴っている」
- 27.「バレンタイン」
- 28.「日常」
- 29.「誰」
- 30.「戦場」
- 31.「アレス」
- 32.「日常編」
- 33.「破会議壊」
- 34.「徒花の行方」
- 35.「戦の予兆」
- 36.「日常編」