ミュトスは、自分の人生が整いすぎていることをよく理解していた。それを不幸だとは思わない。むしろ、ありがたいことだとも思っている。貴族の娘として生まれ、広い屋敷と穏やかな日々を与えられた。学問も作法も、人並み以上に身につけている。周囲は皆、彼女を「幸運な娘」だと言った。
ただ少しだけ、物足りなかった。
「今日も、いい天気ね」
書斎の窓から庭を眺めながら、ミュトスはそう呟く。手元には天文書。星の名前や配置が几帳面に並んでいる。
読むのは好きだ。知ることも好きだ。だからこそ、彼女は気づいてしまう。
「ここから先が、ないのよね」
人類が安全だと判断した範囲。そこから先は、まるで最初から存在しなかったかのように、語られない。
なら、自分で見に行けばいい。
その考えは、彼女の中ではごく自然なものだった。
夕刻、両親に呼ばれて応接室へ向かう。父は背筋を正し、母は柔らかな笑みを浮かべていた。
「ミュトス」
父が切り出す。
「お前が星に興味を持っていることは、よく知っている」
「はい。とても」
即答すると、母が少し驚いたように目を瞬かせた。
「今夜、紹介したい方々がいるの」
母は続ける。
「天文学者よ。ただし……少し、変わった人たち」
父が言葉を引き取った。
「人類が知ってはいけないとされている事柄を、それでも研究している者たちだ」
ミュトスの胸が、期待で軽くなる。
「……素敵ですね」
「怖くはないのか?」
父の問いに、彼女は首を振った。
「知ることは、きっと楽しいです」
母は小さく息を吐き、どこか覚悟を決めたように微笑んだ。
「なら、案内しましょう」
安全で、整った日々の外側へ。
退屈の向こう側にあるものを、確かめに行くために。
ミュトスはまだ知らない。その前向きな一歩が、星の沈黙を揺らすことになるのを。
今はただ、楽しみで仕方がなかった。
ただ少しだけ、物足りなかった。
「今日も、いい天気ね」
書斎の窓から庭を眺めながら、ミュトスはそう呟く。手元には天文書。星の名前や配置が几帳面に並んでいる。
読むのは好きだ。知ることも好きだ。だからこそ、彼女は気づいてしまう。
「ここから先が、ないのよね」
人類が安全だと判断した範囲。そこから先は、まるで最初から存在しなかったかのように、語られない。
なら、自分で見に行けばいい。
その考えは、彼女の中ではごく自然なものだった。
夕刻、両親に呼ばれて応接室へ向かう。父は背筋を正し、母は柔らかな笑みを浮かべていた。
「ミュトス」
父が切り出す。
「お前が星に興味を持っていることは、よく知っている」
「はい。とても」
即答すると、母が少し驚いたように目を瞬かせた。
「今夜、紹介したい方々がいるの」
母は続ける。
「天文学者よ。ただし……少し、変わった人たち」
父が言葉を引き取った。
「人類が知ってはいけないとされている事柄を、それでも研究している者たちだ」
ミュトスの胸が、期待で軽くなる。
「……素敵ですね」
「怖くはないのか?」
父の問いに、彼女は首を振った。
「知ることは、きっと楽しいです」
母は小さく息を吐き、どこか覚悟を決めたように微笑んだ。
「なら、案内しましょう」
安全で、整った日々の外側へ。
退屈の向こう側にあるものを、確かめに行くために。
ミュトスはまだ知らない。その前向きな一歩が、星の沈黙を揺らすことになるのを。
今はただ、楽しみで仕方がなかった。